第9話 イヴ物語 小さなメイドさん
魔王は魔王城に帰るとイヴをアヤの所へ連れて行った。
「アヤ、もうこの城の仕事は慣れてきただろ?こいつ人間のガキだが仕事を調教してやれ。」
「えっ?どうして魔王様が人間の子どもなんか連れてきたのですか!?」
アヤが大きな声で言うと、周りにいた他の魔物も魔王の方に視線を向け、注目した。
「まあ色々わけがあるのだが、捕虜だ。都合のいい人質であり奴隷だ。だからこの城の雑用をこいつにやらせるためにお前の力を借りたい。言わばお前の初任務ってやつだ。」
「わ、わかりました。魔王様がそこまでおっしゃるのであれば...」
アヤはチラッとイヴの方を見た。
(これは面倒ですが魔王様直々の任務であるなら仕方ないわね...)
アヤはため息をもらした。
「ああそうだ。人間の子よ。もしこの城内から逃げ出そうとしたり、泣きわめいたりしたらひどい目に合わせるからな。気をつけろよ。」
そう言って魔王はどこかへ行ってしまった。
アヤはしゃがみ込みイヴに目線を合わせた。
「私の名前はアヤ、あなたは?」
「...イヴ。」
弱弱しい返事をしたイヴに対し、アヤは大きなため息をついた。
(まだ5才にもなってないただの子どもじゃない....)
「イヴね、あなたでもできる仕事を覚えてもらうわ。まずは大浴場から。」
アヤはイヴと大浴場へ向かうために長い廊下を歩いていた。
するとイヴがアヤに手の平を向け、何かを呟いた。
「て....つなぐ...」
アヤは目を細めた後にイヴを無視してスタスタと廊下を歩いた。
イヴはシュンっと落ち込んだ素振りをして下を向いた。
(本当にただの子どもね..)
アヤが連れてきたのは、魔王城にある大きな大浴場であった。
「ここは大浴場よ。早朝と夕方に浴槽の中と外、鏡を掃除してお湯を張ること。それが終わったら脱衣所も掃除すること。あそこの穴からはニアの魔法でお湯が流れ出てくるから、掃除するときはそこにある蓋をはめること。あと少しで夕方になるからその時にまた説明するわ。」
アヤが説明したがイヴはアヤの顔をじーっと見ているだけだった。
(ちゃんと理解したのかしら...子どもの相手って難しいわね。)
次に連れて来たのは食堂であった。
「あなたに料理はまだ早いから床とテーブルの上の掃除ね。掃除用具は洗い場の横にあるから。食事が終わったら椅子の上に立ってもいいから洗い場で食器を洗うこと。これを毎日3回ずつね。」
イヴはボーっと食堂を眺めていただけであった。
「次は洗濯。」
アヤは中庭に向かうためにまた廊下を歩いた。
するとまたイヴが手を出してきた。
「あなたね、ピクニックじゃないのよ?わかってる?」
「...うん。」
またイヴはションボリとして下を向いた。
2人は中庭に出た。
「あそこにある井戸から水を汲んで、服を洗って中庭に干すこと。間違っても井戸には落ちないでね。」
アヤは井戸を指差して説明した。するとすぐ横の花壇にブレッタとカーズが居たのでアヤは近づいて行った。
「2人ともここで何しているのかしら?」
「これはアヤさん。今お花に水をあげてたんですよ。」
ブレッタは大きな体には似合わないジョウロみたいなものを持っていた。
「私は花を見に来ただけです。」
カーズは嬉しそうに花を見ている。
「あなたって門番よね?こんなところで油売って大丈夫なの?」
「へーきへーき。まだ人間達はこの城の場所を知らないみたいですし、どうせ今日も誰も来ませんよ...おや?そちらの白い髪をした小さな子は?」
カーズはイヴに目を向けた。
「この子はイヴっていって。人間の子どもなんだけど魔王様の命令でここで働かせるみたいなの。」
カーズは身を屈めてイヴをまじまじと見た。
「ほぉ~、魔王様も変わったことをしなさる...」
イヴは少し怖がり、アヤの後ろに隠れた。
「なかなか可愛らしい子ですね。」
ブレッタはジョウロを置きイヴを見ていた。
「この子は人間なのですよ?2人とも煙たがらないの?」
「確かに人間ですが子どもは無邪気で素直でいいもんですよ。アヤさんは羨ましいです。門番と違って面白そうな仕事で。」
カーズは茶化すように笑った。
「そんな楽な物じゃないです。では私は次の仕事を教えないといけないので失礼します。」
2人は廊下を歩いていた。
「あとは城内の掃除ね、この後は図書室へ行ってそれから...」
アヤは説明の途中でイヴがまた手を出していることに気がついた。
イヴは手を出しているが下を向いて俯いている。
(はぁ...また手を出してるし...)
