第8話 イヴ物語 出会い



「魔王様!今日はどこの村を消しましょうか!!」

ニアの隣を歩いているのはこの時代に魔物を治めていた魔王という男である。

「そうだな、王国にばれないような村がいいから西の森の中の村にでもしよう。」

その男は魔王のイメージとは異なり、細身の体にきりっとした目元、綺麗な顔立ちをしていて、黒い服と黒いズボン、黒いマントのような物を羽織っている。

「わかりました!ではしゅっぱーつ!!」


ニアの魔法で2人は森の中にある村にやってきた。

2人が姿を現した瞬間に村中が大パニックとなり、人間が一斉に逃げ始めた。

「全く、こう逃げられたら厄介だな。ニア....」

「はい、魔王様!」

ニアが手を伸ばすと村がドーム状の黒い塊に囲まれた。

そこに突っ込んだ人間は、村の反対側の黒い塊から村に入るように出てくる。

魔王が1人の男の胸ぐらを掴み上へ持ち上げた。

「ここに俺達の同胞がいるって聞いたんだが知らないか人間?」

「クソッ!この魔物が!!」

その男はもがきながら魔王の腕を蹴った。

「教える気はないのか...ふんっ!」

魔王が力を入れると、男は一瞬で灰になり消えていった。

そのとたん、村人たちの悲鳴が増し、家に隠れたり、魔王から逃げるように走って行った。

「全く、人間とはこんなにも馬鹿な生き物なのか...」

すると村の建物が急に発火し、中にいた人間達が一斉に出てきた。

「この村の長はいないのか?出てくるまで村を焼き続けるぞ!」

魔王がそう言うと村の長と思われる男が現れた。

「私が村長である。何でも言うことは聞きますのでおやめください。」

村長という割にはそこまで老人ではない風貌であった。

「そうか、ならまず人間をこの村の中心に集めろ、その後に俺らの同胞の居場所を教えてもらおうか。」

村長は魔王の要求をのみ、村人を村の中央に集めた。

「じゃあニア行くぞ。」

「はーい!」

魔王とニアは村長に連れられ、村の地下室みたいなところへ連れていかれた。

中へ入るとそこは牢獄であり、牢獄の中にはハーフと思われる魔物が何人もいた。

しかもそのほとんどが酷く消衰している。

「俺の同胞達よ。今開放してやる。」

魔王が金属でできた牢獄の檻を掴むと、檻の金属が凄い音を立てて溶け始めた。

「ひっ!」

横にいた村長は恐怖からか体を小刻みに震わせていた。

「なぁ村長よ、お前はこいつらが何か罪を犯したとでも言うのか?ただ、人間ではない魔物ってだけでここに閉じ込めたんじゃないのか?」

魔王の表情は変化していないが、とても冷たく恐ろしい雰囲気を感じる。

「ま、魔物は我々の天敵、生きていることだけで罪なのだ!!」

村長が懐からナイフを出し、魔王目掛けてナイフを突き出した。

しかし、村長の肘から先が黒い塊に飲まれた。

「ほんとうに愚かですね、人間というのは...」

ニアが前に出した手をギュッと握り締めると、黒い塊は村長の腕を飲んだまま消滅し、村長の腕の断面から赤い血しぶきが吹きあがった。

「ぐっ、ぐわぁぁぁぁ!」

その場で村長はうずくまった。

そうしている間に檻は完全に溶け、中の魔物達がヨロヨロと出てきた。

「お前たち、遅くなってすまなかった。これからは新たな道に進むがよい!ニア、こいつらを村の外に出してやってくれ。」

「はーい!」

ニアは魔法を使い、その場から魔物達と共に消えていった。

「さてと、じゃあこの村を消すか。」

魔王は牢獄を出ると凄まじい炎を身に纏い始めた。

「人間達よ。お前らは皆同罪だ。」

瞬間、纏っていた炎が大きくなり村が炎の海と化した。

人間達は業火から逃れようと村から出るが、ドーム状の黒い塊のせいで村から出ることはできなかった。

すると、1人の母親が自分の幼い娘を連れ、魔王の前へやってきた。

すでに2人とも体に重度のやけどを負っていた。

「魔物様、どうか娘だけはお助けください。この子には何にも罪がありません。」

娘の目は朦朧としていたが、母親は強い眼差しで魔王を見ていた。

「お前の言う通り、その娘には罪はないな...」

「で、では!」

母親の後角が一瞬だけ上がった。

「だが、お前ら人間は罪のない俺の同胞たちを拘束し、時には殺したり奴隷のようにしていたじゃないか、そんな虫のいい話なんてないよなぁ~?」

その言葉を聞いた瞬間、顔が絶望の色で染まり、母親は地面に崩れ落ちた。

「人間は生きていることだけで罪なのだ....」

魔王の目の前でその親子は業火に焼かれていった。



それからしばらく経ち、村は全焼した。

「ふぅ、今日もいい運動ができたぜ。」

魔王は大きく伸びをした。

「お疲れ様です魔王様!あの魔物達は魔物が多く暮らしている村へ送ってきました!」

ニアが笑顔で言った。

「おっ!偉いぞニア。お前が居なかったらこんなにスムーズにいかないからな!」

魔王はニアの頭を撫でた。

「えへへ...」

「アヤのことがあった以上、もう魔物を不幸せにはさせたくないな。」

魔王は優しく微笑んだ。



2人が道を歩いていると、後ろから1人の白い髪をした若くて美しい女性が籠にリンゴを入れて走って来た。

「はぁ、はぁ、あっ!きゃっ!!」

その女性は2人の真後ろで派手に転んだ。

その拍子に籠に入っていたリンゴが魔王の前に転がった。

「あわわっ!ごめんなさい!!お怪我はありませんか?」

「そちらこそお怪我はありませんか?」

