第4話 探索魔王城


「う.....。あれ?」

将也が気が付くとふかふかのベッドの上に横たわっていた。

「あら!魔王様が起きましたわよ!」

体を起こすと、そこは幽閉室のベットの上だった。

「魔王様お目覚めになりましたか?」

反射的にアヤの声にビクッと身を震わせてしまった。

「魔王様が気絶してしまったのでここまで運んできました。」

アヤは自分の肩を重そうに回した。

「あっ....ごめん」

将也は立ち上がりアヤの顔色を窺った。

「どうかしましたか?」

人を殺しそうなアヤの殺人スマイルに将也はドキッとした。

「あ、あの...さっきはごめん」

アヤはため息をついた後に将也にリュックを渡した。

「これ、魔王様に必要なのでしょ?持ってきました。」

そのリュックは勉強道具の入った将也のリュックだった。

「あ、ありがとう...。(なんでリュックが必要ってわかったんだろう...)」

ふと将也はエリーとアヤの顔を交互に見た。

「今更なんだけど、人間と魔物ってどう見極めるの?」

エリーもアヤも同じ女の子であり、将也の目にはどちらも普通の人間に見える。

「そうですね、魔王様にはそこから学んでいただかないと...。内面的な違いは魔物は様々な魔法を使うことができ、1人あたり2種類程度の魔法が使えます。稀ではありますが人間も魔法を使える者がいるらしいです。ニアは距離と言語を操る魔法を使い、私は瞬時に肉体を強化して人間離れした力を出すことができます。」

将也は廊下でアヤに殺されかけたのを思い出した。

(確かに人間離れしていたな....)

「外面的には魔物の寿命は人間に比べるととても長いことです。それと魔物と人間を区別するためには....」

アヤは部屋のドアを開けてブレッタを部屋の中に入れた。

「純粋な魔物なら見比べる必要はありませんが魔物には体のどこかに魔物の証があります。ブレッタ兜を取ってみて。」

ブレッタが重そうな兜をとり、大男の顔があらわになった。

「うわぁ!!」

将也は思わず悲鳴をあげてしまった。

ギロリとした緑色の瞳、獣のような口と鼻、頭には角が2本生えていて。ブレッタの首から上はヤギそのものだった。

「驚かせてしまい申し訳ありません、私の首から上は魔物そのものなんですよ。」

そう言ってブレッタは大きな兜を被り、部屋から出ていった。

「このように人間とは違う形状なため人間からは忌み嫌われる存在なのです。」

アヤは俯きながら説明した。

「でもアヤは普通の人間と変わりなく見えるけど....」

「私は背中にその証があります。でも、ここではお見せできないので申し訳ございません。」

アヤは将也に頭を下げた。いつもなら皮肉交じりな態度をとるのだが、今回のアヤはそんな感じを微塵も感じさせなかった。

どんよりとした雰囲気が部屋に漂い始めたが、エリーがパンっと手を叩いた。

「私の国には言葉通りに魔物と人間が共存していますわ!その魔物の出すお料理が凄くおいしいのよ!」

笑顔のエリーにつられ、アヤの顔が少し緩んだ。

「私の国の法律で王国が認めた魔物は人間と同じように接することって決まっていますの。もう私の国では意味なく迫害はさせません!」

エリーが自信満々に言うので将也とアヤは顔を見合わせてクスッと笑った。

「そうそう!魔王城に来れるなんて最初で最後かもしれないので少し見学したいのですがよろしいですか?」

目を輝かせるエリーを前にアヤは微笑みながらため息をついた。

「いいですよ。いい機会ですし魔王様にもこの城のことをわかってもらわないといけないので。」

将也は勉強道具の入ったリュックを見た。

(帰って来たらやらないとな....)



