第4話 真っすぐに②

受け持ちクラスのHRを終えて 職員室に戻ってきてた

1限目からは授業がないので 自分のクラスの生徒の中間考査の結果を確認していた

 全体的に見れば 平均より上を取れているのだが やはり数名は平均を下回る生徒がいた

その一人が 木下である 彼女は前回テスト比べると やはり下がっていた


「・・・・・ふむ」

 原因を考えてみたが たまたまって可能性もあるし  ほかに思いつかないな

うーん うーん と うなっていたのか 現国の先生に声をかけられた


「はい 先生どうぞ」

「あ どうも ありがとうございます」

 お礼を一言い 湯呑に口をつけた うまい なんて感想を心でつぶやき


「どうしたんですか? 呻っていましたが・・・・」

「え・・・ ああ 声に出ていました? お恥ずかしい」

 珍しかったのか 心配だったのか わからないが

まぁ 無下に話を終わらせるのも悪い

お茶も差し入れてもらってる


「いえ まぁ うちのクラスの生徒なんですが 中間考査で平均以下の生徒のことを考えていたんですよ」

 特定の生徒をあげるわけにはいかない 


「なるほど 木下ですか 彼女は 2年生までマジメだったんですけどね~」

 こちらを見ながら、湯呑に口にしてさらに話を続けてきた

「3年になったら いきなり 髪は染めてくるは タバコの件で 指導されるわ 少し驚きましたよ」

「まぁ先生が 指導してくれたおかげで 髪も切り 黒く染めてきましたけどね」

 わはは と笑い さすがですな先生なんて うんうんと頭を上下に頷いている


 2年までマジメ? ふむ たしかに 去年は見かけなかったな あんなにきれいな金髪なら目立って当然だ

 それに木下の名前と顔は知っていた

現国の先生がいうように不良と呼ばれる部類ではなかったはず・・・・

記憶が曖昧というか 他人に興味など 持たない私にはうろ覚えだ。


「しかし よく髪を切らせましたよね 女性なんで嫌がるかと思ったんですが」

 現国の先生は腕を組みながら  顎に手をやり不思議そうに 聞いてきた


「え・・・えっと・・・・あれは彼女が自分で切ってきたんですよ」

 嘘つくわけにもいかない 子供がやったことを大人が見栄をはるなんて・・・


「そうなんですか 教育指導の先生 すごく 先生を褒めていたのでてっきり先生の指導かとおもいましたよ」

 お互いに苦笑し 何とも言えない感じだ


「さすがに私も 女性に髪を切れなんて言えませんよ」

「まぁでも 結果的に 先生が指導したことで 自分で反省して切ってきたわけですから結果的にオーライではないですか」

 わはは と また愉快そうにしている


 なぜ彼女は 三年になってから そんな 曲がった方向に進んだのだろうか?

成績が下がったのも 同じ原因だろうか?



