第14話 魔王、勉強に集中できない


今日は何にも予定が無い。ということは一日中ゆっくりと勉強ができる。

模試の自己採点の結果、点数が思う通りに取れていなかったので将也はいつもよりも気を引き締めて勉強に臨もうと思い、図書館の机に勉強道具を広げた。

アヤは本棚の前で読む本を選んでいるようだった。

この空間には将也とアヤしかいないので館内は物凄く静かであった。

アヤが本を持ちながら将也の隣に来て将也の広げている漢文の問題を覗き込んだ。

「これはこの前のとは違う文字ですね。前のより角ばっているようですし。」

最近、アヤは将也のすることに興味を抱くようになっていた。

「これは漢文って言って昔の中国の文字を読むために工夫して作られたものなんだ。」

「角ばった文字の横などに小さな文字があるのは不思議な感じがしますね....」

アヤは不思議そうに見ていた。

「きゃっ!!」

急にアヤが悲鳴をあげて飛び上がった。

「いきなりどうしたの?」

将也が見るとアヤは顔を赤くして両手を自分のお尻に当てていた。

「ま、魔王様!今、私のお尻触りましたか!?」

「えっ?僕は何もしてないよ!!」

「ほ、ほんとうですか?嘘だったら殴りますよ!!」

「本当だって!!(いつもは切る、刺す、削ぐ、剥ぐって言うのに今日は殴るなんだ...)」

将也は否定しつつも、アヤの言葉を冷静に分析していた。

「....ってことはゴル爺ね!!出てきなさい!!」

アヤが周りを見渡しながら叫んだ。

『フォッフォッフォ。やはり若い体はええのぅ~』

変な怪しい声がしたかと思ったら、本棚の上に1人の老人が座っていた。

「初めまして魔王様。ワシはゴルティア・クラフト・ムーンっと言う魔法使いじゃ。」

その老人の顔は白い眉毛と髭が印象的で、目は細い線のようになっており、開いているのかもわからなかった。

「初めまして。ゴル爺って呼んでいいのかな?」

「フォッフォッフォ。皆からそう呼ばれとるからのぅ。かまわんよ。」

ゴル爺はニカっと笑った。

「ゴル爺...年寄りで寿命が短いからって何でもしていいわけじゃないのよ!降りてきなさい!その髭全部切り落とすわよ!!」

「え~?聞こえんのぉ....最近耳が遠くてダメじゃな~....」

ゴル爺は耳を突き出すようにしていたが、明らかに演技であるとわかる。

「魔王様、このエロじじいは昔大魔導とまで呼ばれていた人間の魔法使いですが、さっきみたいに透明化の魔法などを使って女性にセクハラばかりしているのです。」

アヤはあきれながらゴル爺を紹介した。

「ワシは魔法を極めた唯一の人間なんじゃよ。魔王様よ、魔法のことなら何でも聞いてくだされ。」

ゴル爺は自分の顎鬚を誇らしげに撫でていた。

「僕の世界では魔法使いは箒に乗って空を飛ぶイメージがあるんだけど、それって本当なの?」

将也はくだらないことをゴル爺に聞いた。

「箒?箒は掃除道具じゃよ。基本的には何かに乗って空は飛ばないぞい。あぁ~でも若いころ、2人用のソファーに乗りながら空は飛んだことがあったの。あの時は腰痛でパルメさんを乗せられなかったからこの方法を思いついたのじゃ。」

(魔法使いがソファーに乗って空を飛ぶってシュールだな....)

