第7話 秘密組織のイベント

「主電源、補助電源共に異常無し。シグからの反応はグリーン。機体安全正常値を計測。並びにコックピット内の生命維持装置最終チェック。問題無し。第一ロック解除します」

 「第一ロック解除了解。拘束具除去。安全装置の一番から十番までの解除確認。レミレースドライブ通常起動。正常値よりプラス三を計測。問題無し。射出シークエンスに入ります。射出ターミナルに移動開始。異常は認められず。発射準備は予定通りに進行中。第二ロック解除します」

 「第二ロック解除了解。安全装置の十一番から最終二十番までの解除確認。発射誘導システム問題無し。目的地までの誤差マイナス二。誤差補正内。最終ロック解除」

 「新座山市に現れたヴィスドア級災厄獣をこれよりD21バルドルと呼称。体殻硬度予測2000。ウェポンダミーによる誘導は効果無し。第三級装備をシグは要請。シンクレア射出準備」


 一見、舞踏会でも開けそうな絢爛豪華な中央司令室に大勢の人間が集まっている。


 全員が目の前に設置された画面(ディスプレイ)と周囲に浮く立体映像(ホログラフ)のキーボードやメッセージを忙しくタッチし、その余談を許さない顔が今の状況が決して良く無い事を暗に知らせていた。


 前面にある巨大なモニターに様々な経過を知らせる数字や文字が点滅を繰り返し、この現場の状況をまとめて映し出している。


 その中央の映像には新座山市に現れた災厄獣がリアルタイムで映されており、その映像を厳しい顔つきで見る二人がいた。


 「副司令、百合からの返事は?」

 「…………ありません。ですが、生命反応には異常無し。携帯を落としたか壊したか……何にせよこのまま発進させるより無いと思います」


 後方の司令席に座る白髪の男性は隣に立つ女性、篠々木唯へ僅かに目をやると再び視線を前方のモニターへと戻した。


 「では発進だ副司令。その後の状況判断はシグの意見を優先する」

 「……はっ」


 背筋を伸ばし模範のような敬礼をして、すぐに大声で叫ぶ。


 「目標地点新座山市! 百合をコレクトレーザーの射程内に入るよう着地! これ以上の被害拡大は許されない!」

 「了解!」


 各オペレーターからの返事が一斉に響き渡った。その直後、唯は誰に話しかけているのか巨大モニターを見ながら言った。


 「いけるなシグ?」

 「問題無い。任務を遂行するべく努力しよう」


 司令室全体に肯定を意味する無機質な返事が聞こえた。


 だが、声の主は何処にいるのか。オペレーター達は全員忙しく確認を続けており、誰も副司令と話している者はいなかった。


 「付近に生命反応が二つあるが、どうする?」

 「当然救助だ。今からでは地下シェルターに向かわせる事はできない。コックピット内で保護しろ」

 「私や百合の事が弟にバレて問題ないのか?」

 「別に問題ない。こうして災厄獣が表立って復活した今では、秘密にしておく方が難しいからな」

 「了解。救助優先で動くとしよう」

 「…………いつも本当にすまないな」


 唯の口が僅かに口ごもる。


 「気にするな。これが“使命”だ」


 最後に唯へそう告げると、その声は自信たっぷりにこう続けた。


 「ヴァイン発進する」

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