第15話 五席の仕事、魔物の仕事


なぜ私が殺戮の女神、カルテという魔物を恨んでいるのかというと、今から15年前の出来事のせいである。当時5歳であった私は仕事で忙しい両親には相手にされず、いつも祖父の家に遊びに行っていた。

祖父の家に行くとそこにはいつも彼女がいた。

祖父の畑仕事の手伝いと言いながらも、彼女はよく私と遊んでくれたのを覚えている。その時はまだ彼女のことはいい人であると思っていた。

ある日、いつものように私は祖父の畑に遊びに行った。しかし、畑には誰の姿もなく、私は祖父の家に向かった。

記憶は曖昧であるのだが、はっきりと今でもその殺伐とした部屋の中を覚えている。

血の生臭い不快な臭いとともに赤黒く染まった部屋。床には首から上の無い祖父の死体。その隣に立っていたのが彼女だった。

彼女は私に何かを呟いてから死体を持って行った。そのうえ、倉庫の中にあったはずの食料や、畑で採れた野菜など、すべてがもぬけの殻になっていた。

そう。私の祖父はこの女に騙され、命とともにすべてのものを奪われたのだ。



「アリス~?会議室はこっちなのだ~」

メロは会議室とは逆方向に向かって歩いて行くアリスを呼び止めた。

「あっ!すまん、ちょっと考え事をしていた。」

「全く~、そんなに方向音痴って逆にすごいよ~」

2人が会議室に入ると、2人の男が座っていた。

「よぉ...時間ぎりぎりじゃねぇか。」

第三席に座り、脚をテーブルに乗せながら2人を鋭い目で見ている男の名前はネスカ。特徴は荒々しく跳ねている銀髪の髪である。

「まだ時間があるので大丈夫ですよ....」

ネスカとは対照的に大人しそうな印象の男は、第五席のミネルである。体つきは細目であり、声も少し高めである。

「2人とも1ヵ月ぶりだな。まだ第一席は空席か....」

アリスはやれやれといった感じに第二席に座った。

「いつものこと~」

メロも第四席に座った。

「クソォ!早めにあのおっさんが来てたら勝負してみようと思ったのによぉ。ほんと自由な奴だぜ!」

ネスカは貧乏揺すりをしてイライラしているようだった。

「まぁ、ベルは基本的には10分は遅刻してくるからな、それまで待て。」

アリスがネスカをなだめた。

「じゃぁよ、おっさんが来るまでお前が俺と戦うかぁ?」

ネスカは不気味な笑みを浮かべた。

「今日は戦う気などない。」

「つまんねぇ~な.....」


少し経つとドアが勢いよく開いた。

「ふぃ~、5分しか遅刻してないぜ....」

入って来た男の名前はベル。木刀を腰かけ、締まった体つきをしているが顎には剃り残したような髭が生えており、見た目はどこにでもいるような普通の中年であった。

「ベル~、5分も遅刻なの~」

メロがじっとりとベルを見て言った。

「おぅ!メロ久しぶりだな!いいか、男っていうのは早いより遅い方がいいもんなんだ。」

そう言って第一席に座った。

「よぉ!おっさん、今日勝負しようぜ!!」

ネスカが身を乗り出した。

「そうだな...会議で時間が余ったらな。だから会議中は大人しくしてろよ。」

「やったぜぇ!それなら早く会議終わらせちまおう!!」

やんちゃな子供のようにネスカは喜んでいた。

「あっ...それじゃあリスト配りますね....」

ミネルは淡々と何かのリストを皆に回した。

このリストは魔物討伐リストと言って、冒険者達が魔物を討伐する際に目を通すものであり、魔法で念写された顔と能力、賞金などが記載されている。

ちなみにこの会議の進行役はミネルである。


「なんで殺戮の女神はここに乗ってないんだ!!」

アリスがリストをテーブルに叩きつけた。

基本的にはこのリストに書かれている魔物以外は討伐してはいけないことになっている。

「恐らく僕たちの力を持っても、倒すことができないからでしょうね。」

ミネルがリストを捲りながら答えた。

「そ~だよアリス~。魔物の中でも最強クラスなんだから~」

メロが眠たそうな声で言った。

「で、でも....私は敵を取るために冒険者としてここまで強くなったのだ...」

「全く...お前はそればかりだな。」

いきり立ったアリスの横ではベルが煙草に火をつけ、吸い始めた。

「ここは禁煙だ!」

「あっ!」

アリスが煙草を取り上げ足で踏みつぶした。

