第10話 安堵のイベント

「D21バルドルの殲滅を確認。作戦終了です」

 「……………………」


 今、中央司令室ではどよめきが起こっていた。


 誰もが信じられない顔をしており、この事態にまだ現実感が掴めていない。全員がモニターに映しだされた災厄獣爆破後を見て唾を飲み込んでいる。


 「ヴァインと三騎士はこのまま帰投。周辺警戒と共に救助隊員、跡地整備員を新座山市に送ります。災害現場の保証や保険の話はすぐに書類を集めてきます。後ほど高官の方達とも話し合いが行われるはずです。準備を――――」

 「副司令」


 モニターを見たまま白髪の男性は唯に問いかける。


 「君は自分の弟の事を知っていたのか?」

 「…………いえ何も。私自身も驚いています」


 唯は少し俯いて返事をした。


 「彼はあのヴァインを動かし、ヴィスドア級とはいえ災厄獣を倒してみせた」

 「はい」

 「……………………」

 「…………申し訳ありません」

 「謝る必要は無い。だが、彼は百合の力になってもらう必要がある」

 「…………はい」

 「嫌かね?」


 そこで初めて白髪の男性は唯に視線を向けた。


 暗い視線だった。この世の最悪を見てきたかのような虚ろな眼をしている。


 だが、それは見方を変えればその最悪から目を背けずに見続けていた証だ。


 どんな事からも逃げずに立ち向かい見届けてきた、悲しい勇気のある瞳だった。


 「…………なぜ私達は無力なのだろうと……そう思うだけです……折原司令」

 「結構。その気持ちを忘れては我ら臆病者が生きる資格は無い」


 白髪の男性、折原は立ち上がりこの場から立ち去った。中央司令室から出て行き、唯はただ一人残される。


 モニターを見ると損傷しているヴァインの姿が見えた。


 次第に喧噪に包まれていく室内で何を言うでも無く、唯はジッと佇んだままのヴァインを見続ける。


 「なぜお前なのかと思うが…………私は何処か納得してしまうよ」


 手に持ったままだった携帯が鳴る。携帯を開くと「篠々木百合」という名前が表示されていた。


 ホッとしたせいだろう。その名前を見て唯の方から少し力が抜けた。


 「……遅いぞ全く」


 唯は携帯に出る。電話向こうの相手は慌てふためいていて、唯は呆れながらその相手に優しい返事を返した。

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