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 でもその不安は……

 アイツの優しい眼差しに、掻き消される。


「俺は今まで人を愛することができなかった。愛し方がわからなかったんだ。裏切られることが怖くて、女性と真剣に交際することが出来なかった」


 アイツの指が私の頬を撫でた。


「女性を愛しいとか、守りたいとか、今まで一度も思ったことがなかった。でも桜乃宮家で君達と暮らし、君達の境遇を知り、気持ちが少し変化した。強盗事件があり、三人を守りたいと……心底思ったんだ」


 アイツの言葉に涙が溢れた。

 アイツの指が、その涙を拭い去る。


「俺、やっと見つけたんだ……。生意気で虚勢張ってるけど、本当は寂しがり屋で弱い女……。俺、ソイツの傍にいると決めたんだ。ソイツの傍にいれば、こんな俺でも人を愛することができるかも知れない……」


「その人は……だれなの?」


「まだわかんねーの?」


「あなたは桜乃宮財閥を継ぐんだよね。私と兄弟になるんだよね……」


「俺は桜乃宮財閥は継がない。そう言ったはずだよ。俺は木村月人の息子だから。それに百合子さんの兄弟になりたくないからな」


「私の兄弟になりたくない?」


「だってそうだろ。君と兄弟になってしまったら、俺は君を愛せなくなる」


「私を……?」


「俺に……教えてくれないか?本当の愛とは何か……」


「……やだ。そんなこと……聞かないでよ。私にわかるわけないでしょう」


「俺、不器用だから……。これから先も君に上手く気持ちを伝える事が出来ないかも知れない」


「私と同じ……だね……。私達……似た者同士だね」


 アイツの逞しい腕が、私を優しく包み込んだ。


「俺と付き合ってくれないか?」


 小さく頷いた私の唇に、アイツの唇が優しく触れた。まるで硝子細工に触れるように、そっと私の唇を包み込む。


 背中に回された逞しい手が、優しく体を愛撫する。


 私も……アイツの大きな背中に両手を回した。


 ーー本当の愛を知らない不器用な男と……


 素直になれない女が……


 ひとつに溶け合う……。


 ーー愛されたくて……


 誰かの愛情に包まれたくて……


 本当はずっと……真実の愛を求めて……


 彷徨っていたのかも知れない。


 ーー何度も何度も、離れては重なる唇。


 互いの肌の温もりを求め、私達は抱き合いキスを交わした。


 アイツの指が私の洋服に触れた。


 明確な言葉はないけれど……

 アイツの想いは私の心に通じた。


 こうなることは、訪れた時から予感していた。


 こうなってもいいと、心のどこかで覚悟はしていた。


 アイツが鈴蘭という女性を追い求めているのなら、嘘をついて鈴蘭になりすますことも考えたくらい。


 私は……どうかしてる。

 アイツに抱かれてもいいなんて……どうかしてる。


 でも唇が重なった瞬間……

 このままアイツに抱かれたいと思った……。


 アイツが桜乃宮財閥を継ぐと決意したならば、私が桜乃宮の姓を捨ててもいい。


 全てを捨て、この身を委ねたい。


 アイツは私を軽々と抱き上げベッドに沈め、優しく愛してくれた。


 触れる唇……


 触れる指先……


 今まで感じた事のない悦び……。


「……あなたを好きになっても……いいの?」


「俺はもう……君を好きになっている」


 アイツは優しく微笑むと、私の唇を奪った。激しくなるキスに、甘い吐息が漏れる。


 ーーもっと……


 もっと……好きになる。


 私が……あなたの寂しい心も埋めてあげる。


 ーーだから……私の心も……


 あなたの愛で埋めて……。


 ーーカラダもココロも……


 あなたの愛で埋めて欲しいの。


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