第10話 折れない心
先生が両親を殺した・・・・
えーと、まっていきなりそれはないんじゃないでしょうか?聞き間違いであってほしいと思う。園長先生は、わたしをみてとても悲しそうな顔してる。とても言い間違いをしたわけでもなく、聞き間違いでもない雰囲気が、わたしと園長先生の間に流れている。
「これから先を聞きたいというのであれば、私はすべてあなたにお話しします。木下弥栄さん」
そういうと、園長先生は席を立って、向かいの部屋にいますと一言、声をかけて部屋を出て行った。わたしはぽつーんと誰もいない部屋に取り残される。あー考えがまとまらない、どうすればいいの?なになに?頭の中がぐちゃぐちゃになる。テーブルにある園長先生が出してくれたお茶に手を伸ばし、ひと口入れるけど、喉を通らない・・・・
「ぷはっ・・・・」
思わず、そのまま湯呑にお茶を戻してしまった・・・・えっと何んだっけ、園長先生の言ったことをもう一度思い出そうとするけど、園長先生の言葉がリフレインするたびに否定が喚き散らしいる。そんなわけないってそうあってほしくないと・・・・両手で顔を覆い、一生懸命、先生の顔を思い出す。
「・・・・先生・・・・うそでしょ・・・・」
頭の中の先生の顔は笑顔で、何も答えてくれない・・・・小さく、呟く・・・せんせぇ・・・わたし・・・
小一時間くらいたったのかな・・・・時間の感覚がまったくない・・・わたしは、全く動けずにいた。さっきより、少し落ち着いているのか、ただ感覚がマヒしているのか、現実を受け入れれないでいるのかな・・・・あは・・・は・・・乾いた笑いが漏れる。
「せ・・・せん・・・せぃ・・・」
ただただ、机を眺めるだけ・・・あれぇ・・・なんでわたしここにいるのかな・・・
精神が疲弊して、自分がいる場所の再確認をしはじめた。
5時間前
校長先生の報告を終えた次の日、朝早くから先生のお家にいた。切符代やらを出すから一緒に駅に行こうと誘ってもらったからである。わたしは先生にくっついてはキスを繰り返し、なかなか先生から離れないし、駄々っ子のように、甘えては困らせてた。
「せんせぇ~すき~~~」
先生の過去を知れるという事で少し気持ちが上がっていたのかもしれない、普段出さない声で甘えてる。
「弥栄、時間だ、いくぞ、 乗り遅れる」
私がキスするもんだから 言葉が片言になっている。ほんとはエッチなこともしたかったけど、せっかくのメイクが落ちてしまうからキスだけで我慢。
「はぁい・・・」
それでも先生から離れず、くっつきながら歩く。
「弥栄、歩きづらいって」
ほんとにそうなんだけど、先生の匂いを少しでも~~なんて思うと、そんなのお構いなしだ。うふふふ・・・・といって先生の困らせることの喜びを表していた。
「出口まで~~~出たら普通に歩くから~~~」
先生もそれを聞くとあきらめたかのように、わたしを引きずりながら歩いていた。玄関を出るころには先生は、息を切らしてた。
「ごめんなさい 先生、ちょっと調子にのりました」
と残念な顔をしているんだろうけど、先生はわたしのほっぺを握ってきた
「顔が笑ってるぞ・・・弥栄」
「いたたったた・・・ご・・・ごふぇんなひゃい」
いや、先生、マジでいたいから~~~~~やめて~~~~~~
「はぁはぁ、痛いですよ~~先生」
頭に少し重力を感じるくらいの手の平がのっかってきて、思わず声をだしそうだったけど、我慢して先生の撫でる手に酔いしれてる。
「悪いな、ちょっと強かったかも・・・・」
その優しい声色でわたしは、胸の高鳴りが抑えられない、先生が好き、わたしは先生が好き、そう何回も心の中で唱えてる。今だけじゃない、2年とちょっとずっと唱えてきてる。揺らぐことがないこの気持ち、誰にも私の気持ちを折ることができない、
と この時のわたしは自信に満ち溢れてた。