まず最初に案内された場所は大きなテーブルに何個も椅子が置いてある会議室であった。ここで色々な会議をするらしい。

次に案内されたのは食堂であった。

フードコートを連想させる作りと雰囲気であり、窓からさす日の光で明るく照らされていた。

「魔王城って言うからにはもっと怖い感じだと思ってたよ。」

「全く、何言ってるんですか?人間から見たら恐怖の館かもしれませんが私たちの生活する場所なのですよ?そういうところ考えましょうね。」

「あはは...(いちいち癇に障るな....)」

将也はカチンときたが平然を装っていた。

するとテーブルの端っこに誰かが顔を伏せていることに気が付いた。

「あそこでぐったりしているのが魔王城の幹部のうちの1人、マインです。」

癖っ毛で長い赤紫色の髪をした少女がぐったりとテーブルに潰れている。

「ほらマイン。魔王様とこの国のお姫様がいらっしゃったのに、いつまでそうしているつもりなの?」

アヤが強く言うと、マインは首だけを動かし将也の方を見たが、マインの赤い瞳ははどんよりとしていた。

「まおうさま...ひめさま...はじめまして....」

エリーと将也が自己紹介をしたが、マインの自己紹介は声が小さ過ぎてよく聞き取れなかった。マインは顔色が悪く、重度の貧血のような見た目であった。

「よろしく。大丈夫?」

「...しばらく.....ち、のんでないから...」

将也が尋ねてもマインは口しか動かさなかった。しかし、口の中には尖った牙が見えた。

「この子はいわゆる吸血鬼でありまして、血を吸わなくとも生きていくことはできますがご覧の通りに血が足りないと何もできません。」

アヤが横から説明したが、マインはピクとも動かない。

「もぅ...土に帰りたい...」

マインがまたテーブルの上で突っ伏した。

「こんなのが魔王城の幹部でいいの?」

「大丈夫ですよ。この子は戦う時以外では吸血しないのでこうなっておりますが、血を吸った状態ならそこら辺の人間には負けませんよ。」

自信たっぷりにアヤが言ったが、マイン本人はスヤスヤと眠り始めた。

「他の幹部もこんな感じなの?」

「まあ、個性はありますが皆強者ですよ。ちなみに幹部は最低1人は城の警備を行い、他の幹部達は他の魔物と共に城の外で人間を処分しに行く決まりになっております。今日はたまたまマインが警備のようですね。」

(これで戦えるのやら...)

将也は吐息を出しながら眠るマインを見て物凄く不安になった。



次に連れて来られたのは魔王城の門であった。

「ここは魔王城の門であり、こちらが門番のカーズです。」

門の前には洒落ているテーブルと椅子があり。その椅子に座っていたのは丸いサングラスのようなもの掛け、派手なシルクハットをかぶり、白とピンクのストライプのスーツのような格好をしている男がいた。しかもその男の耳は大きく鋭く尖っていて、エルフを連想させる耳であった。

「初めまして、私は門番をしているカーズと申します。魔王様にエリーお嬢様、よろしくお願いします。」

「あ、よろしく...」

「よろしく!」

不気味に笑うカーズの雰囲気に少し将也は戸惑っていたが、エリーは曇りない笑顔で挨拶をした。

「おや?魔王様は緊張しておられますか?じゃあ私と親ぼくを深めるためにカードゲームでもしましょう。ささ、そちらの椅子に腰かけてください。」

将也は言われるがままに腰かけた。

「あなた性格悪いわね。」

アヤがボソッと呟いた。

(えっ!?僕のこと?)

将也はアヤの方を見たがアヤはそっぽを向いていた。


「これから行うのはスリーハイアンドローです。まずこのトランプからランダムで3枚ずつカードを配ります。先攻と後攻を決め、後攻の人が先にカードを伏せてセットします。そして先攻は自分のカードを表で出して『ハイ』か『ロー』か宣言します。コールの後に伏せていたカードを表にします。コールした通りなら伏せた方が山札から1枚トランプを引き、間違いであればコールした方が1枚引きます。出したカードは捨て、最初に手札が無くなった方が勝ちです。一番低いのはAで、一番高いのはKとします。ちなみに同じ数はそのフェイズを繰り返します。まあ、説明ではわかりにくいので実際にやってみましょう。」

するとカーズはトランプを切り始めた。

「ちょっと待って!!」

将也はカーズの手を止めた。

「対戦する以上できるだけ公平にしたいからディーラーはエリーでいい?」

カーズはキョトンとしてから笑い始めた。

「いや~、さすが魔王様ですね。受身になりながらも勝ちを貪欲に掴もうとしておられる。おっしゃる通りです。私がイカサマをする可能性もあるということですね...」

カーズはエリーにトランプを渡した。

「じゃあ、切って配りますね...」

エリーは不器用にトランプを配り、余ったカードをテーブルに置いた。

「では先攻と後攻を決めますね。山札のカードを1枚ずつ引いてその数の大きい方が先攻ですよ。」

将也が引いたのは2、カーズは7であった。

「では私が先攻ですね。これは先攻と後攻でどちらが有利とかないので安心してください。それでは魔王様、カードをセットしてください。」

将也は自分の手札を見た。

(4と9とKか。実際カードを伏せる時は運だろうな...)

将也は9を伏せた。

「結構早めに決まりましたね。では私はこれで。」

カーズは2を出した。

「ローで。」

将也がカードを表にした。

「正解です。この場合は魔王様が山札から1枚引いてください。」

将也は10を引いた。

「次は私が伏せますね。」

カーズがためらいなくカードを伏せた。

(4と10とKか、ハイにするならKで負けは無いな...)

将也はKを出し『ハイ』とコールした。

カードを表にすると、カーズもKを出していた。

「おや、これはやり直しですね。お互いに引いてやり直しです。」

(Kを伏せてたのか....)

