第7話 従者のトリセツ
アヤに連れられて将也は図書室にやってきた。
城の中とは思えないくらい大きな場所で、大きな棚がいくつも並べられており、本がぎっしりと詰まっていた。テーブルと椅子がいくつもあり、現実の世界も含め、こんなに立派な図書館を将也は初めて見た。
「中央の広い通路を境に右側は人間に関連する書物です。左側が魔物に関連する書物です。ご自由にお読みください。」
将也は左側へ行き、本を選び始めた。
魔王城の構造や魔物と人間の違い、魔法一覧など様々な本があり、どれも興味深いものだった。すると、将也の目に吸い込まれるように映った本があった。
「なんだこれ...『従者取り扱い説明書』?」
将也は手に取ってパラパラと捲った。
ザックリとした内容は魔王城の従者が簡単に紹介されている物であった。
「魔王として読んでおかないと...。」
本を持ってテーブルの方へ行き、椅子に腰かけた。
アヤも隣に腰かけ、違う本をテーブルに置いた。
「その本は私達従者の性格や生い立ち、様々な情報が記載されております。すべて事実ですので魔王様がこの城を治めるにはよい書物でしょう。」
将也は本を読み始めた。
〇『ニア』
特徴:猫型、身長137cm、フードを常に被っている。
魔法:距離を操る魔法。言語を操る魔法。
性格:人懐っこく常に笑顔である。
好物:甘い物、人間
※ 魔王城の中でも魔力が強く、彼女がその気になれば簡単に人類を絶滅させるこ とができるらしい。彼女の魔法はこの世界を作った3人の神のうちの1人の魔 法と同じものらしく、彼女を神と崇める人間もいる。イヴ期に入ってから人間 に対し好意を持つようになったがイヴ期以前は気に入らない村の人間を神隠し させたり、多くの悪事をしたらしい。
〇『ブレッタ』
特徴:ヤギ型、身長254cm、兜と鎧
魔法:特になし
性格:温厚で人情がある、臆病
好物:酒、野菜、花
※ 大きな体と力が強いため護衛の任務が多いが、臆病なため無駄な争いを好まな い。コンプレックスは自分の首から上でありいつも兜を被っている。
〇『カーズ』
特徴:ダークエルフ型、身長187cm、丸いサングラスとシルクハット
魔法:人の心を読む魔法
性格:優しい、能天気
好物:トランプ、日向ぼっこ、子ども
※ 一見怪しい風貌であるがとても心優しい。戦闘は得意ではないが人との駆け引 きは魔法を使わなくても長けている。
あるギャンブル好きの国王とその娘の姫の命を賭けて勝負などした。彼が賭け で負けた姿を見たことがないことから『天命の賭博師』などと呼ばれていた。 将来の夢は大家族を作ること。
〇『マイン』
特徴:吸血鬼型、身長158cm、赤紫の髪
魔法:エナジードレイン(吸血)
性格:とにかく面倒くさがり
好物:寝ること、転がること
※ 数少ない吸血鬼型の魔物である。吸血前はナメクジのような生活をしているが 血を吸うと顔色が良くなり身体能力が飛躍的に上昇する。
『紅い夜』と呼ばれる一晩で1つの国を滅ぼした事件の犯人である。いつでも吸血 できるよう人間の血を持ち歩いているらしい。
〇『アヤ』
特徴:?型、身長164cm、メイド服
魔法:肉体強化、欲を見通す能力
性格:感情の起伏が少なく大人しい
好物:紅茶
※ 人間の村で育ち、ある出来事をきっかけに魔王城へ来た。彼女の証は背中にあ るらしいが、ほとんど見た人はいない。人間、特に人間の男が嫌いであり、暗 いところも苦手である。いつも着ているメイド服は尊敬している側近のイヴが 着ていたことから真似しているらしい。
〇『カルテ』
特徴:エルフ型、身長160cm
魔法:水を操る魔法
性格:好奇心旺盛、マイペース
好物:不思議な物
※ 見た目は可愛らしい女の子であるが話し方や仕草は男っぽい。家族に女性がい なかったせいか、男女の違いには疎い。好奇心が強く、興味を抱くと周り を気にせず好き勝手に行動してしまう。
イヴ期以前に『殺戮の女神』と恐れられ、殺戮数は魔物の中ではトップらし い。一部の人間に崇拝されており、水の都には彼女の銅像が建てられている。
〇『ゴルティア・クラフト・ムーン』
特徴:人間、身長152cm、
魔法:ありとあらゆる魔法
性格:スケベ
好物:若い娘
※ 魔王城で生活をしている人間である。皆からゴル爺と呼ばれている。多くの魔 法を使えるが歳のせいかどれも力が弱い。若いころは人から大魔導と呼ばれる ほどの魔法使いであったらしい。魔法の研究の成果により長生きしている。魔 法の用途は主にセクハラ。
