第三週目「お兄ちゃんとラジオとへび花火」


「今日は何も言わないんだ」


 砂漠の世界で、無言のままベッドに座り右手で頬杖をつき私を見ている彼女。

 浴衣のような入院服を着て、頭と左腕に包帯を巻きつけた彼女。

 ほんのちょっと前の私。

 

『まあね』


 馴れ馴れしく話しかけてくる。

 以前の私はこうだったのだろうか。

 それとも私が思っていないだけで私が接している他の人は同じように思っているのだろうか。

 私も慣れたもので、丸椅子に腰を下ろす余裕が出てきた。

 

“言いすぎたかなって思う節もあったわけ”

「いきなり殊勝」


 思わず手を口に当ててしまう。

 

“ていうかさ、あんたはショックじゃないの?”

「え?」

“お兄ちゃんのこと”

「それは、ショックだけど」

“私にはお兄ちゃんしかいない、って感じだったのにね。お兄ちゃんだけは裏切らない、助けてくれるって”

「それはあなたのこと?」

“私は思ってたよ、思ってたでしょ?”


 少し意地悪な私の質問に彼女は真摯に答える。

 

「今でも、思ってるよ」


 彼女の言葉は私の言葉だから、答えが同じになるなんてわかりきっている。

 

“どうだか”

「まあ、あっけないな、とは思っているかも」

“今から玉砕しに行く?”

「まさか」

“だよね”


 私と彼女は笑った。

 きっと同じ顔だっただろう。

 これはひょっとして打ち解けたのか。

 

“で”

「うん?」

“実際どうなの? ポチ”


 意趣返しとばかりに彼女が聞く。

 全然打ち解けてなんかなかった。

 

「それは……うーん、ノーコメント」


 こっちはこっちでまだまだ難題が山積している。

 

“言わなくてもわかるけどね”


 イヒヒと変な顔で彼女は笑った。

 いや私はこんな顔なんて絶対しないぞ、うん、しているわけがない。

 

「だったら聞かないでね」

“ヒーローには程遠い?”

「そりゃもちろん」

“だよね”


 私も彼女もさも当然といった顔で応える。

 

“じゃ、私も寝ようかな”


 彼女が背伸びとあくびをした。

 私も釣られてあくびをしてしまう。

 

「うん、おやすみ。私も」

“バカ、あんたは起きるんだよ”


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