第6話
このおっさん、ふざけやがって、と聖人は
腹が立ってしかたがない。
だが、一方では、何ともいえない切ない感
情が彼の心を浸しはじめるのに気づいた。
「さてと、そろそろ退散するか。いつまでも
こうしていられぬからな。約束の刻限に遅れ
ると神様にこっぴどく叱られてしまう」
口をまったく開かないのに、男の声が聖人
の耳に響いて来る。
彼は聖人に背を向け、歩きだそうとした。
だがいくら膝をあげようとしても動かないら
しい。
しばらくうんうんうなっていたが、あきらめた
のか地面にすわりこんでしまった。
「どうしたんだい、足がどうかしちゃたんだね。
そのうちなおるんじゃないない。それじゃ元気
でな、おっさん。その分じゃもう俺につきまとう
こともできないよな。ああこれでせいせいした」
このまま乱暴に降りたりすると、ブランコが男
の頭にぶつかってしまう。
聖人はゆっくりその場を離れた。
男は一言も発しない。
気にはなったが、彼から離れるいい機会だ。
聖人は生けもがりの角をまわろうとして、男
をふり返ったとたん、あっと言いそうになった。
男のからだがおぼろげに見える。
まるでデジタルの画面がちらちらするようで、
見えにくい。
今にも闇にのみこまれそうだった。
憎たらしいやつだが、半面愛おしく思える。
「しょうがないおっさんだな。あんたの家はど
こなんだい。俺が送って行ってやる。今頃はう
ちの人が心配してるぜ」
聖人は地面にしゃがみこみ、彼に背中を向
けた。
「何してんだ。おんぶしてやろうって言ってん
だぜ。人に親切にしたことのない俺がよ」
だが、男は彼の背にのってこない。
「ええい、じれったいな。このまま放っておか
れても、あんた、平気なんかい」
それでも、男は言うことをきかない。
「ああそうか、わかったぜ。俺がおっかないん
だな。じゃあしょうがない。もっと優しくしてあげ
るか。ひとりぼっちのおじさん、こんにちは。ど
うぞぼくの背にのってください。家までお送りし
ますから」
ふいに何かがバサッと背中にのった気がした
が、あまりに軽い。
「うちで何にも食べさせてもらってないの。こ
れじゃまるでカカシさんじゃん」
聖人は両手で彼のお尻をおさえたが、いかに
もふわふわしている。
彼は公園の出入り口に向かって歩きだした。
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