三 覚蓮(かくれん)

 不安は膨らんだり萎んだりする。

 膨張と収縮を繰り返すという意味では希望も同じだ。

 私は姉、美帆(みほ)の顔色を見るまでもなく、分かっている。

 ああ、美帆も私と同じなんだと。


 美帆の友人、といっても半年前からの友人だが、松井まどかに誘われて、その世界では名の通った尼僧の法話会に向かっている。

 駅前のロータリーでは、寺院行きのチャーターバスがピストン運行している。

 路線バスの最寄りのバス停から徒歩二十分だが、チャーターバスなら山門前で下車できる。運賃は無料だ。


 まどかの説明では、その尼僧はネパールで修行を重ねた霊力の強い方だそうだ。

「お寺のあちこちにネパールから運んできたという石があるの」

 巨大なパワーストーンの宝庫。御利益が大盛りなのだ。

「本堂はネパールの寺院を解体して持ってきたのよ」


 まどかの話から本堂を想像する。

 美帆も私も家族で世界博物園なる施設に行ったことがある。

 そのなかにチベット寺院という施設があった。

 仏教のお寺だが、私が知っているお寺とは相当違う。

 キリスト教の教会とも違った。

 お寺を通して知るお国柄を理解する程の知恵も教養もなかった私にとって、美味しい飲食物を提供したり、楽しそうな音楽にダンサーが陽気な踊りを披露したり、民族衣装に着替えたり、そんな施設の方が好きだった。