「せっかくの美人さんなんだから敵討ちを探すよりもいい感じのパートナーを探した方がいいんじゃないか?」

ベルはニタニタと笑いながら言った。

「俺の嫁さんも美人で優しいし、ましてや娘なんか天使だぞぉ~!ほらほらっ!」

ベルはポケットから娘の写真のようなものを出し、見せびらかしていた。

「はぁ...第一席がこんなんだからこの会議はいつも締まらないのよ....」

アリスが大きなため息をついた。

「それよりも早く終わらせようぜ!!」

ネスカはリストには見向きもせず、ずっとベルを見ていた。

「そう焦るなよ。他に何かないのか?」

「あっ!はい!あります!!」

ベルがミネルに聞くとミネルは違う資料を回し始めた。

「ええっとですね。最近、魔王が王国に現れ、1人の貴族を殺害したようです。まだ特徴などはわかりませんが以前の魔王とは別人のようです。」

ミネルが配った資料を読みあげた。

「ほぉ....。赤髪の悪魔が前の魔王だったけど奴は死んだのか?」

ベルが言うと先ほどまで貧乏揺すりをしていたネスカの動きが止まった。

「奴なら西の村で見たぜ....そいつは何人かの人間を殺していたが俺には太刀打ちできないと思って走って逃げてきたんだ....」

ネスカの顔は青ざめ、貧乏揺すりとは違う震えが体を小刻みに動かしていた。

「あなたが恐怖するとは珍しいわね....」

アリスが言うとネスカはアリスをぎらっとした目で睨んだ。

「お前は見たことが無いからそんなこと言えるんだ。あんな虐殺を一目見たら夜も眠れないぜ...」

「赤髪の悪魔か~。アリスは悪魔よりも女神の方が気になるんだもんね~」

メロがマイペースな口調で言った。


それから互いに情報交換を行い、会議が終わった。

「それでは今日の会議はこれで終了です。お疲れさまでした。」

「よし!じゃあ早速戦おうぜ!!」

ネスカは飛び跳ねるようにしてベルに駆け寄った。

「ああ、ちょっと外で待ってろ。俺はアリスに少し用があるんだ。」

「なに?私にか?」

ネスカは部屋を出て、会議室にはベルとアリスの2人きりになった。

「いったい何の用なのだ...」

ベルは窓を開け、煙草を吸い始めた。

「南の森でカルテという少女にあった。あんたが探している女だろ?」

「えっ!?」

ベルは外を見ながら煙草の煙を吐いた。

「フゥ~~。本当にあいつを殺したいのか?」

「も、もちろんだ!!そのために生きてきたと言っても過言ではない!!」

アリスが感情的になって答えた。

「なぁ.........。もうガキじゃないんだから現実を見ろ。」

ベルの目つきが変わり、アリスは一瞬恐怖を感じた。

「あっ....う....でも、私は、私には必要なことなのだ...」

アリスはベルの視線に恐怖しつつも答えた。

「いいかアリス。人は己の正義のために剣を振るう。人それぞれに正義は異なるが、自分の正義が時には他の人を、自分をも不幸にすることがあるんだ。」

ベルは窓の外に目を向け大きく煙を吐いた。

「俺から見ればお前はまだまだガキだ。ガキは間違って成長するもんだが一回の間違いが自分の人生を狂わせることもあるんだぞ。」

「・・・・・・・・・・・っく!」

アリスはベルの醸し出す威圧的な雰囲気で声を出すこともできなかった。

「これは殺戮の女神と会った場所の地図だ、ここに行けば奴に会えるだろう。会ってどうするかはお前次第だ。」

ベルは小さな紙切れをアリスのポケットに入れ、扉のドアノブを握った。

「そうそう。この魔物討伐リストってあるだろ。噂だと魔物が作っているらしいぜ。」

そう言ってベルは部屋を出た。

「どういう意味よ.....」

アリスは心の中でこみ上げる感情がいくつもあったが、手に持っている魔物討伐リストを改めて見た。

「そんなこと.....ありえないじゃない......」




ここ何日か将也に魔王としての予定が無く、毎日充実した受験勉強ができていた。

アヤはいつも将也の隣で読書や何かしらの作業をしているのだが、今日は将也の隣で書き物をしていた。

「アヤ、何しているの?」

「これは王国に送る魔物討伐リストっていうものです。魔物の犯罪者は人間の冒険者が裁きを与えます。逆に人間討伐リストを王国から貰い、人間の犯罪者達を魔物達が処分するのです。」