将也は今までに思っていた魔法使いのイメージが崩れていくのを感じた。

「じゃあもう一つ、魔法って何なの?僕にも使える?」

漠然としている質問であったが、将也は魔法という非科学的なものの正体を前々から疑問に思っていたのだ。

「そうじゃのぅ....魔王様には無理じゃな。まず魔王様はこの世界の人ではないじゃろ?この世界にあるもの全てはある魔法から生まれたって言われておる。異世界で生まれ育った魔王様は使えんのじゃ。だから魔法というのはこの世界を作った神様からの贈り物なのじゃよ。」

ゴル爺の話は何かの宗教のようであり、全くピンと来なかった。

「そうじゃな、この本を読んでみるとわかるじゃろ。」

ゴル爺がくいっと指を動かすと本棚から一冊の薄い絵本がふわふわと飛んできて将也の目の前までやって来た。

「これは誰もが知っているおとぎ話じゃよ。時間がある時に読むとよい。」

その本のタイトルは三神様さんじんさまであった。

「じゃあ勉強終わったら読むね。」

するとブレッタがオロナとともに図書館に入って来た。

「あら。あなたが魔王様ね。初めて見たわ。」

モデルみたいな顔とスタイルをしたオロナという男は女性のような口調をして将也に挨拶をした。

「君がオロナだね。なんか美形って感じだね。」

「あら!わかる?ふふっ。結構美しさを維持するために努力しているのよ。」

オロナは右手はズボンのポケットに入れていたが、左手で自分の髪を弄りながら嬉しそうに答えた。

「あら?」

するとオロナは将也の目の前まで行き、将也の顎をまじまじと見た。

「あなた髭がないわね。あなたも一本ずつ抜いているのかしら?」

「髭剃りってやつで剃ってるから無いんだよ。」

オロナは将也の顎を触って確かめた。

「凄いわね!!アタシにも今度教えてちょうだいな!」

「う、うん。わかったよ。」

将也は顎を触られながら返事をした。

「魔王様。作業中すみません。今日は私とオロナとゴル爺さんで本棚の下や、机や椅子を掃除いたしますので、別の場所で作業していただけませんか?」

ブレッタが多くの掃除道具を持って来ていた。

「わかったよ。じゃあ僕の部屋で勉強してるね。」

将也は今日は自分の部屋で勉強しようと思った。


将也とアヤが部屋に行くとテレビの前にニアが座っており、ベッドの上にはカルテが寝っ転がりながらテレビを見ていた。

「なっ、何で2人が僕の部屋にいるんだ!!」

「あっ!魔王様こんにちは!」

「よっ!魔王様の部屋って凄い物がいっぱいあるんだな!!」

この状況を見て、将也はここでも勉強ができないと悟った。

「それにしてもあたしも魔王様の世界を見てみたかったぜ...」

カルテは将也の枕を抱きしめ駄々をこねるように頬を膨らませた。

「遊びに行ってたわけじゃないのよ?それにあなたが来たら収拾がつかなくなるじゃない。」

アヤが言ってもカルテは不機嫌であった。

「あっ!そういえばカルテに渡すものがあったんだ!」

将也は台所に行き、ある物を持って来た。

「前に僕の髪を気にしていたから女性用のシャンプー買って来たんだよ。」

将也が半透明の容器に入ったシャンプーを手渡すと、カルテは体を起こし、目を輝かせてシャンプーを見た。

「な、なんだそれは!?柔らかいガラスみたいな容器の中にヌルヌルの水が入ってるぜっ!!」

「それを髪に使えばサラサラになると思うよ。」

将也が言うとカルテはその場で使おうとした。

「待って!!これはお風呂で使うものだからここでは使わないで!!」

「そうなのか!!じゃあ今日の風呂の時に使ってみるぜ!!」

さっきまで機嫌が悪かったカルテであったが、もうそんなことも忘れて上機嫌になっていた。

将也は勉強道具を持って部屋を出ることにした。


「今日の魔王城はどこも勉強できそうにないな...」

将也は廊下を歩きながらぼやいた。

「じゃあたまには王国の方でやりましょうか?私は食料を買いに行きたいので。」

「王国の方に勉強するところとかあるの?」

将也が尋ねるとアヤはしばらく考えているようだった。

「王国の中央広場の噴水近くにはお店や休憩所などもあるので行ってみますか?」

(そういえばこっちの世界で魔王城以外の所に行ったことはほとんどないな...)