 あの異様感を漂わせたお寺に行く気になったのは、もの凄いパワースポットであり、貫首であるその尼僧が人生相談の名人だからだ。


「霊感の強い尼さんって覚蓮様のことよ」

 まどかは貫首の尼僧覚蓮を崇めている。

 まどかのフィーバーが私たち姉妹にも感染した。

 会ってもない覚蓮との出会いが人生の転機のようにも思えてきた。


「覚蓮様から私のための呪文、いえ、真言を授かったの。

 それを毎日、朝と夜に三回繰り返すの」

 美帆は占い教室でまどかと出会った。

 占い好きの双子の姉妹でも、私は自分に巡ってくる幸運が最大の関心事なのに対して、姉はオカルト的な予言が好きだ。

 さすがに予言教室というのは危険な香りがするので、占いにとどめた。

 占いの学校で教えてくれるのは手相、人相、誕生日など、人に対する占いが中心だ。

 教室では恋愛や夫婦仲、不倫の話題が中心だ。


 クラスメートにとってそれが不倫であろうと成就するか否かが関心事だ。

「新しい彼に結構のめり込んでいるの」

「今、旦那との関係が弱まっている時期だから、その彼がひときわよく見えるだけよ」

「そうよ。その彼とあなたとの相性、悪いわ。

 旦那との関係が冷え切る前に手を切りなさい」


 彼女達にとって、不倫は必須のスパイスだ。

「何度も占ったけど、旦那より彼の方が私の運気を高めてくれるの。

 生涯で最高の相手よ」

 占いはその正当性を裏付ける手段だ。


 週刊誌に著名人の恋愛や離婚、不倫がスクープされても、相手の誕生日が分からなければ占いようがない。

 週刊誌の記事を事故報告的に受け身で知るだけだ。

 だが、クラスメートのこととなれば、本人と相手の個人情報を気軽に尋ねられる。

 学んだことを即実践できる、最高の学習の場だ。

 情愛事の当事者も、占う側も盛り上がっている。


 クラスのこの雰囲気に浮いた存在の一人が美帆だった。

 そんな美帆に話しかけてきたまどかはもう一人の浮いた存在だ。

 まどかも予言に興味を持っていた。

 どこからともなく噂を聞きつけ、予言者覚蓮に会いに行ったまどかが今度は美帆を誘った。


 そして今、私たちは山門に立つ。

 彼岸覚(ひがんかく)寺。

「朱塗りの山門って、変わってるでしょ」

 まどかは自慢げに話す。

「京都の清水寺、お稲荷さんの千本鳥居も朱塗りだけど」

 私は応えた。


 この寺は、朱といっても目に鮮やかな赤でなく、やや黒ずんだ赤、エンジ色に近い。

 山門の向こうは、家族で行った日本にあるチベット寺院を彷彿させた。

 だが、これはネパールの寺院を移設したものだ。

 赤だけでなく、青や緑がふんだんに使われている境内は、ダークチャコールが仏教寺院の代名詞という私の常識とそぐわない。

 私の戸惑いを打ち消してくれたのは、同世代の女性が普段着で闊歩している姿だ。


「間もなく、当山貫首覚蓮師の講話が始まります。

 聴講券をお求めのうえ、大講堂にご入場ください。

 一部の指定席を除き、自由席です」

 境内の幾つものスピーカーから案内が流れると、何割かの女性は大講堂へ向かい、残りの女性達は休息所の外に設置された自販機の前に並んだ。


「最初に来たときに聴講券を買うのに苦労したから、予め買っておいたわ」

 まどかはバッグから三枚の聴講券を取り出し、美帆と私に渡してくれた。

「一人、千六百円よ」

「うゎ、たか(高)」

 予想外の出費だ。

 私たちは行列の女性達を尻目に大講堂に向かった。


 大講堂では、エンジ色の作務衣を着た女性が聴講券の回収や空いている席の案内、録音や撮影の禁止の念押しをしていた。

 作務衣姿の女性は私と同世代で、ほのかに白檀の香りが漂ってくる。

 畳敷きの大講堂は薄い座布団が等間隔で並べられている。


 奥は仏具がしつらえてあり、蝋燭の灯りによって中央奥の仏像を照らしている。

 群青色のアフロヘアが目に付く、金色の肌の仏様だ。

 よく見ると、群青色の髪にところどころ金色のこぶというか、角というか、丸い突起がある。

 顔は目と口が彩色されていて、サルバドール・ダリのトレードマークのような髭も描かれている。

 彩色も含めてアニメのキャラクターのようだ。


 私達と同じように、聴講者は二人連れ、三人連れ、四人以上のグループや家族もある。

 その内輪のお喋りで騒々しいのだが、それに負けじと、まどかが解説する。

「みんなお喋りに夢中でしょ。

 だから覚蓮様が入ってこられることに気づかないの。

 覚蓮様は、静かに、左側から来られるのよ」

 まどかが指さす方向にはまだ管主の姿はない。


「ほら」

 まどかが小声でいうと貫首は既に仏像の前で合掌している。

 何割かは気づいて、一緒に合掌しているが、お喋りの勢いは納まりそうにない。

 お鈴の音が二度大きく響くと、急に静まりかえった。

 お経が始まったが、何のお経かさっぱり分からない。


「般若心経のサンスクリット語よ」

 まどかが小声で教えてくれた。

 お鈴が鳴って、またお経が始まった。

 今度は聞き覚えがある。

 般若心経だ。

 美帆も分かったようだ。

 美帆と私がそんな顔をすると、まどかが微笑んだ。


 お経が終わると貫首の講話が始まった。

「……ということで、何度も繰り返しますが、十善戒を心掛けてください。

 素晴らしい出会いに恵まれます」

 こう結んで法話は終わった。


 素晴らしい説法だった。

 私にとって、目から鱗が落ちるというレベルじゃない。

 生まれ変わったようだ。

 何度も聞いているだろうまどかは涙している。

 まどかだけではなかった。

 涙を流しながら合掌する女性が何人もいる。


 偏った思い込み、流行りの奇抜なことば遣い、授けることを忘れ授かることに貪欲な愛情、内面を伴わない美への執着、歓心を買うための取り繕った嘘、全てが思い当たり、それが良縁を遠ざけているという。

 正論だ。

 私の歳になると知っているはずの正論だが、繁多な日常がそれを忘れさせてしまう。

 そう。私にとって忘れていたことだ。

 説法で記憶が引き出された。

 私より若い女性は、初耳だろうか?

