噛みつけっ、宇都宮さん! ~北関東の戦いと団結~
六畳のえる
噛みつけっ、宇都宮さん! ~北関東の戦いと団結~
「だーかーら、日光に行けばいいじゃない! こんな気候の良い秋に、いろは坂の
私、宇都宮
「いーや、ウッツンは赤城山の紅葉の見事さを分かってないよ。群馬を華やかに色づかせる、真っ赤なナナカマドの美しさを見せてあげたいね」
「あのね、ナナカマドは日光でも見られます。観光バスでいろは坂を下りていくと、標高と一緒に紅葉前線も移動していくから、上と下で見える色合いが違うの。どう、ステキじゃない?」
「さあてねえ、どう思う、ミットン?」
前ちゃんに振られると、栗色の髪を少し掻きながら、水戸
「……茨城の竜神大吊橋の方が
「あんな最寄駅からバスで40分もかかるところに行かないわよっ!」
しかもバス停から20分歩くし!
関東女子高校の空き教室、地学準備室。
私達3人はここで、いつもつるんでいる7人グループで行く旅行の行き先を決めている。
この秋旅行が終わったら、3年生の私達は受験準備。しばらくはお泊り旅行もお預けね。
「前ちゃんも水戸ちゃんもいい? 『日光を見ずしてケッコウと言うなかれ』 あの日光東照宮を見てもらわないと! 風水、地脈、龍脈、全ての流れを元に場所を決めて建立したの。どれだけのパワースポットだと思ってるのよ」
「まーた始まったよ、ウッツンのパワースポット談義。陽明門の逆柱の話もすっかり覚えたぜ」
「建物は完成したときから崩壊が始まるから、敢えて柱を逆にして『未完成』にしたってやつですよね。宇都宮さん、聞き飽きましたよ」
溜息をつく2人。そ、そんなに話したっけ?
「群馬の
「茨城の
傾向① 私達3人が集まると、いつも北関東3県の対決になる
「……大体、栃木は名産が地味です。カンピョウと
「納豆の茨城に言われたくないやいっ!」
水戸ちゃんの肩をポカポカ殴る。
「ふんっ、栃木にはイチゴだってあるし! 名産じゃないけど餃子を舐めてもらっちゃ困るなあ!」
「まあ私から言わせれば、2人とも地味すぎるね。群馬にひれ伏すがいいさ」
「何よ前ちゃん、群馬は何が名産なのよ?」
「小麦」
「広すぎるわよ! 素材と加工物で戦わせないで!」
傾向② 始めは冗談交じりだけど、だんだんヒートアップしてくる
「……栃木も群馬も、海ないじゃないですか」
「でったー! でましたっー! 水戸ちゃんの海洋至上主義! なんだいなんだい、確かに栃木県民は毎年
「そうだそうだ! 私は茨城に借りを作りたくないから日本海の方に行ってるぞ!」
傾向③ 決定的な武器を出されると同盟を結んで2対1になる
「言っておきますけどね、宇都宮市は回転寿司への支出金額が全国1位なのよ! 餃子屋より回転寿司屋の方がお店多いんだから! どう、もはや海の子でしょ!」
「ウッツン、それは海に憧れてるだけ――」
「あー、聞こえない。何にも聞こえませーん」
「知ってますか前橋さん、昔栃木って『餃子の本場 宇都宮』って宣伝してたお店とかあったんですよ」
「ププッ、本場は中国だってのに」
「うるさい!」
それを言うな! 私もちょっと変だと思ってたんだ!
「あとさ、富岡製糸場が世界遺産になったからって、なんか最近、群馬も調子に乗ってるわよね」
「まあまあウッツン、
「そこ前橋じゃないんだ!」
確かに高崎の方が発展してる感じあるけど!
「で、結局どこに行くのよ? 日光江戸村?
「地味に茨城と群馬にも詳しいですよね、宇都宮さん……」
当たり前じゃない。戦うためには敵を知ること!
「なあなあ、話変わるけどさ」
前ちゃんが手で来い来いと合図をして、固まって座っていた3人は更に小さな円になった。
「私達3人も、最近だいぶオシャレになったよな」
「……まあね。佐野のアウトレットも結構イイ感じだから、買い物困らないし」
「他の4人もお洒落だけどさ。ぶっちゃけ、大宮さんと柏さんの2人になら、なんか勝てそうな気がする」
「確かにそれはあります」
傾向④ 埼玉と千葉の寝首を掻くくらいなら出来る気がしている
「なあ、3人で協力してさ、大宮さんと柏さんを出し抜こうぜ。そしたら7人のグループカーストも少しは変動が――」
ポンッ!
悪い顔をしている前ちゃんの作戦を、水戸ちゃんのスマホが遮った。
「あ……」
「どしたんだ、ミットン」
「赤坂さんと青葉さんからです。『あんまり遠いと行くの大変だから、むしろ都内の良いホテルでお泊り女子会にしない? 浮いた交通費分でケーキバイキングとかつけて!』」
「……ああ、うん、それでいいんじゃないかな……なあ、ウッツン」
「……そうね、それが一番オシャレだしね……」
傾向⑤ 東京と神奈川にはひれ伏すのみ
こうして、結局3人の会議は無意味なまま終わり、寝首を掻く作戦もなくなって、解散となった。
「あーあ、栃木だって良い街だと思うんだけどな」
前ちゃんも水戸ちゃんも帰った地学準備室で1人、お昼のデザートを残しておいたとちおとめを頬張る。みずみずしい果汁と甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、紅色の幸せに包まれた。
「秋だから日光が良かったなあ。戦場ヶ原だって木道が整備されてるからハイキングにピッタリだし、
独りごちながら、JR日光線の駅一覧をスマホに表示して指でなぞっていく。
「日光まで行けないってのは……」
終点、日光駅の手前は、
……そうね、イマイチってことよね。
傾向⑥ みんな、自分の街が大好き
噛みつけっ、宇都宮さん! ~北関東の戦いと団結~ 六畳のえる @rokujo_noel
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