魔王は足元のリンゴを拾って女性へ渡した。

「ありがとうございます!よく転んじゃうんですよ。あはは...」

女性はリンゴを受け取りお礼を言った。

「実は今日は娘の4歳のお誕生日なんです。あの子の好きなアップルパイを焼こうかなって。えへへ...」

女性は照れるように笑った。

「そうなんですか、それでは急がないといけませんね。」

「あれ?おふたりはご兄妹なんですか?」

女性は魔王の後ろに隠れていたニアに気付いた。

「えっ?あぁ、そんなもんです。」

魔王は笑顔で答えた。

「そうでしたか!これはお礼です。仲良く食べてください。」

女性は魔王にリンゴを手渡した。

「それでは私は愛する娘のところに帰ります!ありがとうございました!!」

女性はお礼を言って、また走って行った。


「よく人間なんかと笑顔で話せますね...」

ニアがボソッと言った。

「俺だって好きで話してたわけじゃないぞ、どうせ殺すならまとめて殺した方が楽だしな。」

魔王は大きな声で笑った。

「(でも、白い髪とは珍しかったな、まさかな...)」


暫く歩いて2人が着いた場所は『水の都 スヴェール』であった。

しかし、2人が来てみると人間の死体が多く街中に転がっており、建物など崩れていて、もうすでに壊滅していた。

「この切り刻まれた死体ばかりってことはカルテがもうここに着いたってことか。」

すると、1人の人間が地面を這いながら近づいてきた。

「あ...あなた達は、さっきの....」

その人間は先ほどリンゴをくれた白髪はくはつの美しい女性であった。

「に、にげなさい!早くしないと女神が...殺戮の女神が来るわよっ!」

その女性は膝から下が無く、膝の断面からは血が流れ出ており、血痕の先を見ると彼女のものと思われる足が無残にも転がっていた。

「はぁ..はぁ、もし生き残ったら、この町の一番北にある赤い屋根の家にいる私の、私の娘をおねがっ...」

何かが弾け飛んだ音と共に、女性の頭が真っ二つになった。

「あっ!魔王様たちもここまで来ていたのか!」

少し離れたところからカルテが手を振りながら近づいてきた。

カルテの背中には水でできた大きな羽みたいなものが浮かんでいる。

「おぉ、カルテも随分早いな。」

魔王が褒めるとカルテは平らな胸を張って答えた。

「当たり前だろ!このあたしが任務に就いているんだ!!」

「その羽みたいのは何なの?」

ニアがカルテの後ろを指差した。

「これは水なんだ!わたしは水を刃のように扱うからね、そのストック!」

「ふ~ん、確かに今の姿は女神っぽいかも!」

「だろ?」

カルテはニシシと笑った。

「カルテ、あとは俺に任せろ。」

「おう!でも魔物も解放してきたから何もすることないぜ?」

カルテが首を傾げた。

「1つだけ気になることがあってな。ちょっと確認するだけだ。ニア行くぞ。」

魔王達は北へ向かい始めた。



魔王とニアが町の最北端を目指して歩いていた。

「別にカルテはついてこなくてもいいんだぜ?」

「魔王様の気になるものが気になるんだ!」

カルテは機嫌よく魔王の後ろをついて行った。

「むぅ~...」

ニアだけは不機嫌そうな顔をしていた。

町の最北端に行くと、赤い屋根をした家があった。

すでにカルテの襲撃を受けた痕跡があり、家に入るとタンスや机などが切り刻まれていてボロボロになっていた。

人影すらなかったが床に敷かれたカーペットの下に何かがあることに気が付いた。

「これは、地下倉庫か?」

魔王が扉を開けてみると、食料が積んである隣に1人の白い髪をした女の子が座っていた。

「あれ?あたしとしたことがまだ1人残ってんじゃん。」

カルテの目が冷たく光った。

「待て!!」

魔王が止めた。

「この子は魔王城へ持ち帰る。」

「ちょっと魔王様!さっきの人間の言う事でも聞く気なのですか?」

ニアが焦りながら言った。

「人間の、しかもただの子どもですよ?何を考えているのですか?」

「実は最近ある夢を見るんだ。」

魔王は女の子の白い髪を見ながら話し続けた。

「俺は変な空間の中のある白い扉の前にいるのだ。何をしてもその扉は開かない。すると、どこからか声がしてくるんだ。」

『この先へ行きたいの?行きたいなら白髪の少女を殺してはいけないよ...』

「その後に目が覚めるのだが、ここ何日も同じ夢を見るのだ。」

「す、すげー!!」

魔王の話を聞くとカルテは目をより輝かせた。

「絶対何かの予言だ!現にこの子はこの町唯一の生き残りだし何かの力があるんだ!!」

「でも魔王様!他の魔物達も納得いかないと思います!」

「ニア、勘違いしないでくれよ。俺はこいつを立派に育てたいわけじゃないんだ。ただ監視するだけだ、魔王城で奴隷として扱ったり、王国にスパイとして送り込んだりする駒として今は考えている。人質という選択もあるから案外使えるかもしれんな。」

魔王があくどい笑みを浮かべた。

「なぁ、人間の娘よ。お前の名は何というのだ?」

4歳の白髪の少女は魔王の顔を見ながら答えた。

「....イヴ。」

「そうかイヴ、これからよろしくな。とりあえず俺の城で奴隷として働いてもらうぞ。」


                        ~イヴ物語 出会い~ END



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