29.Sな彼女とドSな彼

午後一時。




一年振りに実結の会社を訪ねた。




付き合う前は頻繁に出入りしていたから


勝手知ったる社内。




特に変わった様子はない。




担当者に挨拶を済ませて


山田と新人が作業に入る。




その隙に実結の部署へ行くと


姿は見当たらなかった。




いつもの席には違う人が座っていて


他に実結のデスクらしき場所もなくて


いないというより気配がない。




実結と仲の良かった子を見つけて声を掛けた。




「舞ちゃん、久しぶり」




「西川さん、ご無沙汰じゃないですか。全然来ないねって話してたんですよ」




「ごめんごめん。忙しかったし、用もないのに来られへんやろ?」




「そうですね(笑)」




動く人たちの姿を追いながら


すぐに本題に入る。




「今日は間宮さんは休み?」




「実結ですか? 実結なら会社を辞めましたよ」




はあ?!




「そうなん? いつ??」




「三月末です」




俺と別れる前?!




実結からは何も知らされてなかった。




「何で辞めたん?」




「さあ? 皆には家庭の事情でって言ってましたけど……」




舞がキョロキョロして声をひそめた。




「お見合いしたって噂があったから寿退社だったのかも」




「お見合い?!」




「噂ですけどね。実結から彼氏の話は聞いた事ないのに早く結婚したいような事は言ってましたから」




会社で俺と付き合ってるとは


口が裂けても言えんかったやろな。



何かを言われたことはなかったけど


社内で他にも深い仲になった子がいる事を


実結は知っていた。




「そうなんや……」




「お相手はどっかの御曹司らしいですよ。玉の輿だなんて羨ましいですよね」




御曹司と結婚?




玉の輿?




そいつと俺を天秤にかけてたんか?




舞の話は衝撃的すぎて


ガンガンする頭のせいで眩暈がした。




「そっか。ありがとう」




「私も早く結婚して幸せになりたいです」






結婚結婚って


結婚せな幸せにはなられへんのか?




だけど


結婚ぐらいいつでもしてやるって


言えない俺は実結を責められない。





一緒にいたいだけじゃあかんねんな。





恋愛は夢、結婚は現実。





あいつの言うとおりやったんやな。












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