第28話 準備のイベント

「……来たか!」


 唯は司令席から一歩前に出ると、そこに赤い画面で現れた立体映像(ホログラフ)のキーボードに打ち込み始めた。何度も提示されるパスワードの画面を次々とクリアーしていくと、やがてその立体映像(ホログラフ)はキーボードから鍵穴の形へと変わった。


 その鍵穴を見て唯は深呼吸する。


 「エンシェントクルセイド解凍開始! オーロラクラン保管場所東京都港区! 元東京タワー」


 オペレーターの声が響き、唯は鍵穴を見てスーツの内ポケットから手袋を取り出した。


 当然、コレはただの手袋では無い。


 電気信号がレールを通るように輝くその手袋は、災厄獣対策室副司令に与えられたブレイブヴァイン最強武器、エンシェントクルセイドの許可を承認する権限ツールである。


 全国に部品として保管されているブレイブヴァインの武器でも、エンシェントクルセイドだけは唯の許可が無ければ使う事はできない。


 合体と最強武器。


 ブレイブヴァインはその強さ故に二つの制限がかけられているのである。

 その制限解除を司令と副司令の二人が分けて持っている。


 折原はブレイブヴァインへの合体許可、唯はブレイブヴァイン最強武器使用許可という様に。


 この最強武器は十二年前に一億の災厄を消し去った武装であり、この武装があったからこそ、ブレイブヴァインは超多数の敵に打ち勝てたのだ。


 エンシェントクルセイド。


 それは英雄だけが振りかざせる光の名前でもあった。


 「ファイナルパージッ!」


 右手に手袋を嵌め、唯は鍵穴の立体映像(ホログラフ)思い切り殴りつけた。

 瞬間、鍵穴は前方の大型スクリーンに向かって飛んで行き、湖に落ちるように画面へぶつかった。激しい波紋がスクリーン全体に伝わり「エンシェントクルセイド承認、オーロラクラン発射」の文字が大きく表示される。


 「人類は――――抗える」


 折原は画面に出た勝利の文字を見ながら誰に言うでもなく呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る