アヤは忙しそうにペンを走らせる。

「王国には警察みたいな役人がいるんじゃないの?」

「証拠不十分で逮捕できない人達がリストに書かれるのですよ。」

「なるほど、それは賢いな....」

「よくニアとかカルテやオロナが城内にいない時があるじゃないですか。その時にリストに名前のある人間を処分しに行っているのですよ。」

(そっか、言い方悪いけどここの魔物達は人を殺しているのか....)

将也は少し複雑な気持ちになった。


「あっ!ここにいた!!」

カルテがニアとともに目の前にまで走って来た。

「アヤ探したぜ!2日ぶりに雨が止んだから一緒に行こうぜ!!」

カルテがアヤの腕を引っ張った。

「今はこの仕事で忙しいからあとにしてくれる?2人で足りないなら私以外の人を連れて行って。」

アヤはカルテを気にせず、ペンを走らせた。

「別な人か...私とカルテ以外で上手く作業できそうな人いるかな....」

ニアは腕を組みながら考えていたが、将也と目が合った。

「そうだ!魔王様でいいんじゃないかな!」

「おぉ~!一応男だし。わたし達よりも力あるから適正だぜ!!」

ニアの提案にカルテが賛成した。

「えっ?僕がどうしたの?」

ニアとカルテは将也の腕を掴み、声を揃えて言った。

「魔王様!!一緒に行きましょう!!」



将也が連れて来られた場所は山の斜面に囲まれ、くぼみのような地形をした広い場所であった。

「えっと.....ここはどこ?」

将也は足場がぬかるんでいる土の上に立っていた。

「ここは畑だぜ!」

見ると耕されている土の表面には緑の野菜のようなものが規則的に並んでいる。

「じゃあわたしは準備してくるからニアは魔王様に教えてやってくれ!」

そう言ってカルテはどこかに行ってしまった。

「ここはラトルっていう野菜の畑なんです!ラトルの栽培に適した環境は非常に少ないため、こんなところにありますがとても美味しく、高値で売ることができるんですよ!!魔王城の収入源の一つなんです!!」

将也は人殺しの手伝いをさせられるのかと思っていたのでホッとした。

「いつもはアヤちゃんが手伝ってくれるんだけど忙しいみたいですし、私達は力が弱いのでなかなか土の中から取り出せないんですよ。だから今日は魔王様に手伝ってもらいます!」

「わかったよ。今日は勉強しないで畑仕事するね。(化学の勉強しようと思ってたけど、最近いい感じに時間もとれてたし、たまには運動もいいかもしれないな....)」

「準備オーケーだぜ!!」

すると向こうからカルテが背中に水でできた巨大な羽を生やして戻って来た。

「うわ~....すごいな...」

将也はカルテを見て圧倒された。その姿はまさしく女神のようだった。




「よし.....せ~のっ!!」

将也はしゃがみ込んでラトルを掴み、力強く引き抜いた。

「おぉ~!さすが魔王様!!」

ニアが褒めるので将也は少し照れた。

ラトルという野菜は白菜のようなキャベツのようなレタスのような、元の世界では見たことのない野菜であった。

ここ2日間、ずっと雨が降っていたせいで足場が悪く、ラトルも泥だらけであった。

「これをどうすればいいの?」

将也は少し遠くの場所にいるニアに聞いた。

「ここからが私達の出番ね!」

そう言うとニアは何個かの黒い塊を出した。

1つは将也の後ろに、1つはカルテの前に、あと1つはニアの後ろの場所に配置されている。

「魔王様。その黒いところに採ったラトルを入れてください!」

「こ、こうかな?」

将也がゆっくりとラトルを持って黒い塊に腕を入れると、カルテの前の黒い塊から将也のラトルを持った腕が出て来た。

「よし!これをわたしが洗うぜ!!」

カルテが受け取ると、背中の羽から水が飛び出し、ものすごいスピードでラトルを洗って行く。

「よっしゃ!じゃあニア頼むぜ!」

カルテがニアに渡すと。ニアはラトルを上下に振って水を切り、自分の後ろの黒い塊にそっと入れた。

「こっちは魔王城の食料庫に繋がっているんですよ!」

(魔法ってやっぱり便利だな.....)