 涙して合掌なんて、私にはそんな気持ちになれない。


 感情の高ぶりが鎮まりつつあっても、まだ話の余韻にひたる絶妙のタイミングでアナウンスが入った。

「良縁は覚蓮師のお話を聞くだけでは巡ってきません。

 今から覚蓮師のお話のように日々の習慣を変えましょう。

 覚蓮師のお話を忘れないよう、十善戒を刻印した念珠やペンダント、カメオ、ロケットなどをお譲りしています。

 皆様の後に臨時のコーナーを設けております。

 またご休息所にもございます」

 縁起物グッズに皆が殺到した。


 それを尻目に美帆はいう。

「ひょっとして、その念珠とカメオのこと?」

 まどかの玉の大きな念珠とカメオには気づいていた。

 特にカメオは、まだそんな歳じゃないのにと違和感を抱いていた。

「念珠は五色あって、カメオは三種類よ」

「これだけ玉が大きいと、それなりの値段じゃない?」

「念珠は三千円。もっと安いものもあるわ。カメオは三万六千円」

「うわぁ、すごい出費!」

「このカメオはね、覚蓮様と会うためのパスよ」

「パス?」


「覚蓮様と二人っきりで会うためには、それなりのお布施が必要なのよ。

 カメオはその代わりになるの。

 勿論、会う度に別途のお布施は必要だけど」

「もう会ったってこと?」

「予言について相談したわ。

 覚蓮様は星読み、つまり占星術で予言されるそうよ。

 その方法を伝授されているところよ」

「じゃぁ、もう教わってるの?」

 まどかは美帆に目配せした。

「ねぇ、一緒に勉強しない?」

「まどかと一緒なら、いいわねぇ」

 こうして美帆もカメオを購入した。

 まどかとは違うデザインの方を。


 毎週金曜日の午後八時は、美帆のような初心者を対象にした、占星術の伝授の時間だ。

 初心者の指導は覚蓮の占星術の高弟、覚桜(かくおう)が担当する。

「ここで陰陽師のまね事をするとはねぇ。でも楽しいわ」

 こういいつつも姉は星座や惑星のことを熱心に勉強した。

 指定した日時の星座をシミュレートするパソコンソフトとスマホアプリを購入した。

 実際に星を観察したいと、天体望遠鏡も購入した。

「昔の人ってすごいわね。あれが火星、あれが木星って識別していたんだから」

 そりゃぁ、平安の時代の夜は真っ暗闇だ。

 星もさぞかし綺麗に見えただろう。


 今は都会でなくても夜は明るい。

 これを光害というらしいが、その影響で見える星は昔よりずっと少ない。

 美帆は私にそんな解説をするようになった。

 澄んだ夜空にするためには?

 にわかエコロジストにもなった。


 姉に誘われて私も星空を見るようになった。

 姉は結構高価な望遠鏡を買ったが、光害の夜空では宝の持ち腐れだ。

 ネットで見る土星の画像のように見えることを期待したが、マンションの屋上から見える土星は円盤投げの円盤でしかない。

 それでもなんとなく土星の輪を自分の目で見たことに感動した。


 大気の揺らぎで星が瞬いていることくらい常識だ。

 しかし揺らぎの効果は、土星が遥か彼方にある天体というよりも、宙に浮かんでいる、手の届きそうな物体に見える。

 ドーム型の天蓋から糸でつり下げられているように。

 プラネタリウムはドーム型のスクリーンに星々を投影する。

 プラネタリウムでは星の方が動く天動説的な世界だ。


 だとすれば、私が見ている生の土星がいつで吊されたように見えるなら、なるほど天動説も頷ける。

 星空をロマンチックと形容することに異論はないが、ミステリアスということばが浮かんでこようとは初めてのことだ。

 しばらくすると、覚桜が引率で星読みの合宿が予定された。

 合宿地は岡山県の山奥、星空が日本で一番美しいところだそうだ。

 そこのペンションで二泊、二晩の観察で占星術を実践するそうだ。

「佳(か)央(お)も行かない?」


 姉は子供の頃から初めての場所へ行くとき、妹の私を誘う。

 まどかと一緒の合宿も、私がいると心強いのだ。

 覚桜の会では占星術を学ぶのは女性ばかり。

 女子会のような合宿という趣旨らしい。

 実際、期待を裏切らないものだった。


 新幹線を待つホームで、私は初対面の参加者とすっかり打ち解けてしまい、新幹線に乗車した途端始まった女子会でも違和感がなかった程だ。

 女子会は福山までの新幹線の車中と、在来線に乗り換えて井原まで続いた。

 さすがにバスに乗るとぐったり疲れて寝入ってしまい、ペンションについて仮眠した。


 重い体を引きずりながらペンションの管理人さんが案内する観測地に望遠鏡を設置してレンズに目をやると疲れを忘れて星を見入った。

「佳央、見てみて」

 美帆がパソコンソフトでシミュレートした座標に向けた望遠鏡を覗くと、土星の輪がはっきりと見えた!

 天文台が撮影する写真には遠く及ばないが、それでも輪が見えるのだ。

 手の届くところに宇宙を感じて、思わず涙した。

「美帆、誘ってくれてありがとう。本当に感動したわ」

「宇宙と一体になっていると思わない?」

「明るい星、あんなに暗い星。天の川って本当に写真通りだわ」

 私には望遠鏡はいらない。

 天の川銀河を自分の目で直接見るという初体験は、これまでのどんな経験にも勝ると感じた。


 森羅万象の中に私がいる!


 疲れて横たわったペンションのベッドでも興奮は冷めなかった。

 お風呂のリラックス効果もあの感動の前には無力だった。

 それでも夜が明ける頃には寝入ってしまった。

 覚桜を除いては、昼食が朝食を兼ねていた。

 宗教的な合宿だが、規律は甘かった。


 昼食の後、占星術の討論が始まった。

 姉とまどかは予言にこだわっているが、他のメンバーは皆、縁結びの占いだ。

 占いの基礎を知らない私には、姉たちの近未来に起きるだろう出来事の根拠は分からない。

 それでも昨夜のあの感動を共有した連帯感が、なんとなく分かったような気にさせてしまう。


 幸い二晩連続して好天に恵まれ、その夜、二度目の天体観察に出かけた。

 ここでなら流星群の流れ星は他よりたくさん見えるとガイドのおじさんがいうが、真にその通りだろう。

「美帆、今度は流れ星を見たいわね」

「ペルセウス座流星群とかね、いいわね。

 それまでに運転手の男の子、調達してきてよ」

「美人姉妹の運転手なら、手を挙げる人は掃いて捨てるほど、いえ、星の数ほどいるわ」


「あら、私も加われば最強の美女たちよ」

 まどかが会話に加わってきた。

「じゃぁ、三人で探偵社でもやりましょうか?」

 ペンションに戻ってから、覚桜のレクチャーがあった。

「今どきの占星術では自分で天体の動きを観察するよりも、天体シミュレーターを使った方が正確だし、情報量も多いのだけれど、私はできるだけ夜空を観察すべきと思います。

 昨夜と今夜、星空を観察したのですが、どうでしょう?

