第一週目「七夕と短冊とロケット花火」
『
砂の。
砂の上を、歩く。
だだっ広い砂漠を、歩く。
丘もなく、オアシスもない。
ただ薄い橙の砂が広がる世界だ。
丸く大きな太陽が自らの存在を誇示するように燃え盛り、熱く焼けた砂は何の防御もない足をくるぶしまで焦がし、ノースリーブから伸びた腕をひりひりとさせる。
喉はカラカラで張り付いた舌を飲み込んでえずき、ゆらゆらと歪む景色を取り込む目は奥の底まで錐で刺されたかのような痛みがする。
眠る前に世界の絶景を見て回るテレビ番組を観ていたからだろう。
ここは私の夢の世界だ。
私にはどうやら妙な癖があるらしく、夢を夢と認識することが多い。
明晰夢、というのだっただろうか。
その夢を自由に扱えるとしたらきっと便利だろうと思うこともあるけれど、そこまでは無理みたいで、夢とわかっていてもそれを改変する力まではない。
せめて嫌な夢を見続けないように、夢からドロップアウトすることができるくらいだ。
その点では現実よりはまだマシだ、現実はドロップアウトできない。
だから帽子があれば良かった、と今思ってもどうしようもできない。
さて、この夢からは逃げるべきか。
てくてくと同じ景色が続く世界で、私はぼんやりと考える。
まだきっと大丈夫だ。
肝心なところで楽観的な自分。
それは長所でもあり短所でもある。
それは、危険だとわかっているのに、下の景色が観たいから断崖絶壁に立とうとするようなものだ。
そう誰かに言われた気がしたけれど、相手は思い出せそうにない。
この世界には私しかいない。
私しか、いない。
そもそも現実にだって私以外の人間が存在しているのだろうか。
誰が私に関係しているのだろうか。
関係していない人間なんて、存在していないも同じなのではないか。
なんていう子どもじみた考えを持っているわけでもないのに、結局私は一人ぼっちなのではないかと自嘲したくなった。
そうしたくなったのは人影が見えたからだ。
ゆらゆらと陽炎のように揺れ赤い太陽を背にして人影は手を振っていた。
とても見慣れた笑顔だった。
張り付いた、意地の悪い笑顔だ。
それは私が知っている人物だった。
このまま歩けば間もなくその人物と出会ってしまう。
速度を変えることも方向を変えることもできない。
私の意思とは正反対に私の二本の足は等速直線運動をする。
私は容赦なく夢のブレーカーを落とした。
』
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