カーズはカードを引いたが将也は引かない。

「どうしたのですか?魔王様も引いてください。」

将也はカードを引いたがそれを手札に加えずテーブルに伏せた。

「これでいいよ。カーズ、セットして。」

カーズは黙ってセットした。

「ハイで。」

将也は10を出した。

カードを開けるとQであった。

「残念でした。また魔王様が引いてください。」

「・・・・・」

将也は無言で引き、またそのカードを伏せたままテーブルに置いた。

「カーズ、もしかして君は....イカサマをしているのかい?」

カーズの顔が一瞬無表情になった。しかしすぐに大笑いし始めた。

「いや~参りましたよ。まさかこんなにも早く気付かれるとは。」

さっきまでの張りつめた空気とは違い和やかな雰囲気に包まれた。

「え!?なに?何が起きたの?」

エリーはキョロキョロと周りを見て焦っている。

「魔王様、いつ気が付かれました?」

「君がKを伏せた時に気づいたよ。」

「いや~、あそこは素直に負けていればよかったです。」

「ちょっと2人で話を進めないでください!!」

さすがにエリーが可哀想なので将也は説明し始めた。

「普通Kはこのゲームで『ハイ』をコールすれば負けないカードなんだよ。逆に言えばそんな強いカードを伏せるなんて出すカードをわかってないと無理なんだよ。なのにカーズはそれを伏せていたってことは僕がKを出すことを知っていたんだよね?」

「はいそうです。私の魔法は相手の心を読む魔法なのでこういったゲームでは負けるはずがないんですよ。」

エリーがポカンとしている。

「でもカーズ、まだ勝負はついてないよ。なぜならこのカードは僕にもわからないんだから。」

「そうですね、では勝負をつけましょう。」

そう言うとカーズはカードを伏せた。

「ここからが本当の勝負だよカーズ。」

将也は手に持っていた4のカードを伏せていたカードに重ね、よく切ってからカードを見ないで1枚をテーブルに出した。

将也が出したのはJであった。

「ハイで!」

カーズは自分の伏せているカードを表にした。

「・・・・・・・・」

その瞬間、その場の者全員が声を出して笑った。

Jのカードの前に出されていたのはKのカードであった。



「魔王様を試すような真似をして申し訳ありませんでした。しかし、これで打ち解けることができましたね。」

将也も最初のイメージとは全く違くなっていることに気が付いた。

「あぁ、ありがとうカーズ。改めてよろしく。」

2人はしっかりと握手をした。

「この門番は最高にふざけた門番です。」

するとアヤが横やりを入れてきた。

「門番のくせに平気で一般人を城に入れるし、門の前に居ないと思ったら人間の少女たちと一緒になって花畑で遊んでいるし。」

「いやぁ、あの一般人は酒に酔ってフラフラで危なかったし、あの女の子達に花冠を作ってあげるって約束しちゃったんで....」

照れくさそうに笑うカーズを見てアヤは大きなため息をついた。

「魔王様、このような門番はトラウマにしましょう。」

「アヤ、トラウマじゃなくてリストラじゃない?」

アヤは固まったまま、顔を赤くした。


将也たちが門を離れ、カーズは1人になった。

「まさか私の魔法が効かないなんて、魔王様はいったい何者なのでしょう....」

カーズは掛けていたサングラスを外し、ポケットから出したハンカチでレンズを拭いた。

「まぁ、魔法を使わなくても魔王様の手札は見えたんですけどね.....」



その他にも色々な場所を回ったが、魔王城と呼ぶ割にはただの豪勢なお城であった。特に中庭には綺麗な花が咲き誇り、見たこともない木々の葉が青々としていた。


「ここが最後の場所です。」

アヤに連れて来られた場所は、中庭の花畑の奥にある大きな墓石と小さな墓石が隣り合って立っている場所であった。

「これは初代魔王様のお墓であります。私の命の恩人であり、誇り高き魔王様でありました。」

アヤは墓石の前で頭を下げた。

「こっちは?」

将也は隣の小さなお墓を指差した。墓石には『イヴ』と刻まれている。

「こちらはその魔王様の側近であり、私たちが最も愛した人間の眠る場所です。」

アヤはその小さな墓を撫でた。

「もう一度あなたと紅茶を飲みたいわ。イヴ....」


赤に染まった夕方の空。静かに風がアヤの髪を揺らした。



「ああああーーーー!!!」

急に将也は大きな声を出した。

「いきなりどうしたのですか?」

アヤとエリーは耳を両手で塞いでいた。

「今日全く勉強してないじゃん!!」

将也は元の部屋に向かうため走っていった。

「魔王様!勝手に行かないでください!魔王様!!」

その後をアヤとエリーが追いかけていった。


                  ~探索魔王城~ END



静まりかえった墓石の前。

ふわっと墓石の上に大きな黒い影と小さな白い影が現れた。

「ふふっ、あれが3代目ですって。」

白い影が笑い始めた。

「全く、俺に比べると力や魔力は蟻以下だぜ...」

黒い影が苦笑いしている。

「確かに力量は違いますがあなたにそっくりじゃない?」

「何を言ってるんだ!俺のどこに似ている?」

「そうですね、心が優しいところかしら?」

「ふんっ!俺はお前とたったの100年も一緒に暮らしてないのにわかるのか?」

「それでもわかりますよ。だって私はあなたの側近ですもの。」

「まったく...、側近が俺よりも早く死ぬんじゃねぇよ...」

「確かにそうですが、今でもあなたの隣ですよ。」

「幸せそうに笑いやがって...」

2つの影は風と共に静かに消えていった。



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