〇オロナ
特徴:鬼型、身長177cm、青紫の髪
魔法:死を操る魔法
性格:大人しい、オカマ、潔癖症
好物:美しい物、甘い物
※ 常に右手をポケットの中に入れている。その右手には鬼の力が宿っており触れ たものの命を奪う。美への執着が強く醜い物や汚い物は苦手。服装は普通の男 物だが口調や仕草は女性のように振舞っている。悩みは生えてくる髭の処理。
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他にも多くの従者の情報が記載されていた。
読んでみると確かに性格などが一致している。それに魔法などがわかりやすく記載してあり、魔法について素人の将也にはありがたかった。
「このイヴ期って呼ばれる前の時期は今よりも物騒なことをしてたみたいだね。特にこの『殺戮の女神』って二つ名は考えるだけで恐ろしいよ...」
「あたしのこと呼んだ?」
急に後ろから少年のようなあどけない声がしたと思ったら誰かに背中から飛びつかれた。
「うわぁ!!」
「初めまして魔王様!あたしの名前はカルテって言ってそこに書いてある殺戮の女神だ!」
振り返ってみると金髪でサイドポニーテールの可愛らしい女の子の顔がすぐそこにあった。
「初めまして、ちょっと離れてくれないかな...?」
将也はドギマギしながら言ったが、カルテはそのままスンスンと鼻を動かした。
「魔王様の髪の匂いってなんか不思議な感じだ。結構サラサラしてるしどうなってるんだ??」
本に書いてあった通りの反応であった。
「今度教えるから今はとりあえず離れて!!」
「やったぜ!じゃあ離れてやる!」
離れたカルテを改めて見ると、魔法使いが着ているイメージ通りのローブを着ていたが、袖が短くカルテの肘が見えている。下も膝元が見えるスカートのようになっていた。そしてカーズ同様、耳が少し尖っていた。
「あら、カルテいたのね。」
アヤがカルテに気が付いた。
「ただいま!なんか新しい魔王様が異世界から来たって言うから気になって戻ってきちゃったぜ!」
目を輝かせながらカルテは将也を見ている。
「カルテ、ちゃんと任務はしてきたのかしら?」
アヤが聞くとカルテは小さな胸を張って答えた。
「そんな任務なんてやってる場合じゃないよ!こんなにも不思議なことがあるんだから!!」
アヤはカルテの両耳を掴み、引っ張った。
「任務は任務でちゃんとやりなさい!」
「いたたたたっ!!やめ、やめろぉー!耳が伸びる!伸びるって!!」
「あなたは元から長いでしょ?」
アヤが手を離すと床に座り込み、カルテは赤くなった耳を半泣きで擦った。
「もぉ~、痛いじゃないかぁ~...」
「魔王様にかまってもらいたいなら任務を終えてからにしなさい。」
「うぅ...わかったよ。」
アヤに説教され、カルテは床であぐらをしながら渋々返事をした。
「じゃあ、任務に戻るから帰って来たら色々教えてくれよな魔王様!」
そう言ってカルテは図書室から出ていった。
「なんか、凄い勢いだったな...」
「多分カルテが帰ってきたら魔王様は質問攻めにあいますね。」
「それは勘弁してほしいな...」
将也はもう一度本を見た。
「アヤって人の欲を見通すことができるって書いてあるけど本当なの?」
「はい。結構疲れるのであまり使いませんが、人が頭の中で考えている欲求を知ることができます。よく魔王様は勉強をしたいと思われていますね。」
(確かに今思い返せばアヤの言動や行動は僕の考えをわかっていたような気がする...)
将也は苦笑いした。
「それに今の魔王様はこのイヴ期について知りたいようですね。」
「そうだね。中庭にあった墓石に彫られていたイヴっていうのと関係があるの?」
「はい、簡単に言えばイヴ期というのは私達がイヴと出会った後の時期です。彼女との出会いが私達の人間を見る目を変えさせました。」
アヤは立ち上がり本棚へ向かった。
「彼女の存在が今の魔物と人間の関係を築いたと言っても過言ではないですね。」
スッっとアヤは一冊の本を手に取り、将也に渡した。
将也はその本を受け取り、読み始めた。
その本のタイトルは『イヴ物語』。
~従者のトリセツ~ END
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