 こんなに星空が綺麗な場所に、次は素敵な彼氏と一緒に来ようとロマンチックな想像をしたでしょう?」

 図星だ。


 私達三人は思わず顔を見合わせて、吹き出すのを抑えるのに必死だった。

「でも、神秘的な感動もあったかと思います。

 幽体離脱って訳じゃないけど、宇宙に浮かんでいるような感覚を経験してもらったかと思います。

 五感が繊細になったと感じましたか?

 これこそが占星術で求められるパワーです。

 このパワーによって第六感が研ぎ澄まされ、皆さんの占星術は一段高い所へ上ったのです。

 明日帰ってからも天体の観察は毎日の習慣にしてください。

 では、今日はこれで終わり!」

 二日間の感動が蘇ってきた。

 拍手すると、とても尊い経験をしたことに感極まり、涙がこぼれた。

 肩を抱き合って泣きじゃくる者もいた。


 翌朝、皆の雰囲気が変わった。

 帰路の女子会は往路とは雰囲気が違う。

 往路の馬車馬のように話題が変遷するのと違い、収斂しているのだ。

 二晩で共有した神秘体験を確認し合っては、乾杯するのだ。

 誰かが自分の見たものの共有を確認して回る。

「あの土星、見たわよね、見たわよね、見たわよね」

 一人ひとりを指さして、同じ体験をしていることを確認し、全員が同じ体験をしたなら乾杯する。

 これ以来、同じ体験で結ばれた姉たちは占星術の修行に勤しんだ。

 姉は優秀な弟子らしく、覚桜の師である覚蓮から直接指導を受けることもあるらしい。

 これに姉は舞い上がってしまった。

 そんなある日、姉は私に秘密を打ち明けた。


「覚蓮様は降霊術もおできになるそうよ」

「降霊術って、霊媒師が死者の魂を呼び出して、その声を聞くってやつ?」

「正確には、霊媒師に死者の霊が憑依して、霊媒師の口を通してその霊のことばをきくんだけどね」

「信じられないわ。そんな迷信めいたこと。

 これじゃあ、カルトじゃない」

「降霊術だからカルトだなんて、短絡的だわ」

「そりゃぁ、そうだけど」

「毎月、一日と十五日の深夜に開催される秘密の会で、私、人が集まるところを見たの。

 高級車が裏参道から続々と入ってきて、駐車場に整然と並ぶのは壮大よ」

「深夜なんて、危険な臭いがするわ」

「宇宙のパワーを受けやすい真夜中がいいそうよ」


「美帆、もう潮時じゃない?覚蓮熱を冷ました方がいいわ」

「水を差すようなこと、いって欲しくないな。

 やっと予言のノウハウをつかみかけたところよ」

 私は姉妹の二人暮らしに宗教、それも新興宗教が入り込むなど考えたことがなかった。

 実家から離れてお寺と疎遠になってしまったが、それでもマンションには仏壇がある。

 姉妹二人だけの我が家だが、先祖から連なる宗派がある。

 覚蓮に深入りすることは、我が家の教義に対抗する行為だ。

 初詣、彼岸、盆、クリスマス、大晦日、ごった煮の宗教観しかなかったが、新興宗教と対峙することで自分の宗派が急に大切に思えてきた。


「美帆!信仰に傾倒してる訳じゃないから新興宗教に取り込まれないと思ったら大間違いよ。

 新興宗教に取り込まれるのは信仰以外のところからよ。

 占いとか予言とか、降霊術とか、ごめんなさい。

 ことばが過ぎたわ。

 でも初めは悩み事相談だったり、リラクゼーションだったり、整体やヨガだったりするのよ」


 新興宗教といっても、既存の宗教と変わらないものから凶悪事件を起こしたものまでピンからキリだ。

「あのテロリスト集団とは一緒にしないで!

 覚蓮様は立派な方よ。テロとか暴力とは無縁の方よ」


 いつから美帆は変わってしまったのだろう?