魔法を使っての流れ作業であり、将也は数多くのラトルを畑から引っこ抜いた。


約30分で畑のラトルをすべて収穫した。

「魔王様お疲れ様です!」

「うん。ちょっと疲れちゃったよ.....」

将也はドロドロになりながらぐったりしている。浪人生には結構キツイ作業であった。

「じゃあ収穫も終わったから私は魔王様をお城に連れて行くけど、カルテはどうする?」

「ん~......。畑を均してから戻るよ。」

「1人で大丈夫なの?」

「あぁ!それよりも早く魔王様をお風呂に入れてやろうぜ!風邪引いちまったらわたし達のせいだしな!!」

「わかった!じゃあ任せるね!魔王様帰りましょう!!」

「カルテも気を付けてね。」

「おう!じゃあまたな!!」

カルテはニアの魔法で帰る2人を手を振って見送った。


カルテは1人になり畑を均す道具を持って均し始めた。

「こうしていると色々思い出しちまうな.....」

カルテは黙々と手を動かした。


「んっ?なんだ?」

手を止め、森の方に目を向けた。

鳥たちが一斉に飛び立ち。なんだか気配を感じる。

「なにか来るぞ.....」

カルテは目を細めてじっと構えた。

すると、森の中で何かが光ったと思ったら鋭い刃をした剣がカルテ目掛けて飛んできた。

「うわぁ!?」

カルテは間一髪剣を避け、畑に転んだ。

「いきなりなんだ!?危なかったぁ~。」

カルテが立ち上がると、何本もの剣がまた飛んできた。

「わわっ!!」

カルテは避けながら、距離を取った。

「お前は誰だ!なぜ攻撃するんだ!」

避けた剣が宙に浮き、飛んできた方向に戻って行った。

「やっぱりこの程度じゃ当たらないか....」

森の中から声がしたので、カルテは周りの水たまりから水を操り、自分の背後に持って来た。

森の中から姿を現したのは甲冑を纏い、兜を被った顔の見えない人間だった。

しかも、その人間の周りには数百本の剣が漂っていた。

「やっと見つけたわ.....ここであんたを、殺戮の女神を殺してやる!!」

そう言うと、カルテ目掛けて剣が次々と飛んできた。

「急に攻撃してくるとは危険なやつだな。しかもわたしのことを知ってみたいだ....」

周囲にある水たまりの水がカルテの背中に集まり、飛んでくる剣を撃ち落としていく。しかし、撃ち落とした剣は再び浮かび上がり、カルテ目掛けて間髪入れずに飛んでくる。

(このままじゃ埒が明かないぜ....)

一方的にカルテが攻められ、反撃することができない。

「殺戮の女神っていう割には全然攻撃してこないのだな。そんなんじゃ私の剣からは逃げられないわ!!」

人間がそう言うと。剣の飛んでいくスピードが増し、数も増えていった。

(とりあえず今は身を守って隙を窺わないと....)