将也は少し考えたが行くことにした。


将也とアヤは王国の中央広場に着いた。

レンガのような石で整備されている道や建物があり、行ったことは無いが欧州のようなオシャレな街並みであった。

将也は噴水の近くの休憩所のような椅子と机が置いてある場所に勉強道具を広げた。

「いいですか魔王様。私はあそこに見えるお店で少しの時間だけ買い物をしてきます。ですから絶対にここから離れないでください。もし何かあったら大きな声で呼んでください。」

そう言ってアヤは店に入って行った。


将也は1人になって改めて周りを見渡した。

「凄くいい雰囲気だし勉強も捗りそうだな。」

将也はしばらくの間、ものすごい集中力で勉強をしていた。

しかし、急に風が吹き、将也が見ていたプリントが飛ばされていった。

「あっ!答えが!!」

将也は椅子から立ち上がり取りに行こうとしたが、アヤの言葉を思い出した。

「どうしよう.....でもあれが無いと採点とかできないし.....」

将也は少しの間だけ考えた。

「よし、すぐに戻ってくれば大丈夫だろう!!」

将也は駆け足で飛ばされていったプリントを追いかけて行った。


「魔王様お待たせしました。」

アヤは食料を買い、将也のいた休憩所の机に戻って来た。

「あれ?」

机の上には将也の勉強道具はあったが、将也の姿はなかった。

「はぁ...全く。」

アヤは大きなため息をついた。



「よし!やっと捕まえた!」

将也はプリントをやっとの思いで捕まえた。

「やっぱり体力落ちたな~、少ししか走ってないのに結構疲れたよ。」

将也は来た道を戻って行った。

「ここを曲がればあの噴水の所だよね。」

将也は道の角を曲がった。しかし、そこには噴水は無かった。

「あれ?じゃああっちの角かな?」

また角を曲がったが、噴水はなかった。

「やばい、完全に迷ってしまった.....」



暫く将也は王国の街中を放浪していた。

(少し恥ずかしいけど誰かに聞いてみようかな...)

将也は周りを見渡した。すると1人の女性がある建物をぼーっと見ていた。

(あの人に聞いてみよう!)

将也はその女性に近づいて声をかけた。

「あ、あのすみません、ちょっといいですか?」

将也が声をかけると、その女性は将也に気が付いた。

「私に何かようか?」

その女性の髪は青みがかった黒色のロングヘアーで雰囲気はアヤに少し似ている感じがしたが、目元はキリッとしていて身軽そうな甲冑を着ている。左右の腰には2本ずつ計4本の剣を下げていた。

「はい、ちょっと尋ねたいことがあるのですが...」

「何でも聞いてくれ。」

この女性はとても綺麗で美人であり、少し低めの声であったが頼りになりそうな感じであった。

「実は道に迷ってしまって、近くの噴水のある広場に行きたいのですが。」

女性は少しだけ考えているようだった。

「わかった。私について来るがよい!」

(すごく頼りになる人でよかった~。)