アヤは大きなため息をした後にそっとイヴの手を握った。
イヴは驚いたような顔をしてアヤを見上げた。
「はぁ...。廊下を歩く時だけですよ?」
そう言って微笑むと、イヴは満面の笑みをアヤに見せた。
「うん!!」
(うっ...)
アヤは瞬時にそっぽを向いた。
(私ともあろうものが不覚にも人間の子どもを可愛いと思ってしまった...)
チラっとイヴを見るとまだニコニコしている。
(まぁ、少しは面倒みてあげますか。)
それからアヤは多くの仕事を教え、イヴは何回も失敗しながらも、すべての仕事をこなすようになった。最初は、魔王城の魔物達はイヴを軽蔑するような目で見ていたが、常に笑顔でいるイヴを見て心を開き始め、何ヵ月か経つと、イヴのことを我が子のように、また妹のように扱う魔物が増えてきた。
「あっ!ここにいたのねイヴ!!」
イヴが廊下の掃除をしているとマインが走ってやってきた。
「まいん、こんにちは!」
イヴが笑顔で挨拶をするとマインはイヴをぎゅっと抱きしめた。
「ほんとにあなた可愛いわね!この白い髪の毛も綺麗だし!思わず血を吸いたくなっちゃうわ!」
「うぅ..くるしぃ...」
イヴはマインの大きな胸の中でもがいている。
「あっ!そうそう、可愛いイヴちゃんにお土産よ!」
マインが離すとイヴは膝に手を着きながら大きく深呼吸をした。
「じゃ~ん!これはメイド服っていって、お掃除とかする女の子が着るものみたいなの!さっき襲った国の見習いメイドの子が着ていたからあげるね!」
イヴは戸惑いながらメイド服を受け取った。
「せっかくだから着てみよ!手伝ってあげるから!」
マインはお人形遊びをしているようにイヴにメイド服を着せた。
「あ、あの..」
メイド服はイヴのサイズにピッタリだった。
「ぐはっ!いかん、せっかく吸血したのに鼻から出すところだったわ...」
マインは何回か大きく息を吸ったり吐いたりを繰り返した。
「それじゃあ、お掃除頑張ってね!」
マインが通り過ぎると今度はアヤが通りかかった。
メイド服姿を見てアヤはクスクスと笑い始めた。
「何その服..あなたにピッタリね...ふふふっ」
「むぅ~.....脱ぐ!」
イヴは頬を膨らませてメイド服を脱ごうとした。
「脱がなくていいわよ。イヴらしくて可愛いじゃない。」
アヤはイヴの頭を撫でた。
「今日も完璧に仕事してくれたのね。ありがと。」
「....えへへ!」
アヤとイヴは幸せそうに笑い合った。
その頃、魔王は魔王の座の椅子に座りニアに話しかけていた。
「人間のガキがここに来てから城内は少し雰囲気が明るくなったな。ニア、お前はあいつのことどう思う?」
魔王は天井を眺めながらニアに話した。
「う~ん、そうですね、イヴの存在のせいで人間に対する見方が変わってきている気がします。良いことなのか悪いことなのかはわかりませんが...」
ニアは腕を前で組みながら悩むように答えた。
「お前もそう思うか、しばらく様子を見てみよう。最悪の場合は殺さなくてはいけないな....。」
~イヴ物語 小さなメイドさん~ END
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