第4話

人間が、吸血鬼を狩る。その方法はいくつか存在はしているが、完璧に実践出来る人間はいまだごく限られた者だけだ。

まず、一般的な人間より優れた身体能力を持つ吸血鬼と互角に戦うためには、かなりの瞬発力とスピード、反射、持久力、そして急所を正確に捕らえる技術が求められる。

彼らが苦手とする純銀で作られた刃や銃弾を、彼らが特殊な能力を発動する前に脳天及び心臓に叩き込む。

それらは長らく、ヴァンパイアハンターと呼ばれる者たちのみに受け継がれてきたことだった。


しかし今、ジャノメは孤児院『スノードロップ』にほど近い裏路地で、強度を保ったまま極限まで薄く研ぎ澄まされた純銀の剣を腰に携えていた。

コートの胸元には、同様の銃も忍ばせている。

こちらで武器は用意するから吸血鬼討伐に協力して欲しい、と初めて依頼を受けたのは一年ほど前だった。

人間の暗殺に関してはあらゆる事態を想定して動けるジャノメでも、吸血鬼相手となると勝手が違う。


『そうだな、だったら……しっかり人も殺せるやつを作ってくれよ。そうしたら力を貸してやる』


そう条件を付け足した時の、ハンター達の怯えた顔はなかなかに滑稽だったが、結果として彼らは十分に役割を果たしてくれた。

持ち手の感覚など細部にこだわって誂えた二種類の武器は、今や他の道具を必要としないほどに使い勝手が良く、ジャノメの手に馴染んだ。

そうして以前と変わらない、むしろ性能の増した武器を手に入れたジャノメは、吸血鬼との対峙においても対人暗殺と変わらない成果を上げた。

彼らも人間と同じようにものを考え、個々人の能力差も存在する。ならば事前にターゲットの情報さえ熟知しておけば、先手を打つことは難しくない。

ある時は自らを餌として囮にかけ、ある時は闇に紛れて奇襲をかける。

経験を糧に独自のノウハウを築いたジャノメは、吸血鬼のコミュニティにおいても少しずつ知られる存在になりつつあった。


「ターゲットは、間もなくこの路地を訪れます。仲間が勧めた葡萄酒が効いていれば、仕事は……あなたの腕であれば容易いことかと」


ハンター達の話によれば、標的とされている吸血鬼はもっぱらこの界隈を狩場にしているらしい。おまけに……彼が食糧として選ぶのは、性別や年齢を問わず容姿の優れた人間ばかりということだった。


「顔を隠す手間が省けるってのは、好都合だな……」


路地の片隅に陣取り、ジャノメは静かに標的を待つ。

血筋が純血に近いほど見目麗しいと言われる吸血鬼は、人を魅了して毒牙にかける能力を有する。

そのため彼らは自分の美貌にある程度の自信を抱いており、逆にいかに整った外見であろうとも人間と見れば下等な存在と認識する。

そこに油断が生まれる、というのがジャノメが経験から得た定石のひとつだった。

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