マンションを下りるとタクシーが止まっててそれに乗り込み駅に向かってた。タクシーの中では、誰かに見られることはないだろうけど、控えめに先生の手を握ってた。暖かいな、それに大きいなやっぱり、ゴツゴツして血管も浮き出て、男らしい・・・
「弥栄、緊張してないのか?」
「・・・・してないっていえばうそですけど、先生が今いるから、それに先生といると自信がもらえるんです」
先生はこちらをみて、なんだ自信って?と聞いてくる
「先生を好きということを、この揺らがない想いに嘘はないって」
先生は少し寂しそうに、嬉しそうなのかな?どちらでも受け取れそうな顔をしている。
「・・・私はあの時いったことを覚えているか?」
どのときだろうと思いながら、考えていると先生はわたしの握ってるいる手を強く握ってきた。
「私の過去を聞けばキミは悲しませることになる。泣かせてしまう事になるって」
先生はうつむき、懺悔をするかのように目をつむる。
この時の先生はとても悲しそうだったな~ わたしは先生のそんな顔がみたいんじゃない
「先生、今言ったこと、今まで言ったこと、忘れたんですか?じゃあ少し言い換えます」
手を強く握り返し、そして空いている手を先生の顔に触れる。
「わたしは先生のどんなとこを見ても逃げたりしません。先生といるとわたしは自信がもてるんです。この先何があっても一生先生の傍にいるって」
この時のわたしはきっと笑ってたはずだ、絶対に・・・・
タクシーが、駅に着き、切符売り場にいって切符を買い、電車がくるまで10分か、もう少し先生といたいのにな~と思いながら、タクシーを下りてから先生は、少し無口で、まるで泣き出しそうな顔をしているかのように、そして何かを告げたくて、黙って親の後をついてくる子供のように感じてた。
お互い、プラットホームのイスに座り、静かに、目の前の光景を見ていた。先生がこの時何を考えてるのかわからなかったけど、黙ってることに不安はなかった。だってわたしは先生が好き、絶対両想いになってやるって思ってた。
「先生、今日も快晴ですよ~~暑くなりそうです」
先生は黙って、空を見上げてた。わたしはそれだけでよかった、
下を見ても仕方ない
先生と初めて出会ったときに先生が教えてくれた
先生はわたしとの出会いなんて忘れちゃってるみたいだけど、わたしは忘れない
ジリリリリ・・・・
電車がくる音がした
「来ますね・・・・」
「・・・・ああ」
先生は、空を眺めていて涙をこらえているかのようだった
だからわたしは、言った
「先生、遠距離になるわけでも、一生会えなくなるわけじゃないですよ」
先生は何も言いかさないけど、先生の前にたち、顔を両手で挟んで、わたしは周りを気にすることなく先生の口にキスをした
電車がホームにつき、ドアのあく音が聞こえる
「わたしは必ずあなたのもとに帰ってきます」
そういって私は、電車に乗り込んだ
意識が覚醒していく・・・・
わたしの中の灯が
小さく小さくなった灯が、徐々に徐々に・・・・
はぁ・・・・
はぁ・・・・すぅうぅうううううう・・・・・
呼吸をする、そうだ
そうだ
ばちぃぃぃん
わたしは、両頬を思いっきり叩いた
音が反響する中、わたしは自分の中の決意を改めた
わたしは約束した
「わたしは必ず先生のもとに、先生の隣にいるんだ」
「折ることなんてできない、この想い
誰にも
先生にも
先生が好きな気持ちは折らせない
こんなことで折れない
ハッピーエンドですよ 先生」
そういってわたしは、扉をあけて、向かいの部屋のトビラをノックする。
「聞くになったのね?」
園長先生は、少し悲しそうで、少し嬉しそう、先生と似た表情を見せる。
「はい、すべてを聞かせてください」
その愛を受け入れて… 藤 @km19780420
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