 美帆の話には占いとまどかがセットだったのだが、合宿旅行の後、まどかの話題が減った。

 会う頻度が減ったらしい。覚蓮の指導を受けるようになって、美帆の心の中では、覚蓮がまどかに取って代わったようだ。


 そして美帆の行きついた先が降霊術だ。

 やっぱり、美帆を一人で外に出せない。

 私が一緒でなければ危ない。

「ねぇ、その降霊術って私達もお願いできるのかなぁ。

 お父さんとお母さんのことがあるし」

「流石、佳央!私と同じことを考えていたのね」

 私達の両親は三年前に、ロケット砲による旅客機の爆破というテロ事件で亡くなった。

 だから両親の死に目に会えず、私達の心の傷は深く残っている。


 数週間後、期待していた返事を得た。

「覚蓮様の降霊術の会に私達をお呼びくださったわ」

 降霊術の会では、毎回、信用できるゲストを呼んで、ゲストにまつわる霊を呼び寄せるそうだ。

 今回は私達がゲストだ。

 美帆の目を覚ますには、降霊術で私しか知らないことを霊媒師に喋らせることだ。

 これで嘘を暴ける。


 当日。

 午後十一時、降霊術の会場となる奥の院の多宝塔の扉が開いた。

 板張りの間に横二列、等間隔で置かれた座布団の数は十八。

 既に中高年の男女四人が座っていたが、誰もが押し黙っている。

 空いている座布団の上に名札が置かれていて、私の名札は前列の左端で美帆はその隣だ。

 美帆の隣は三城麻紀、その隣は黒川大伍とある。

 後から来る人は概ね後列に座ったが、美帆の隣に座ったのは若い男女だ。

 気配で分かる。

「美帆ちゃん、佳央ちゃん」

 小声だが聞き覚えのある声が私達に呼びかけた。まどかだ。

「えっ、まどかも降霊術に?」

 私も周囲に遠慮して、小声で応えた。

「私じゃなく運転手の方よ」

「運転手?」

「初めまして、運転手の黒川です」

 運転手と聞いて、あの合宿旅行を思い出した。

 あの時は楽しかった。


 あの楽しい会話でイメージした運転手とはかなりギャップがある。

 私と同世代。

 薄暗い照明のせいか、影のある感じの青年だ。

 降霊術の場に馴染んだ暗さというか、陰鬱さがある。

 第一印象では友達になれそうにない。

 興味本位で降霊術に来るような軽薄さがないところが唯一のプラス評価だ。

 三城麻紀の席にまどかが座り、黒川の席に本人が座った。


 目配せで美帆も私と同じ疑問を抱いていることを確認した。

 まどかに問いただしたい。

 本名は、まどかなのか、三城麻紀なのか、どちらも偽名なのか?

