第27話 前座のイベント

「な、なんつーか…………豪快な武器の到着だな……」

 「わんわんわんんわん!」


 司は落下してきたブレイブヴァインの兵装を見て驚いたが、その間にも状況は進行している。


 百合はブレイブヴァインの射撃砲、災厄獣だとろうと例外なく焼き尽くすディスペラードアークを確認するとすぐに機体への装着を開始した。


 瞬間、ディスペラードアークを纏っていた炎が払われる。


 「ディスペラードアークドッキング開始。完了。接続に問題無し。胸部装甲からディスペラードアークにエネルギー充電開始。レミレースドライブ出力150パーセント。発射可能域」


 ブレイブヴァインの前方後方にいる災厄獣全てにロックオンの文字が表示される。


 「司、引き金を引け。外す心配はない。私が狙いを定めている」

 「了解! くらえ災厄獣ッ!」


 司は親指で操縦桿の上部分にあるボタンを思い切り押した。


 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 瞬間、ディスペラードアークが赤い閃光を迸らせた。全方位へと一斉に放たれ、九体の災厄獣達全てにその燃えるような光で包み込む。


 「九体に命中」


 瞬間、プロミネンスのような炎が吹き出し災厄獣を焼き尽くしていった。

 限定的に発生した紅炎に例外はない。九体の災厄獣達はその炎に抗う術を持たず、その身体を地面に崩していった。


 「D24からD32までの災厄獣撃破。残るはあと一体だ」


 そして爆発。炎に飲み込まれるように撃沈し、ブレイブヴァインはたった一撃でこんどは九体もの災厄獣を殲滅してしまった。


 「凄すぎる……災厄獣が完全に雑魚扱いだぞ……」


 「これがブレイブヴァインだ。ココロシステムという本来のシステムを使わずとも一億の災厄獣を倒しているからな。オルゴンデール級と言えど、この程度は容易い」


 ブレイブヴァインの強さは司もよく知っているつもりだった。


 実際、二体の災厄獣を簡単に倒してしまった所をこの目で見ている。一億という途方も無い数の災厄獣を倒した事があるのも唯から聞いているし、この程度驚くような事では無いはずだった。


 だが、それでもブレイブヴァインの強さに司は感動した。


 このスーパーロボットの強さは妄想や想像の域を超えており、それが実感として自身に伝わってくる。


 やはりブレイブヴァインは凄かった。さすが憧れ続けただけある巨人だった。


 「ッ!? D22急速接近! 体当たりするつもりです!」


 百合の警告がコックピット内に響く。スクリーンには遠くにいる災厄獣の姿が映し出され、突撃するようにブレイブヴァインへ向かっている災厄獣の姿が見えた。


 「接敵まであと十秒! 司さん! エクステン――――きゃあッ!?」


 D22トゥーバイツはこちらに来る前に、翼についていた黒い塊を発射した。塊はブレイブヴァインの腹部に激突し爆発する。


 強烈な震動がコックピットを揺らす。百合はその勢いに耐えられず、よろけて地面に倒れてしまった。


 「百合ッ!」

 「腹部損傷は軽微、戦闘続行に問題無し。派手なだけの攻撃だったようだ。大丈夫か百合?」

 「は、はい……このくらい何ともありません。すいません、司さん。ちょっとよろけてしまいました」

 「わんわんわんわん」


  シグが状況報告をする中、なんとか踏ん張った司は百合に駆け寄る。ダイスケもだ。


 「よかった、大丈夫ならいいんだ」

 「司さん、私の心配よりもする事があります」


 だが、それを制するように百合は起き上がり手を掲げると、すぐに司のするべき行動を提示した。


 「エクステンションを。その言葉がブレイブヴァインを守る防壁を作ります」

 「わ、わかった!」


 司はすぐに操縦席へ戻り、百合の言葉を言い放つ。


 「エクステンション!」


 言うとブレイブヴァインの左手が突撃してくるD22トゥーバイツを受けるように掲げられた。


 そこから大気を揺らすような淡い震動が放たれ、その震動がブレイブヴァインの左手を完全に覆う。


 「全員、対衝撃体勢」


 シグの声に従い、司と百合とダイスケは迫る災厄獣の体当たりに備えた。


 「接近まで3……2……1……」

 「――――――ぐうッ!?」


 超弩級災厄獣が激突し、猛烈な衝撃がコックピット内を襲った。


 さっき不意に起こった衝撃とは比べものにならない。一度前に引き寄せられたかと思うと、一瞬で後ろに引っ張られ危うく操縦席から手を離しそうになる。


 この衝撃の中で手を離したら、間違いなくコックピット内を無重力状態のように跳ね回る事だろう。気を失う事は想像に難くない。


 「エクステンション最大展開! D22による衝撃破砕力800000トン!」


 だが、この程度で済んでいるのは明らかにおかしかった。


 ぶつかってきたD22トゥーバイツは千五百メートルもあり、ブレイブヴァインの十倍を有に超える大きさだ。質量も当然同じであり、激しい衝撃が起こったくらいで済むなどありえない。ブレイブヴァインが弾け飛んでも全く不思議の無い威力があるはずなのだ。


 なのに衝撃はあれど、何ら問題なく防御しきれている。


 「な……なんつーバリアだよコレ…………」


 これはエクステンションというブレイブヴァインの左手に装着されている斥力場発生装置のおかげだった。


 本来なら圧死する質量でもエクステンションにより、どんな攻撃も緩和する事ができるのである。


 さすがに超弩級災厄獣相手では完全無力化とはいかないが、それでも威力は充分殺す事ができていた。


 「足部駆動系に軽微の損傷を確認。さすがにこの大きさを受け止めて無傷とはいかなかったようだ」

 「災厄獣の動きが止まっています! 司さん! これを逃すワケにはいきません!」


 ブレイブヴァインは地面を削りながら大きく後退したが、災厄獣を受け止めきった。


 今の災厄獣の動きはやたら遅い。どうやら、あの大きさではすぐに行動を開始する事ができないようだ。


 これは絶対のチャンスだった。


 「じゃあ何をぶちかます!? ディスペラードアークか!? それとも他の武器を仕掛けるか!?」

 「武器は仕掛けない。ここは“最強必殺武器”を仕掛ける」

 「え? さ、最強?」


 この大きさだ。生半可な攻撃を仕掛けては無駄に終わってしまうだろう。


 グランディアブレイクやディスペラードアークでもかなりの威力だが、即座にD22トゥーバイツを倒せるかと言われれば無理だろう。


 なのでシグの言う、その最強必殺武器とやらはそれらの威力を遙かに凌ぐという事だ。


 それぐらいシグの声に絶対の自信が見て取れる。


 「ユリ、中央司令室に解凍許可を」

 「はい! エンシェントクルセイド解凍要請! お姉ちゃん! お願いします!」


 座席にある立体映像(ホログラフ)のキーボードを叩き、百合は最強武器使用の解凍要請を送信した。

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