将也は心の中でガッツポーズをした。


それからしばらく、この女性の後ろについて行った。

「いいか、この角を曲がったら噴水の広場だ。」

「ありがとうございます!助かりまし....」

将也が角を曲がると噴水は無く、さっきこの女性と会った場所に出た。

「あ、あれ?」

将也は女性の方を見た。すると女性は顔を真っ赤にしていた。

「あ、あああ...お、おかしいぞ......ここであってると思ったのに....」

「だ、大丈夫ですよ!!案内ありがとうございました。」

将也はお礼を言ってその場から離れようとした。

するとその女性が将也の服を掴んだ。

「じ、実はな....私も道に迷っているのだ。その、恥ずかしいのだが私とともに探してはくれないか?」

将也は少し、この女性が可哀想だと思った。

「じゃあ一緒に探しましょう。どこに行きたいのですか?」

「えっと...王国の中央議事堂っという場所なんだが、私は凄く方向音痴なんだ....」

女性はもじもじと恥ずかしそうに話した。

「さっきはそんな私を頼って、ましてや道を聞いてくれたお前に少し舞い上がってしまい、よくわからないのに道案内してしまった。すまない。」

「大丈夫ですよ。それではそこら辺の人に聞いてみましょう。」

将也は少し離れたところで歩いている男性に歩み寄ろうとした。

しかし、女性が将也の服を力強く引っ張り、将也はバランスを崩して女性にもたれ掛かった。

「いきなりどうしたのですか?」

将也は態勢を戻し、女性に聞き直した。

「実はな、わた、わたしは...その......」

女性の顔がより赤くなり目を逸らしながら何かを伝えようとしていた。


「あっ!アリスさんだ!!」

すると後ろから小さな男の子が女性を指差して大声で叫んだ。

「えっ?ほんとだ!アリスさんがいるぞ!」

周りの人が次々とこっちを見て寄ってきた。

「いや~、まさかこんなところでアリスさんに会えるとは思いませんでしたよ。今から魔物の討伐ですか?それとも観光ですか?」

「キャー!やっぱりアリスさんは美人で綺麗でかっこいいわ!!」

若い女性や中年の男性まで続々と人が女性の周りに集まって来た。

「すまないな。ちょっと用事があるんだ。失礼するぞ。」

さっきまで赤面していた女性であったが、急に凛々しい顔になって将也の手を引っ張りながら人のいない暗い道へと駈け込んでいった。


女性は周りに人がいないことを確認すると、大きなため息を着いて壁に寄りかかるようにしゃがみ込んだ。

「見苦しいところを見せたな....私の名はアリス・ミルティーというのだ...」

アリスはぐったりとしているようだった。

「アリスさんってもしかして有名人なのですか?」

将也が尋ねるとアリスは力なく自分の襟元にある『二席』と書かれた勲章みたいなものを指差して説明を始めた。

「私は世界の冒険者の中では2番目に強いってことになっててな、その証がこの勲章なんだ。そのせいか皆が私のことを過大評価しているのだ......」

将也はドキッとして服の中の首飾りを押さえた。

「そ、そんな凄い人なんですね。(やばい、これが見つかったら殺される)」

アリスは小さく体育座りをして顔を膝の間にうずめた。

「世間のイメージでは私は強くて可憐で何でもできる頼れる騎士になっているのだ....そのせいで私は街の人に道すら尋ねられない.....」

確かに第一印象はそのようであったと将也は思った。だが、アリスの今の姿を見るとなんだか可哀想に思えてきた。

「じゃあ2人で探しましょうよ!」

将也はアリスに手を差し伸べた。

アリスはキョトンとしていたが将也の手を掴んで立ち上がった。

「ありがとう。敬語は使わなくていいよ。」

こうして2人は噴水と中央議事堂を探すことにした。



「アリスはどうして中央議事堂に行くの?」

将也は歩きながら聞いてみた。

「月に一回、五席会議というのが行われ、そこで魔物に関する情報交換や政策について話し合うんだ。」

「アリスは『二席』って勲章みたいのしているけど、その五席ってなんなの?」

「昔は五席会議と呼ばれていなかったんだが、世界の冒険者で最も強い5人を招集し会議を行うようになったんだ。その時に五個の席が決められていてそれが強さの証ってことになった。私は第二席を王国から与えられている。」

将也は凄い人と知り合ってしまったと思った。

「じゃあ第一席は武神様なの?」

将也はパルメが人類最強であるとアヤに説明されたことを思い出した。

「武神様は私達とは桁違いの強さであるので比べること自体馬鹿な話なんだ。あくまでも冒険者の中での五人であって。武神様と大魔導様はこの五席より遥か上の存在ってわけなんだ。」

(大魔導ってゴル爺のことだよな...そんなに凄くは見えないけど....)

