夏が終わる前に

僕の家は裕福ではなかった。家族でプールなどというところに連れて行ってもらったことなど無い。

泳ぐ場所といえば、海か川。

ナチュラリスト。アウトドア派とでも言ってしまえば、なんだかお洒落な家族だ。


墓参りの帰りに水泳パンツなど持っているハズなどもなく、僕は白いブリーフパンツ一丁で冷たい水に脚をつける。

みなべ町の山を流れる清川は、名前の通り浅瀬は川底の石やアユが見えるほど、深いところは黒く見えるほど清流だ。

生い茂る沢山の木々で太陽の光りも、零れ落ちるようにしか届かず、

ようやっと届いた光は、水面に反射して戯れる。

僕はバタ足で、その光たちの遊戯の中で流れに逆らうようにキラキラとしぶきを上げる。

「おまん、黒いところへ行ったらアカンで。河童に脚引かれるよ。」父が浮き輪に乗せた妹を離さないように僕に叫ぶ。


あの頃は、田舎にいた僕に田舎臭いなどと言う事が分からなかった。

東京に出たころは、その河童が出て来るようなあの田舎臭さが貧乏くさいように思え、恥ずかしくて仕方なかった。

今の僕は、冷蔵庫に入れておいたペットボトルの水のように冷たく澄んだあの清流が懐かしくして仕方がない。

夏が終わってしまう前に、今年は帰郷しよう。

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