第5話 変人の巣窟へ その2



 部活棟というのは、この大学の部活及び公認サークルの部室やトレーニング施設などが入っている校舎の事だ。つまり、部活動やサークル活動を行っていな者にとっては大学生活に全く関係のない場所である。


 とは言っても、俺自身は他の団体に所属している事もあり、その存在は知っている。



「何処まで行くんだよ」


「え? 音研の部室だけど?」



 我が大学は広大な敷地を持つ。そのキャンパス自体が一つの街であり、その中には各学部の講義を行う教室棟、上回生になるとお世話になるであろう研究棟や食堂、カフェ、コンビニからショッピング施設までありとあらゆる施設が存在している。


 勿論、その一つ一つが巨大な建物で、部活棟もそれにあたる。一般的に部活棟と言われて想像するのが、中学高校の離れにある校舎位の大きさの建物だろう。しかし、我が大学の部活棟は最早、中学高校の校舎全体、いや寧ろ小さな大学のキャンパスくらいはあるんじゃないだろうかと思うくらい広いのだ。



「本当にこっちなのか?」


「そうだよ。藤沢はあんまりコッチに来た事なかったけ?」


「そうだな。入り口の方とは、……何と言うか、雰囲気が違うな」


「まあこの辺は空の部屋ばかりだからね〜」



 通りで人気がない訳だ。


 俺が所属する団体も部活棟の入り口の方にある為か、あまり奥の方まで行った事はなかったのだ。入り口の方は綺麗に掃除され清潔感があるので、この棟の全てがそうだと思い込んでいたのだがそうじゃないらしい。と言うか、正直に言うと薄気味悪すぎる。天井の照明も蛍光灯が切れかかっているのか、付いたり消えたりしてるし、そこら中に蜘蛛の巣があって、ゴミも散らかっている。



「まるで廃墟だな……」



 思わず口に出してしまったのだが、入り口と奥でこれ程違いがあるのも不思議なのだ。まあ、騒音問題とかなんやらで、隔離されているのだろう。大凡の予想はつくが本当に自治会に嫌われてるのだろう。




 ふと窓から部室棟の中庭が見えた。先程まで一階を歩いていた筈なのに、何故か今は三階にいるらしい。

 これが我がキャンパスの不思議な所で、我が大学の立地は山間部にあり、キャンパス内の建物の殆どが斜面に建てられている。その為、高低差が同じ入り口から入っても建物によって、三階だったり地下一階だったりと方向音痴でなくても、その感覚を混乱させる造りになっている。


 そして、今知ったのだが、部活棟の入り口は三階部分にあるらしい。この大学に来て、もうすぐ1年経つと言うのに全く知らなかった。


 そんな事に関心しながら、窓の外の中庭を何となく眺めていると、余り関わりたくないような光景が目に入って来たので、そっと視線を外した。


 すると鮫島もその光景に気がついたのか、窓の外へと視線を送っていた。っと突然、窓を開け始めた。



「……先輩方〜おはようございま〜す」



 窓を開けたと思えば、鮫島は大声で目下の集団へと挨拶をし始めた。



『サム氏。今は神聖な儀式の最中であります。お静かに願います』



 その集団の一人が顔を上げ此方に声を掛けて来た。他の連中は膝を付き、頭を下げ祭壇と思しき石舞台の上の『何か』に祈り? を捧げている様子だった。



「あ。すいませ〜ん。頑張って下さいね〜」



 そう言うと鮫島は窓を閉め、此方を振り向いた。



「先輩か?」


「そう。取り込み中だったみたい」



 誰がどう見てもそうだろう。寧ろあの状態のあの集団によく声を掛けれるなっと俺は心の中で呟いた。



「やっぱ、音研って変わった人が多いな」


「そう? あの人達はまだ普通な方だよ?」


「……」



 ちょっと待て、今ので普通なのか!? 俺はもうこれ以上のカルチャーショックには耐えれそうにない。


 ここに来て、早くも鮫島の頼みを受けた事を俺は後悔し始めた。


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