 神聖な多宝塔で鳩時計の音がした。

 誰かが慌ててスマートフォンを取り出すと、何人かがつられてスマートフォンを取り出し、マナーモードにした。


 午前零時だ。


 作務衣の女性が前に出てきて、録音録画、撮影の禁止とバイブレーションの音も出ないようスマートフォン等の電源を切るように促した。

 いかなる音も光も精神の集中を乱すからだという。


 しばらくして覚蓮が紫色の袈裟姿の女性二人と濃紺の作務衣の女性二人を従えて登場した。

 覚蓮は白色の袈裟に玉の大きな長い念珠を二重にして左手に掛けている。

 玉は透明で、親玉は一際大きい。


 覚蓮は挨拶に続いて降霊術の説明を始めた。

「本日は多数の呼び子さんをお迎えしての降霊術の会です。

 毎回の約束事ですが、ここで見聞したことは他言無用、決して他の方にお話しすることのないようにお願いします」

 呼び子さんとは、降霊術の依頼人、つまり私達を指すようだ。


 覚蓮の説明は続く。

「巷ではスピリチュアルブームが起きて、霊的能力を持つとされる者が芸能人のように世間に出たりしましたが、ああいうショービジネスと今から行う降霊術とは全く違います」

 覚蓮によれば、霊的能力で売り出しながら、数年でヒーリングに鞍替えしたのは、最初から霊的能力を発揮していたのでなく、口先だけで癒やしを与えていたに過ぎないと。

 覚蓮は自らを依り代にして霊を呼び出すという。


 霊には死霊と生き霊があり、死んだ者の魂は輪廻の縁に結ばれるまでは肉体のない死霊、輪廻によって生を受ければ肉体のある生き霊となるのだという。

 降霊術で注意しなければならないのは、生き霊との対話が終わったら、速やかに霊を開放しなければならないという点だ。

 対話は、一、二分が限界だ。

 これらを忘れると、依り代の生命の危険を招くという。

 憑依されている間、依り代の肉体は呼吸も心拍も止まるからだ。

 脳への血流も止まるので脳にダメージを与え、最悪、死亡に至るのだ。

 覚蓮は憑依されても心臓は脈打ち、呼吸もできるという。

 修錬の末に会得した極意なのだ。


 袈裟姿の女性が名前を呼んだ。

「では、本日最初の呼び子さんは黒川大伍様です」


 まどかの連れの男性は静かに返事をして、招かれるままに覚蓮と対座した。

 覚蓮と長崎の間は1メートルだろうか。

「黒川さんはお爺さまに教えてもらいたいことがあるとか。

 骨董品のラジオについてだそうですね」

 覚蓮に降霊術を頼むには、事前に降霊すべき相手、会話の目的を伝えておく。


 降霊すべき対象は血縁者に限られる。

 血族であれば何代も前の先祖も降霊できるそうだ。名前を知っていれば、だ。

「はい。祖父が亡くなるずっと前、私が小学校六年生の誕生日にプレゼントされた、祖父が大切にしてきたラジオです」

「ラジオのどんな質問ですか」

「壊れたらどうすればいいのかという質問です」

「難しそうな質問ですね」

「えっ?」

「御霊に降臨していただくとき、私の体を依り代にしてもらいます。

 私の脳も御霊にお貸しするのですが、私の知らない言葉は話せません。

 代わりに図として描くことができますが、私の手足を動かすには御霊に強いエネルギーが残っていなければなりません。

 もし御霊のエネルギーが衰退していたら、呼び子さんの知りたいことをお伝えできないかも知れません」

「そうなんですか」

 黒川は淡々と返答した。


 袈裟の女性の一人が、覚蓮と長崎の間にエンジ色の布を敷いた。

 もう一人の袈裟の女性が漆塗りの箱を覚蓮の右側に置いた。

 覚蓮がその箱を開くと、大きな筆と墨壺があった。

 そして、エンジの布に和紙が置かれた。

 壺の蓋を開け、筆に墨をたっぷり含ませると、なにやら図形を描いた。

 そして墨を含ませ、また描く。

 また墨を含ませ描く。

 三つの図形を描いた。


 これは図形でない。

 このお寺の各所で見た梵字とは違う文字のようなものだ。

 きっと文字なのだろう。

 筆を収めた箱が下げられると、覚蓮は足を組んで座禅の格好となり、左手に掛けていた二重の念珠を一重にして両手首に掛けた。

 声は大きいのだが聞き取れない呪文のような言葉を発し、両手で組む印を何度か変えた。

 最後に肩の高さで力強く手を合わせた姿で固まった。


 両手に力が入っているのは手の震えで分かる。

 次第に呼吸が荒くなり、そして呼吸が止まったように静かになった。

 覚蓮の沈黙と会場の静寂から、金縛りになるような威圧を受けた。

 その雰囲気で、私は息ができなくなってしまった。離れた席から鼻息がよく聞こえる。

「大伍に問う」

 今までの覚蓮より一オクターブ低い声が静寂を破った。

「ラジオをどうしたいのだ?」

 黒川は大きな声で答えた。

「壊れたら直せますか、捨てますか?」

「探せば部品は手に入る。直して手元に残すように」

「なぜですか?」

「そこに霊魂が宿っているからだ」

「それは、祖父、あなたの霊ですか?」

「ラジオに魂が宿った。物霊だ」


「ばかばかしい」

 ぼそっと呟いた、黒川のひとことが私の耳に響いた。

 黒川の正義を感じた。

 そしてシンパシーも。


 だが、これから起こる騒動に巻き込まれるのも厭だ。

 美帆も騒動が起きると思ったのだろう。

 私に寄り添い、手を握ってきた。

 そう。二人で協力して悪い状況を堪え忍ぶのだ。


「今、何と?」

 覚蓮の問いで、空気が険しくなっていった。

「覚蓮、本名紀和(きわ)薫。

 和歌山県出身、六十二歳」

「黙りなさい!」

「祖父は紀州の人里離れた集落に隠遁する陰陽師。

 後を継がなかった父に代わって祖父の陰陽道を伝授されたのが孫娘の紀和薫」


 おぉ、と声があがった。

 上席の信者も知らないことらしい。

 作務衣の女性二人が黒川を抑え込もうとしたが敵わない。

 袈裟の女性も加わったが、抑え込みをかわしながら話し続ける。

「紀和家が陰陽師の系譜になったのは江戸時代の後期。

 行き倒れになった陰陽師を介抱したことがきっかけだ」

「そんな話!」

 覚蓮の否定を遮るように黒川は話を続けた。

「その陰陽師は足に障害が残り、長旅ができなくなった。

 紀和家にやっかいになる代わりに陰陽道を伝承した」

「黙りなさい!そんな作り話、止めなさい!」

「いいや、俺の創作じゃない」

「我が家は四国陰陽道の分流ながら正当な継承の血筋、熊野泰流陰陽道!」

「修験者の中には紀和家で陰陽道を学ぶ者もいた。

 これが熊野泰流陰陽道の始まり。

 その最後の継承者が降霊術の真似事とは嘆かわしい。

 先祖に顔向けできるのか?」


 どうやら図星らしい。

 覚蓮は、金縛りに遭ったように固まっている。


 私にはこの先の展開を容易に想像できた。

 テレビドラマなら、彼は皆に取り押さえられ、別室へ連れて行かれる。

 そこで厳しく問い詰められ、放り出されたときは虫の息。

 否。

 それでは傷害事件になってしまうから、彼は別室で改心するまで監禁されるだろう。

 同伴のまどかはどうなるのかしら?

