向日葵side
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「向日葵さん、これはどうしたらいいのですか?」
ーークリスマス イブーー
私は大樹さんとファーストフード店を訪れていた。
豪華なディナーに飽きてしまった私は、「普通の女子高生のデートがしてみたい」と大樹さんに我が儘なリクエストをしたからだ。初めてのファーストフード店に、大樹さんは目を丸くしている。
セルフサービスなんて、体験したことも見たこともない大樹さん。商品を注文し、支払いに財布からカードを取り出す。
「お客様、当店ではカードは使用出来ません」
「カードが使えないの?」
大樹さんは店員の言葉に苦笑いしながら、財布から一万円札を取り出す。
「向日葵さんはこういう場所をよく利用するのですか?」
「高校生ならみんな来ます。桜乃宮家で暮らすようになり暫く来ていませんでしたが、以前は母とよく利用していました」
「そうですか。僕は初めてです。ハンバーガーはロスのレストランで食べたことはありますが、ナイフとフォークですよね?ナイフとフォークはどこにありますか?」
「くすっ、違うわ。ハンバーガーはこうして食べるのよ」
私は両手でハンバーガーを掴み、大きな口を開けパクっとかぶりつく。
大樹さんはそんな私を見て仰天している。
きっとはしたないと思っているに違いない。
ハンバーガーの食べ方は、テーブルマナーとして菊さんに教わったことがある。でも、ナイフとフォークで食べるより、こうしてかぶりついた方が断然美味しい。
「なるほど……。そうするのですね」
大樹さんは私の真似をし、大きな口を開けハンバーガーにかぶりついた。
「うん、確かに豪快に食べた方が美味しいな」
「そうでしょう?高級なディナーもいいけれど、ハンバーガーも美味しいのよ」
大樹さんが笑いながら私の口元に指を伸ばす。
「食いしん坊なお姫様、マヨネーズが付いてるよ」
私の口元についたマヨネーズを指で拭い、大樹さんがニッコリと微笑んだ。恥ずかしさからカーッと全身が熱くなる。
「向日葵さん。次は何処に案内してくれるのかな?今夜は向日葵さんがしたいことを全て叶えるよ」
「次は……。私、夜景が見たいの。お台場に行きたい」
「お台場ですか?夜景やイルミネーションが楽しみたいのなら屋内から一望できるところにご案内しますよ。外は寒いし風邪を引いては大変だ」
「でも……、お台場に行きたいの。母との想い出の場所だから」
「お母様と?わかりました。参りましょう」
私達はファーストフード店で夕食を済ませ、タクシーに乗りお台場に向かった。
波の音を聴きながら、夜の公園を二人で歩く。華やかな光に包まれたレインボーブリッジを見つめながら、その穏やかな雰囲気に気持ちが落ち着く。
来春三月、高校を卒業し私は大樹さんと正式に婚約をする。
結婚するからには、中途半端なことはしたくない。大学に進学し学業に専念することよりも、石南花家のしきたりを学ぶことを選択した。
石南花大樹さんの妻となるために、身に付けなければいけない教養や礼儀作法はたくさんある。
当然、蘭子姉さんも百合子姉さんも大学進学を勧めたけれど、私は自分の気持ちに忠実に生きたいと思った。
石南花家に嫁いだら、今よりも行動は制限され、きっと普通の暮らしは出来ないだろう。
多忙な大樹さんとこんな風に散歩することも出来ないだろう。
今しか出来ないことを、たくさん経験したい。
大樹さんと……二人で……。
フワリと体が温かなぬくもりに包まれる。
大樹さんが自身のコートを脱ぎ私の肩に掛けてくれた。
「……大樹さんは寒くないの?」
「向日葵さんと一緒だから全然寒くないよ」
大樹さんが肩にかかるコートを整えてくれた。大樹さんの匂い、大樹さんのぬくもり、心に温かな灯がともる。
大樹さんは私の肩に手を置き、優しくキスを落とした。
ーー波の音を聴きながら……
夜空の星に見守られながら……
私達は甘いキスを交わす。
イブの夜を祝福するように、ふわふわと雪が舞う。
「……ゆきよ。大樹さん見て」
掌を上に向け、掌に落ちる白い雪を見つめる。
「……ハクシュン」
「くすっ、大樹さん寒いのでしょう」
「平気、平気」
私のために寒さを我慢している大樹さん。
嬉しくて、大樹さんの広い胸に飛び込む。
「あったかい……ね」
「向日葵さん……」
大樹さんの腕が私を包み込む。
大樹さんの体は温かい。
私を一人の女性として扱ってくれる大樹さんの寛大な心も温かい。
ずっと求めていた温もりが、ここにある……。
ーー私の欲しかった……
温かな居場所……。
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