将也はゴル爺の顔を思い出しながらアリスの話を聞いた。

「あなたは噴水で何をするつもりなんだ?」

「僕はそこで勉強してたんだけどこのプリントを飛ばされちゃってね。」

将也は持っているプリントを見せた。

「あれ?こんな文字見たことないわね.....」

アリスは目を細めてプリントを見ていた。

(や、やばい!前みたいに面倒なことになるかも!)

将也は冷や汗をダラダラと流した。

「ふ~ん、あなたは難しい文字を勉強しているのね。私には無理そうだ...」

アリスは特に疑いもせずにプリントから目を離した。将也は心の中でホッとした。

する1匹の子猫が2人の前に現れた。

(この世界の猫はあっちの世界と全く同じなんだ....)

将也はボンヤリと猫を眺めていた。

「あっ...あっ!」

アリスは立ち止まって子猫を見ていた。

「か...かわいい~!!」

アリスの顔は緩み、ゆっくりと子猫に近づいて行った。

「どこからきたのかにゃ~?お家はどこかにゃ~?」

アリスが変な口調をしながら近づくと子猫は素早く逃げて行った。

「あっ!逃げられちゃった........ハッ!」

アリスは振り返り、将也の方を見た。

「あっ。これはその....ええっと....ち、違うんだ!!」

将也の前でアリスが顔を赤くしながらオドオドとしている。

「っぷ。あはははは~!」

将也は大きな声で笑った。

「な、なによ!べつに猫とか可愛い物が好きで悪いわけ!!」

アリスは恥ずかしそうに怒った。

「ごめんごめん。アリスって周りがイメージしているのと全然違うなって思ってさ。それなのに自分をそのイメージ通りに取り繕って行動してるんだもん。」

将也はクスクスと笑っていた。

「そんなに笑わないでよ....」

アリスがむすっとしながら将也を睨んだ。

「やっと見つけたのだ~。」

将也の後ろから女の子の声がした。

振り返ると茶髪で癖っ毛の髪が肩に乗るくらいの小柄な女の子が手を振って近づいてきた。

「あぁ!メロー!!」

アリスが女の子の元に駆け寄って行った。

「あっ!こちらは私の親友のメロって言って第四席なんだ。」

「どうも~。アリスがまた道に迷っているのかと思って探しに来たのだ~。」

メロはトロンとした目にゆったりとした話し方をしていたが、アリスと同様に襟元には『四席』と書かれている勲章があった。

「メロ、毎回すまない。」

アリスはホッとしているようだった。

「アリス~。時間が無いからもう行くのだ~。」

メロはぐいぐいとアリスを引っ張っていった。

「あっ!色々ありがとな!!」

アリスは手を振って将也に別れを言った。


「急な別れだったな....」

将也は遠くに小さく見えるアリス達をぼんやり眺めていた。

「魔王様~.....いったいどこで何をしていたのですか?」

後ろから聞き慣れた声がした。将也は後ろを振り返っちゃダメだと本能が言っている気がした。

「アヤ......」

恐る恐る振り返るとアヤが将也のリュックを担ぎ、両手には買ってきた食料を持ってニコニコとしていた。

「魔王様が無事でよかったです。」

「あ、ありがと....ごめん.....」

「謝らなくていいですよ。本当に無事でよかったです。」

(あれ?怒らないのかな?)