 彼女もこのまま帰れしてもらえないに違いない。

 別室に連れて行かれるのは確か。

 今日日、二人の恥ずかしい写真を撮って、黙らせるのかしら。

 時間があれば更に膨らむ妄想は、ここで終わった。


「美帆さん、佳央さん、帰るわよ」

 まどかが私達の手を取り、立つよう促した。

 間髪入れずに作務衣の女性がやって来た。

「お二人ともお座りください。

 それと、あなた!」

 作務衣の女は、まどかを睨みつけた。

「結界の中で騒ぎを起こした責任は軽くはないですらね」

 まどかは怯まず、私の手を引いた。

「さぁ、立ちなさい」

 まどかに引かれるままに私達は立ち上がり、入り口へと歩き出すのだが、足の感覚がない。

 今まで足が痺れていることも忘れていた。

 おぼつかない足どりの私達を袈裟の女性が引き戻そうとする。


「さぁ、帰るよ」

 強い力が背中を押した。

 振り返ると黒川だ。

 いつの間にか、まどかが私のバッグを持ち、黒川が美帆のバッグを抱えていた。

 罵声が聞こえた。

「おいおい、戻れよ」

「騒ぎの落とし前、どうするんだよ」

「二度と来るな」


 足がすくみそうだが、美帆が私を引っ張ってくれた。

「待ちなさい」

 袈裟の女性が二人がかりで引き留めようとするが、男性の黒川には敵わない。

 どこをどう歩いたのか、私の記憶は定かで無いが、我に返ると車の中だった。

 車の中で美帆が問いただした。

「まどかさん?それとも本名は違うのかな?」

「美帆さんと佳央さんを強引に連れ出してごめんなさい。

 これが一番良い方法だと思って」

「まどかさん、これであのお寺には行けなくなるわ!

 予言の修行もできなくなる!」

 美帆は相当怒っている。

「ねぇ、美帆。

 これでお寺に行かなくなって、予言の修行も止めてくれるなら、私は良かったと思うわ」

「佳央までそんなこというの!」


 丁度良いタイミングで、黒川は郊外のスイーツカフェに車を駐めた。

「私の名前は三枝万里。まどかと呼んでもいいけど。

 こちらは長崎眞」

「黒川さんじゃないの?偽名なのね」

 美帆の声は怒りが籠もっている。

「名前で足がつかないようにね」

「いいわ、万里。これは一体どういうこと?」

 スイーツで頬が緩んでいても、美帆の怒りは収まらない。


「僕から説明するよ」

 長崎が説明を始めた。

「美帆さんが通った占い学校には彼岸覚寺の信者が多いんだ。

 信者といっても、入信手続きを踏んだ信者がいれば、覚蓮や覚桜のような幹部のファンクラブ的な組織の会員もいる。

 その信者達が占い学校で友達を作っては彼岸覚寺に誘うんだ。

 入信させることが目的だ。そして物品購入も。

 そういうノルマというか、評価制度があるんだ。

 それによって、信者としての階級が上がる。

 金銭的報酬を伴わないネットワークビジネスとでもいうべきかな。

 信者になろうというアプローチに拒否反応を示す人に対しては別の入り口が用意されている」


「その一つが占星術の勉強会よ」と万里が補足した。

「信者を増やす目的は、悩める人々の救済。

 実際、寺院という非日常の環境で相談にのってもらう、いや、ただ単に愚痴を聞いてもらうだけで、癒やされる人が多いのも事実。

 現代人の悩める人々に説教は逆効果なんだ。

 最近、既存宗教もこのことに気づいてきたけど、新興宗教は何十年も前からやっていた。

 寺院経営において彼岸覚寺は檀家という世帯単位でなく、信者という個人を重視する。

 その信者が家庭を持ったとき、檀家が生まれるのだが、彼岸覚寺は信者個人の救済を旨とする」

「つまりは、信者個人からお金を巻き上げるってことよ」万里が先回りしてまとめた。

「そう、お布施だけでなくお札やお守りといった物品販売の他に、教育サービス、さらには特別な信者向けの秘術だ。

 それらは信者に一時の安らぎを与えるサービスと考えれば見過ごせるが、降霊術はいけない」


 長崎の、降霊術への怨念のような執着心が私は怖い。

「覚蓮だって、テレビに登場する似非降霊術師と同じだからだ!」

 美帆は反論したいのを抑えている風だ。

 自分が心酔する人物を否定されては、説得されるより反発するものだ。


「彼の、熱すぎる正義に感化された私が協力したという訳」

 万里は信者の前段階のサポーター登録をしていて、占い学校のようなところからリクルートする役割を担っているのだが、特に深くはまりそうな人を選んでリクルートし、彼岸覚寺の呪縛から解放しているのだそうだ。