 終業ベルがなり 現国の先生も それじゃ と一言いい席を立つ

私もお茶のお礼を再度言い 次は授業があるので 木下の資料を閉じ

職員室をでた




 結局 仕事が終わるまで 雨は止むことなく 降り続いた

重い足取りで いつものように コンビニで弁当を買った ついでにビールも・・・・


 風呂に入り ソファーでくつろぎ テレビをつけた

 ちょうど 天気予報をやっている どうやら 明日の午前中は 降水確率が低いようだ まぁ あてにはならないのだろうけど


ビールを一口のみ 


『なるほど 木下ですか 彼女は 2年生までマジメだったんですけどね~』


 現国の先生の言葉 浮かんできた

あれから、何かと忙しかったせいか 彼女と話すことはできなかった 朝の事もあったせいか 話すにも少し躊躇してた気がする

 そのせいなのか 無意識に 彼女の事が気になった



「2年まで真面目だったのに 3年になったら 髪を染め タバコか・・・・吸ってはいないけど・・・」

 まぁ1ヶ月しないで 髪は黒くなり短くなったのだから 不良の類ではないだろうと思うが


「テストの点数は下がった さて なにが原因なのか・・・・」




『ねえ 先生 個人授業してください』




 ・・・・・まさか




 これは いくらなんでも な・・・・




翌日


「天気予報当たるもんだな」

 とちょっとした感心して 空を眺めていた 昨日と違い 鉛色の空が広がる中に 青い空が覗いていた

まあ午後から雨みたいなことを言っていたので傘はもってきてはいるんだけど

やはり 雨と違い 通勤をするのにも気持ちが滅入ることはない



「先生」


 気持ちよく通勤してるんだけど と思いながらも声がした方向に目をやる


「おはよう 木下 今日は雨は降っていないぞ」

「先生 何度もいうけど 人を見て態度を変えないでくださいよ 失礼ですよ」

 誰のせいで 昨夜は悩んで 考えなくてもいいこと考えて 気が付いたら 0時を過ぎて 少し寝不足だ

 私の気持ちがわかるなら 汲んでほしいほしいぞ

と そんなことを考えていたら


「うーん」

 彼女はうなりながらも私を見つめてくる


「もしかして 私ですか? その元気のなさは」

 声色は普通なのに 顔が笑ってる


「わかってるなら 気持ちを汲んでくれ」

 思っていたことをいってしまった つい・・・ 手遅れ


「ふふ 先生 私の何に悩んでたんですか~~? なんでも答えますよ~~~♪」

 寝不足で頭がまわらなかったのか わかってほしかったのか どちらかわからないが・・・・いや・・・失言だ

 さっきと違い 声色からも 顔からも 喜びに満ち溢れている


「あー 聞かなかったことにはしてもらえないだろうか?」

 無理だろうなぁ と 思いながらも 懇願してみた


「いえいえ ぜひぜひ 聞いてください 答えられることは なんでも答えますよ♪」

 さっきとちがって 制限がついたぞ と思いながらも どこまで聞いていいのかが気になる


「どこまで聞いていいのだ?」

 なので聞いてみた


「そうですね~~ 体型の事はだめで~ あー 私まだ処女ですくらいまでならいいですよ?」

 朝から何を言ってるのか 理解ができない 言葉がでない

「・・・・」

 思わず さすがの私も 引くぞ


「先生に 私の秘密を少しくらい 教えてもいいかなって 聞きにくいでしょう?」

 何事もなく 言ってのけてますけど・・・・この子・・・・


「いや 知る必要ないことだ まぁ いい」

 流れだ 聞いてみるか

「木下はなぜ 髪を染めていたのだ?」


「先生の気を引くためですよ」


 なんのためらいもなく 言ってのける



 昨夜 悩みに悩み そんな 気がしてた


「テストの点数も そうなのか?」


「ええ そうです 私は先生の気を引くためなら なんでもします」

 そして 声のトーンは明らかに変わっていた 先ほどの 明るさがどこにいったのか


「隠さないんだな」

 昨日の朝も 彼女は 真っすぐに伝えてきた言葉に真実味が増していく


「・・・・すぅ・・・・ はぁ・・・・」

 彼女は 深呼吸をして 私の正面に 移動してきた



「私は 先生が 好きです  その想いに嘘はつくことはしません 正直に先生と向き合いたいです

 先生の隣にいたいと 常に思ってます」


 そして 彼女は 右手の手のひらを 私の口に当ててきた

かすかに 震えている気がした


彼女は笑う


「こんなとこで 吐かないでくださいね」


 

彼女の手を払いのけようかと思ったが せっかくだ そのまま握り



「また 介抱してくれ」




「じゃぁ お礼は先に 前売りしてください 今日一緒に帰ってください」



「・・・わかった」


 彼女の真っすぐな気持ちに 少しでも答えれるなら

すべてを答えることなんて、私にはできない だけど・・・・



 今は 彼女の気持ちを 大切に 受け止めてみようかと思った






 放課後

 天気予報は 外れたっぽい? と思いながら 午後から雨が降るみたいなことも言っていたが

一向に振らない 空を見ると 夕陽焼ける 雲のじゅうたんが 広がっていた


 私は 教員出口から 生徒の下駄箱の入口に向かって歩いていた

ちょうど 彼女の姿が 見えた どうやら タイミングあったらしい


「あ 先生 お待たせです」

「いや 私もちょうど来たとこだ」


 彼女の顔を見やると、笑みがこぼれている 何かいいことがあったのかな?


「なんか カップルみたいな 会話ですね」

「・・・・」

 ほんとに 時と場所を選ばないな・・・・誰かに聞かれたらどうするんだ

幸いに誰もいないが いないことを理解して言ってくれてると信じたいと思う


「雨 降らなかったですね~」

「ああ まぁ 曇ってるから 降り出す前に帰ろう」

 彼女もそれに賛同し 一緒に校門を抜けようと歩いてると


 雨が激しく降り出した 前ふりもなしに 激しく降り出した

 私は急いで 傘をさし 彼女の傍に向かった


「おいおい いきなりだな・・・」

「ですね~」

 興味もない 返答だ


「傘を今のうちに さしなさい」

「このまま 入れてくれないんですか?」

「ダメです」

 ほんとに遠慮がない 私に教師をやめてほしいのかと疑うレベルだ


「でも 私 傘持ってきてないですよ?」

 さも あっけらかんと 何を言ってる 梅雨で 天気予報も 午後から雨だって言ってただろう

見てるのかわからないが・・・・


「持ってきてないって なぜだ?」

「えー 降らないかな~って」

 そんな言い訳が通るとでも思ってるのか?


「ないものはないですからね~ だからいれてください」

「下駄箱に忘れもの傘があるから 借りてこい」

 まだ学校を幸いにも 校門を出てすぐで目と鼻の先だ


「えー 先生は人の傘を勝手に借りてこいっていうの?」

「そうだ 同じ傘で帰ってるとこ誰かに見られたら どうするんだ」

 教師やめさせたいのか・・・・やはり・・・


「これだけの豪雨に いちいち 見ませんよ?

 それに 誰かわからない 傘を借りて帰るなら 濡れて帰ります」


「あー 明日は 風邪かな~ しかも 高熱で うなされて 寝込むんだろうなぁ」


「でも そうなれば 責任感じて 先生がお見舞いに来てくれるか~♪」


「そしたら お世話してもらって 身体 拭いたてもらったりできるのか~きゃっ」


 実に楽しそうに 愉快犯だな 


 折れるしかない そう判断した

豪雨のせいで 雨が地面ではねて スーツの裾が濡れて 気持ち悪い


「わかった 入れて帰るから まったく・・・」


 折れた私をみて 彼女は 嬉しそうに そうだそうだ 相合傘して帰りましょ~ といいながら

私に近づいてくる 

実に うれしそうにそんなに嬉しいのか と思うと 怒る気にもなれない


 怒る気にもなれないが まさかと思うが


「これも 確信犯だったりしないだろうな?」

 ジト目で 彼女をみやり



何も言わず 笑顔で そして 



口元には 舌をちょこっとだしていた





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