将也は少しだけ希望を抱いた。

「もし魔王様の体に何かあったら......お仕置きができないところでしたよ。」

「やっぱりぃ!!」

「罰としてこの荷物を魔王城まで持って行ってくださいね。」

「ひぃ~!!」

それから将也は魔王城に帰るまで、重い荷物を持ちながら淡々とアヤに説教をされ続けた。



「あれ~?今日は4本しか剣持ってないのか~?」

将也と別れたメロはアリスの腰に掛けた剣を見ながら聞いた。

「今日は会議だけだし、そこら辺の魔物だったらこれで十分さ!」

アリスは剣を撫でながら答えた。

「ふぅ~ん。もしアリスが探しているに遭遇したらどうするのだ~?」

アリスは立ち止まった。

「そうだな....4本でどうにかするしかない....」

アリスは今までになく殺気籠った声で言った。

「祖父の敵を取ろうとするのはいいけど無理はしないようにするのだ~。」

アリスは大きく一回深呼吸をした。

「もしそのような時はメロにも手伝ってもらうぞ!」

アリスは笑顔で冗談ぽっく言った。

「それは勘弁なのだ~。そういえばさっきの男は誰なのだ~?」

「んっ?あの人は一緒に中央議事堂を探してくれた優しい人だ。そういえば名前聞いていなかったな....」

「ふ~ん....」

メロは目を細めた。

(さっきアリスといた男、よくわからないけど私達とは何か違う感じがするのだ...)

「まあ、アリスが無事でよかったのだ~。」

こうして2人は無事、中央議事堂に着くことができた。




その日の夜。将也は自分の部屋にいた。

「今日は少し疲れたな~。でも勉強できてなかったからシャワー浴びたらしっかりと勉強しよう。」

今日は歩き回ったので少し体がべたついていた。

シャワーの蛇口を捻ってお湯が出てくるのを待った。

「・・・・・・・・・・・・・・んっ?」

一向にお湯にならなかった。

「あれ?お湯にならないぞ、どうしよ....」

将也は水浴びも考えたがせっかくだし魔王城の大浴場に行くことにした。



脱衣所に入り、誰もいないことを確認した。

大浴場からはふんわりと温泉の硫黄の匂いがした。

「このお湯ってニアの魔法で温泉に繋がっているってアヤが言ってたな....」

将也は裸になって自分がしている首飾りを見た。

「これってなんの金属なんだ?色は違うけどもし銀とかだったらイオン化傾向の関係で反応しちゃうな....」

(貸そうかな、まああてにすんなひどすぎる借金...)

将也は首飾りと眼鏡を置きながらイオン化傾向の語呂合わせを心の中で唱えた。

部屋から持って来た洗面器にボディーソープとシャンプー、あかすりを入れて中に入った。

「うわ。そこら辺の旅館より大きいかも。」

将也は目を細めながら鏡の前にある椅子に腰かけた。

鏡のすぐ下には木でできた蓋みたいなものがあり、それを外すといい感じに温泉が出て来た。

「ニアの魔法って便利だな。これじゃあ水道代とかかからないし。」

将也は洗面器にお湯をためて体を洗い始めた。

(魔王城の人たちは毎日温泉に入ってたのか....贅沢だな。)

将也は体を洗い終え、今度は頭を洗い始めた。

(でも水道代とかかからないし、僕もこれからはこっちに来ようかな....)

将也が頭を洗っていると誰かが後ろから近付いてきた。

「うりゃ~~~!!」

「わぁ!!な、なんだ!?」

誰かに後ろから飛びつかれて将也は心臓が止まるかと思った。

「よっ!魔王様が風呂に入ってるとは珍しいぜ!」

将也は薄っすらと目を開けて後ろを振り返った。

「カ、カルテ!?」

カルテが将也の背中に飛び乗っていた。もちろん服などは着ていない。

「服も着ないでなんでここにいるのさ!!」

将也は赤くなりながら言った。

「んっ?風呂は服着ないだろ普通。」

「そういう事じゃなくて!普通、女の子は裸を人に見せないもんだよ!」

将也は前を向き、目を瞑っていた。

「別にわたしは気にしないぜ!家族だしな!!」

「僕は気にするよ!!」

「これがシャンプーなのか~!」

焦る将也とは対照的にカルテは将也の頭についている泡を不思議そうに見ていた。

「あの、カルテ。ちょっとくっつかないでくれる?」

将也の背中にはカルテの柔らかい胸が当たっていたので離れるよう促した。

「え~?わたしな、魔王様くらいの大きさの背中が好きなんだ!なんか落ち着く。」

カルテは余計に体を密着させてきた。

「こ、これは魔王の命令だ!今すぐ離れて!!」

「ちぇ...。」

カルテは渋々将也の背中から離れた。

「そうだ魔王様。これの使い方教えてくれよ!」

カルテは将也から貰ったシャンプーを差し出した。

「わかった。じゃあとりあえずここに座って!!」

将也は自分の頭を流し、カルテを椅子に座らせた。



(まさかこんなことになるとは...)

