すれ違い

「ねえ、それってどういう意味?」


 公園のベンチに座って、待ち合わせをしていた翔太は、≪それ≫に聞き返した。

約束の時間はとっくに過ぎており、やっと来たと思ったら、そこには見慣れない姿があったのだ。


「はい、もう会いたくない、というご伝言の意味そのままかと捉えます」


 目の前にいるのは、今のこの瞬間まで付き合っていた、そして丁度今、別れを切り出され、さらにこの瞬間から”元カノ”と呼ばれる事になった女の子の家のロボットだ。


「どうして?」


 ベンチから立ち上がって僕はロボットの正面に立ち、問いただす姿勢をした。自分よりほんの少し背の高いそのロボットを見上げるのは、抵抗があった。


「それは私では、お答えできかねます」


 このロボットは直立不動にこたえる。

 まあ、表現力豊かに答えられても困るんだけど。


「い、いやだって・・・付き合ってるんだよ?」

「もう違う、ということとご解釈ください」

「ってかさ、普通本人と会って話さない?そういうことは?」

「・・・ですがもう会いたくない、ということであれば、この行動も妥当の範疇かと思われます」


 僕にも感情的要素がなければ、その通り。というかもしれないが。


「そりゃそうだけどさ、昨日まで普通に話してたんだけど?」

「私には、お嬢様のお気持ちはわかりかねます」

「なんだよ、聞いとけよそのくらい」

「私はただ、命令を受けただけにございます」


 少し気が抜けたというか、疲れたというか、そういう気持ちでベンチに座り込んでしまった。


「はあ・・・本当に急なんだね・・・」

「急ではなかったようです。先週お会いした時も、少なくとも半年程前からお伝えしていたと」

「そっか半年・・・は、半年?!」

「はい、お嬢様はそうおっしゃってました」

「僕たち付き合い始めてまだ2か月経ってないけど?!」


 ロボットの動きが少し止まる。


「あと、先週は会ってないけど?」


 ロボットが少し首を傾げるように聞いてきた。少し気持ち悪い。


「先週は、海までドライブ、と伺っております」

「僕免許持ってないんだけど」


 ロボットの動きが、なにか問題があるかのようにさらにゆっくりとなった。


「おい、どうしたんだよ?」

「・・・失礼ですが、川口翔太様、ですよね?」

「・・・そうだけど」


 そういうと、そのロボットはまた少し停止した。目の当たりがチカチカしたと思ったら、少ししてまた話し始める。


「お嬢様からの伝言です」

「はあ」


「もう会いたくない、と」

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