するとカルテの羽が形を変えて、カルテの前に大きな盾のようになった。

そこに剣が突っ込むと、その水の盾に吸い込まれ、剣が中で静止した。それを見て人間は攻撃をするのをやめた。

「お前はなんのためにわたしを攻撃するんだ?」

カルテが聞くと、人間は兜をとり、顔を見せた。

「私の名はアリス。15年前にお前が殺した男の孫だ。今日、お前を殺して敵を取りに来た。」

アリスの顔は物凄い殺気に満ちている。

「ア、アリス!?なんでここに...」

カルテはアリスの顔を見て一瞬ひるんだ。

「今だっ!!」

アリスが手を前に出すと。カルテの後ろの森の中から剣が飛び出し、カルテに刺さった。

「ぐぁっ!!」

剣がカルテの左肩をえぐり、血が噴き出した。

「間一髪心臓は避けたみたいね....」

アリスは暗い目をしながらカルテに近づいた。

カルテはその場にしゃがみ込み、肩を押さえている。

「アリスか....随分大きくなったな。」

カルテがそう言うと。アリスが目の色を変えて怒鳴った。

「知ったような口するんじゃないわよ!!あなたが私の祖父を殺したことで私はどれだけあなたを恨み、苦しんできたかわかる!?」

「あぁ....そうだな.....あの時のことは本当にすまないと思っている。」

「あなたが被害者面するんじゃないわよ!!」

すると、すべての剣がカルテの方を向き、四方八方からカルテ目掛けて飛んで行った。

「死ねぇぇぇぇ!!」



その頃。魔王城では将也が体を洗い終わってアヤの隣で勉強道具を広げていた。

「はぁ~。運動不足には大変だったよ。もう腰とか腕とか痛いし.....」

「魔王様はもう少し体を鍛えた方がいいと思いますよ。基本的には私やニアなどが近くにおりますが、もしもの時は自分で身を守っていただかないといけません。」

「僕は戦う気無いんだけど.....」

すると、室内がカタカタと揺れ始めた。

「地震か?」

揺れはだんだん大きくなり、しばらくの間、揺れは治まらなかった。




「はぁ...はぁ....。やったか?」

アリスが何百本もの剣に埋もれたカルテに近づいて行った。

しかし、散らばっている剣を見てみるとすべての刃先が折れ曲がっていたり、砕け散っていたりしていた。

「まさか....」

すると、カルテの方から物凄い高い音が聞こえてくる。

よく見るとカルテの体を覆うように、赤みがかった水が高速で回転している。

「ふぅ~。危なかったぜ。」

「なっ!?水を高速回転させて身を守ったのか?」

「そうだぜ。体の周りに高密度の水を回転させて身を守るんだ。完全防御ってやつだけど身を守ることしかできないし、人一人分の水のベールしか作れないんだ。ちなみにわたしの血も混じっているから普通の水の何倍もの魔力だぜ。」

「くそっ!!」

アリスは腰に掛けてある剣を鞘から抜き、自分の手で振り下ろした。

しかし水のベールに触れた途端、刃が割れ、剣が吹っ飛ばされていった。

「この状態なら何をしても無意味だぜ。間違っても手で触るなよ。その瞬間腕が吹っ飛んじまう。」

「なんでよ....なんであなたは私を殺そうとしないのよ.....私はあなたを殺す気で戦ったのにあなたは全然殺気すらないじゃない。」

アリスは目に涙を浮かべてその場にしゃがみ込んだ。

「アリス....」

カルテは優しい笑顔を見せた。

「じっちゃんの大事な孫を殺せるわけないだろ...」

カルテは水のベールを解き、しゃがみ込んだアリスの頭を撫でた。

「だからなんでそんなに優しい顔をするのよ....」

アリスはカルテの顔を見ながら涙を流し始めた。

「わたしこそ、あの時にちゃんと説明できなくてごめんな。あの時はお前は小さかったし、それにわたしにも余裕がなかったんだ。」

カルテも悲しそうな顔をした。

「だから、今度会ったらわたしが謝って、ちゃんと説明しようと思ってたんだ。アリス。聞いてくれるか?」

「.....うん。」

アリスがコクンと頷いた。

「実はな....」

カルテが話始めた瞬間、地響きがなり、地面が揺れ始めた。

「うわぁ!!地震か!?」

反射的にその場で2人はしゃがみ、揺れが治まるまで動かないでいた。

「......やっと治まったわね。」

「そうだな.....」

揺れが治まったが、さっきより凄い地響きの音がする。

「な、なんだ!?」

音がする方向を見ると。山から大量の土砂がこっちに向かって流れ込んで来た。

「や、やばいぞ!土砂崩れだ!!」

カルテはアリスの手を握り、土砂崩れから逃れようと走った。

しかし、肩の怪我が痛み上手く走れない。

大量の土砂が2人の目の前まで迫って来た。

するとカルテはアリスの握っていた手を放して土砂を背にアリスの前に立った。

「アリス。本当のこと教えられそうになくてごめんな。でも、お前の命だけは守ってやるぜ......」

「えっ!?」

カルテはそう言ってアリスに笑顔を見せた。

すると周りから水が集まってきてアリスの体を覆い、ものすごいスピードで回転し始めた。

「まって...もしかして....」

カルテはニッと笑った。

「じゃぁな!」

その言葉を最後に、カルテはドォーーンっという物凄い音とともに大量の土砂にのまれていった。


                     ~五席の仕事、魔物の仕事~ END




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