将也はカルテの後ろに立ってカルテを見た。

(今思ったけど、裸眼だからカルテの体とか全然見えないじゃん....)

将也の視力は0.02以下で乱視もあるため、目から約10cmのところまで物を持ってこないとはっきりと見えないのだ。

(目が悪くて幸運だったのか、それとも見えなくて不運なのか....)

将也は健全な男としてついてないと思ったが、内心ホッとしているところもあり、複雑な思いをしながらカルテの髪をシャンプーで洗い始めた。

「うぉー!!これがシャンプーか!!すげぇ~!!」

鏡にはぼんやりと嬉しそうにするカルテの表情が見える。

(ぼんやりとしか見えないけど、カルテって案外胸あるんだな....)

将也はさっきまで背中で感じていた感触を思い出し、1人で赤くなっていた。

するとカルテが振り返り、将也の下半身を見た。

「やっぱり魔王様は男だな!!」

将也は本当にカルテが女であるのか疑問に思った。

「昔な、よく親父と兄貴3人で風呂に入ってたんだぜ!凄く懐かしいぜ!」

カルテはより上機嫌になった。

「だから男の人と一緒にお風呂に入っても平気なんだね....」

「別に誰でもってわけじゃないぜ?信頼している家族なら男女関係ないぜ!」

笑顔で言うカルテの言葉を聞いて、将也は少し照れた。

「わたし、自分で言うのもあれなんだが男っぽいだろ?多分親父のせいなんだ...」

カルテは口を尖がらせて話し始めた。

「兄貴たちは男と女の違いは股についているか、ついていないかって言ってたんだ。だがな、親父になんで親父や兄貴達にはあるのにわたしには無いんだ~?って聞いたんだよ。そうしたらなんて言ったと思う?」

将也は普通に考えた。

「男と女だから?」

カルテは腕を組んで親父の真似をしているように言った。

「『お前もいつか生えてくる...』って言われてそれから何年もその言葉を信じていたんだ!!だから子供の頃は自分が女ってことも知らなかったんだぜ。」

将也はカルテが男勝りな態度をとっている理由がやっとわかった。

「まあ、僕は女の子っぽいカルテも見てみたいけど、今のカルテも十分好きだよ。」

するとカルテが振り向いて将也を見た。

「私も魔王様は好きだぜ!」

カルテの満面の笑みは視力の悪い将也にもはっきりと認識することができた。


それからシャンプーを流し終え、2人は暫く浴槽に浸かっていた。


脱衣所で着替えを済ませ、将也は自分の部屋に戻ろうとした。

時間は夜の11時前であった。

部屋のドアにカギをかけていたので中には誰もいなかった。

将也は洗面所の鏡を見た。

「完全にのぼせてるよ....カルテがどっちが長く入っていられるかとか言うから....」

将也は勉強机に座り、勉強道具を広げた。

「・・・・・・・・・・・・・」

将也は今になって女の子と一緒に風呂に入ったことを思い出した。

いくら中身が男っぽくてもカルテの見た目は十分女の子である。

「やばい....今になって恥ずかしくなってきた....」

煩悩をかき消そうと参考書に目を通すが、どうしても思い出してしまう。

(煩悩よ消えろ!!ず、ざら、ず、ざり、じ、ぬ、ざる、ね、ざれ、ざれ....)

将也は頭の中で古文の活用形を繰り返した。


結局その日は勉強に集中することはできなかった。


                    ~魔王、勉強に集中できない~ END

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