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「菊さん、頭を上げて下さい。俺こそ申し訳ありませんでした。柿麿財閥の会長さんに失礼な事ばかり言って……。本当にすみませんでした」


「あら、いいのよ。私は嬉しかったわ。私の素性をあなたに話さないようにと、みんなに指示したのはこの私ですもの。私が柿麿財閥会長だと知れば、あなたは私を敬遠したでしょう。

 私はあなたの素顔が知りたかったの。それに男の子の孫はいなかったから、あなたと過ごせた日々はとても楽しかったわ」


「菊さん……」


「太陽さん、百合子さんと二人でいらしたということは……。あなた達……まさか?」


 俺は百合子と顔を見合せ、小さく頷く。


「はい、俺達交際しています」


「まぁ!?何て素晴らしいの!!最高のクリスマスプレゼントだわ!シャンパンで乾杯しましょう」


 菊さんはパンパンと手を叩き、メイドに「すぐにシャンパンを用意するように」と命じ、子供みたいにハシャイでいる。


「百合子さんもご存じの通り、柿麿財閥は後継者がいないのよ。私もそろそろ会長職を退きたいと思っているの。可愛い孫娘である桜乃宮家の三姉妹から、一人養子を迎えたいと常々考えていたの。

 このお話しは蘭子さんには事前に相談していたのよ。蘭子さんは桜乃宮財閥のことを何よりも大切に考えていらっしゃるし、向日葵さんは石南花様との婚約が正式に決まったでしょう。

 だから今日は二人をここにお招きしたのよ」


「私達の誰かを柿麿家に養子に……?」


「蘭子さんは桜乃宮財閥の会長。太陽さんが桜乃宮財閥の後継者を辞退なさるから、蘭子さんが会長を退任することは出来ない。太陽さんが後継者を辞退なさるから、向日葵さんまで辞退したいと申され大変だったのよ。

 まあ、いずれ向日葵さんは石南花家に嫁がれるのですから、桜乃宮家の後継者にはならないでしょうけどね。

 それに、私はもう最初から決めていましたから。この子を柿麿家の養子に迎えたいと。その子は創士さんが愛した桃花さんの娘である、百合子さん、あなたよ」


「菊さん……!?とても光栄なお話ですが、私の母は元銀座のホステスで……家柄も柿麿財閥には相応しくありません。お父様と私には血の繋がりもないわ……。そんな無謀なお話、柿麿財閥の関係者やグループ企業、御親族が認めるはずはないわ」


「あら、桃花さんは創士さんの正妻ですよ。戸籍上は養子となってはいるけれど、あなたは創士さんの愛娘です。そして、ラッキーな事に、こんな素敵なオマケまで付いている」


「オマケ!?まさかそれって、俺のこと!?」


「ええ、スペシャルなオマケ。私と太陽さんは切っても切れない血縁関係があるの。可愛い孫娘と太陽さんが交際しているなんて、私の想定を上回る出来事だったけれど、一石二鳥とはこの事ね。

 百合子さん、桜乃宮家のことは蘭子さんと松平さんに任せ、是非柿麿家に来てちょうだい。そこのオマケと一緒にね」


「菊さんっ!」


 俺は話の急展開に、アタフタと動揺している。確かに俺と菊さんは血縁関係があるが、その事実を知ったのは数分前の出来事。


 それなのに、いきなり百合子と柿麿家に来いと言われても……。


「菊さん……本当に私なんかでいいの?柿麿家の御親族が反対しませんか?」


「この私に反対?私は老いても柿麿財閥の会長よ。誰一人、この件に関して文句は言わせません。可愛い孫娘がこの柿麿財閥を継いでくれるのよ。離婚により確執のあった桜乃宮財閥と柿麿財閥の関係がこれで円満に収まるの。オマケに関しては親族への説明が必要になるでしょうが、太陽さんが桜乃宮家を継がないのならばそれも問題ないでしょう」


「菊さん、オマケオマケって酷いな」


 菊さんはグラスにシャンパンを注ぐ。


「うふふ、太陽さん私は嬉しいの。あなたと百合子さんがこの柿麿財閥を継いでくれたなら、もういつ死んでも悔いはないわ。ねえ、乾杯しましょう」


「菊さん、死ぬなんて縁起でもない」


「これは私の遺言ですよ。相続放棄は断じて許しません。諦めて引き受けなさい」


 菊さんは俺達にグラスを渡し、ニヤリと口角を引き上げる。


 グラスの中でシャンパンの泡が揺れる。シャンデリアの光で金色に輝くシャンパン。


 俺達は菊さんに言われるまま乾杯しグラスを鳴らした。




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