 深くはまりそうな一人が美帆だった。

 実際、美帆は、はまりかけていた。


「万里さん、だったらもっと早く美帆を救ってくれればよかったのに。

 あんな危険なことをしなくて済んだでしょう」

「あの合宿に行った三人は救ったわ。

 美帆さんは思ったより早く取り込まれてしまって。

 才能があったのよ。

 覚蓮流の予言術に」

 万里の見立てでは、美帆なら覚桜のような幹部になれたそうだ。


「何度も言うけど、覚蓮の降霊術は偽モノだからね」

 長崎は語気強く美帆を諭した。

 美帆の空返事に何かいいたそうな長崎を私は制した。

「ここからは妹の私の役目です」

 マンションまで送ってくれた万里は帰り際に「これからも友だちだから、美帆が覚蓮と断ち切れないようなら連絡してね」といってくれた。

 この一言が心強かった。


「一度、ご両親のお墓をお参りするといい。

 あの降霊術がいかにばかばかしいものか分かるから」

 さっきまでの強い口調と打って変わって、長崎は優しく墓参りを促した。

 次の休日、美帆を誘って墓参りに行った。

 加納家の墓は曽祖父が建てたもので、それなりに風化している。

 長男である父が墓を守ってきたが、その父もここで眠っている。


「美帆は覚蓮の降霊術で何を聞きたかった?」

「聞きたかったというより、覚蓮様の降霊術を見たかったというか、覚蓮様の活躍を少しでも多く見たかったのかな」

「私は、本当でも嘘でも、父に声を掛けてもらいたかったわ」

「それ、佳央の方が危なかったじゃない」

「だから、私は美帆が行くというからついていっただけで、父の声色をどんな風に出すのかなって興味本位なだけよ。

 それに何、覚蓮様って。

 まだ呪縛は解けてないみたいね」


 その夜、万里が美帆の様子見を兼ねて遊びに来た。

 美帆の呪縛を伝えると、万里は話し出した。

「今頃こんなこというのも何だけど、寺(としての建築物)は本物よ。

 でも、仏教寺院としての正当性が虚偽に満ちているのよ、あの彼岸覚寺は」


 ネパールの本山で修行したという覚蓮のプロフィールは、米国のツアー旅行に便乗してネパールの寺院で一週間の体験的修行をしただけと万里はいう。

 覚蓮にネパール寺院の僧侶の免状を発行したのはインドの業者で、サンスクリット語で書かれた僧位の名称は実在せず、免状が本物であることを証す刻印がない。

 流石に現地の業者も畏れ多いから、刻印の偽造までは手を出さなかったというのが、万里の推測だ。


「サンスクリット語が分かる日本人なんて滅多にいないし、サンスクリット語が出てくるだけで、それが寄付の感謝状であっても、(僧侶の免状)と信じてしまうわ」

「でも覚蓮様は素敵な方よ」

「美帆、万里さんの話、聞いたでしょ。

 少なくとも加納家の者が敬う対象ではないわ」

「別に、加納家として趣旨替えしようとは少しも思っていないわ。

 私は宗教とは別のところで覚蓮様から学びたかっただけよ。それに」

「それに?」


「万里の話が本当だとは限らないんじゃない?」

「そう来ると思った。私の話は眞の受け売りだけどね」

 私は彼に会ったときからの疑問を口にした。

「彼って何者?」

「ああいうことに詳しくて、スピリチュアルに関する偽者を許せない性分なの」

「あなたとは親しいの?」

「誤解しないでね。恋人とか、男女の間柄でないの」

「家族でもなさそうだし」


「私は彼を手伝っているだけよ。

 この仕事、お金にならないけど、結構、正義感に浸れるのよ」

「でも、この前のようなこと、危なかったじゃない」

 美帆は目を離すと覚蓮のところへ行きそうな気がする。

 でも、美帆はバカじゃないし、良識もある。

 あれだけの騒ぎがあって、その張本人の長崎と一緒に帰ったのだ。

 覚桜から着信があったが、どう対応していいのか分からなくて、出ずにいる。

 私は、私で、マンションの出口で待ち伏せしていないか、襲う機会を狙って後をつけられないか、いや問答無用で刺されるのでないか、怖くて仕方ない。

 通勤はタクシーを使っているほどだ。


「もう大丈夫よ」

 私の不安を払拭するように万里は断言する。

 その表情は自信に満ちている。

「眞が決着をつけたから」

 万里は営業上の秘密として詳しく語らないが、長崎はネットへの公表で揺さぶりをかけたらしい。

 マスコミが飛びつくネタをいつでも投稿する、と。

「だから、貴女たちに指一本触れても、後をつけたり、監視したりするような気配を感じただけでもマスコミにリークすると釘を刺したの。だから安心して」

 彼岸覚寺と関係ない第三者の行為であってもリークするという。

 何か感じたら万里に連絡すればいいそうだ。

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