第5話 深愛

 この厚く広がる鉛色の空は、どれだけ雨が降ればなくなるのだろうか。

しょうもない事を思いながら見慣れない窓には、激しく降る雨が叩きつけられては、弾かれて残った水滴は下に垂れていく

 そんな光景を眺めて、憂鬱さを隠すことができない。

「雨雲よ・・・・私は今日ほどキミの存在が疎く感じたことはないよ」

などと、現実逃避をした恨めしい感想を空に向けて話しかけていた。


 本来、この時間は私はすでにお風呂に入りビールを片手にテレビをみて和んでいる時間だ。

そうなるはずなのに…。

 なぜ、私はコインランドリーのソファに腰をかけて、轟音のような鈍い音をしながら右回りをしたり、左回りをしたりと忙しそうな乾燥機を眺めていた。

 コインランドリー内には何人かお客がいるがそれぞれ椅子に腰をかけて、スマホや雑誌を眺めて乾燥機が終わるまで時間を潰しているみたいだ。

 あいにくと私は、急いでコインランドリーまできたので、財布一つしか持ってきてない。

あと20分近くは退屈してしまう状況に、どう時間を潰せばいいか少し迷うとこだ。

雑誌でも読んでいれば気が紛れるのであろうがそうはいかない理由がある。


 はぁ・・・


と一息ため息をつき、私が持ってきた洗濯物が入った乾燥機の扉に疑問を投げつけた



「どうして こうなった?」


――――――――――――       

―――――


――約1時間前



 校門をでたとたんに急激に降り出した雨の中を傘を持たない木下と一緒に下校していた・

この梅雨の時期、いつ雨が降り出すかわからないにも関わらず、傘を持ってきていなかったのだ。

 意図して計画的に、そうなるかのようにしたたかに彼女は朝からこうして、相合傘をする事を目的にやっていたみたいだ。

まったくもって納得ができないが、仕方なかった。

 一緒に傘に入り下校する姿が楽しそうで、嬉しそうにされたらいくら私でも根負けしてまう。



 私は、彼女を家まで送るつもりでいたので、そのつもりで聞いてみた。

「家はどっちなんだ?送るぞ?」

「あーいいですよ 先生の家まで送ってもらってそれでその傘を借りて帰りますから」

そう言い返されて、分かったなどと言えるわけもない。


「いやいや 何を言ってる家まで送るから」

「結構遠いので申し訳ないです。」

 彼女も引くつもりはないらしい・・・・


「私の家まできて、家に帰るならもっと遠くなるだろう 私の事は気にしないでいい」

「えーそうすると私は先生を家に上げないといけませんよ?」

 飛躍すぎてわからないが、なぜ私は彼女の家に上がる必要がある


「送ってもらって それで終わりなんて冷たいじゃないですか。そんなのお茶のいっぱいくらい出しますよ。木下家はお礼を重んじるんです」

「今度、缶コーヒーでも奢ってくれればいいよ」

 もちろんそのつもりはない 彼女を納得させるための詭弁だ。


「いえいえ 今度と言わずお茶くらいすぐに用意できますし 私の家は裕福じゃないので奢るとか無理です」

「どうしても送られたくないんだな」

 肩を落として、嘆声が漏れた。


「そんなことないですよ 送ってもらえればそれだけ一緒にこうして傘に入れるじゃないですか~」

 彼女は嬉しそうな顔で、さらに一刺し指を頬に当てて

「私の家まで送ってたら もしかしたら誰かに見られるかもしれませんよ?」


 さっきは誰にも見られないと言っていなかった?

そういい返そうかと思ったが、これ以上彼女と押し問答を続けても仕方ない。

どちらか選ぶしかないのだろう。


―1.誰かに見られてもいいから彼女の家まで送りお茶をごちそうになる

―2.私の家まできて 傘を貸す

―3.コンビニで傘を買いそのまま渡す


 この三択が浮かんだもの、2しかない気がした。

1だと危険がある上に彼女の親に会う可能性がある

3だと彼女は受け取らなそうな気がする。

わざわざ買って渡しても家まで帰り傘が増えて邪魔にしかならないだろう。

私に返されても困るからなぁと思い、結果2番だ。


「わかった 私の家まできて 傘を借りてくれ」

 仕方なさが隠せないが…

諦めた。

彼女は意外と諦めが悪い。

…わかってると思ったが再確認された。

「うふふ」

 彼女は、何も言わずに笑顔で勝利宣言をしていた。


「帰りにちょっとコンビニよるぞ メシを買わないといけない」

「はい お礼にごはんでも作りましょうか?」

 普通に切り返されたので 助かる なんて思ってしまったが

いやいや…

上がるの?なんて思ったが…


「残念ながら 私の家には 食器類はコップしかないんだ」

「えー 自炊しないんですか?」

 まぁ独身男性なんて 大概、外食かコンビニの中食じゃないか?と思ったが私はこの方包丁すらもったことがない。

そんなことにお金をかけるつもりもなかったし、きっと食材使い切らず腐らせて持ったないとことになっているだろう。


「しないな ずっと昔からパンや弁当でやり過ごしてきたから」

「今度作ってあげましょうか?」

 あー 上がる気だ 上がる気満々でいる。


「私よりも、年の近い男性に作るかもしくは 親に作ってあげなさい」

 私に尽くしてどうするんだ。

まったく・・・・苦笑が隠せない。

「えー親には毎日作ってますし、年の近い男性はいませんが、男性という部分では作ってあげたい人はいるんですよね」

 彼女は、悪戯に小悪魔的な笑顔が見える。

作る気満々だ 希望的な意味じゃない 実行する気でいる。 


 どういえば 彼女が納得してくれるのか……

 対応に困って黙っていたら彼女は私のスーツの端をを引っ張てきた。

「大丈夫です。押しかけ女房みたいなことはしませんよ~ ちゃんと許可をもらうつもりですから」

「ああ ついでにその許可を取るのやめてくれないかな?」


 彼女は何も答えず、ただ私を見て舌を出してきた。


ずるいな


そう 心の中で呟いた。


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