向日葵side
60
亡きお祖父様と、ビューティーマリー化粧品の会長は古き友人。
その関係もあり、後継者である空社長と私達三姉妹は、親しくさせて頂いている。
今夜はビューティーマリー化粧品主催のパーティーに招かれ、私は急遽大樹さんと同伴する事になった。正式な婚約はまだだけど、公の場で私達の交際を披露するようなものだ。
大樹さんは石南花財閥の御曹司らしく紳士的で優しい。でもそれは私だからではなく、私が桜乃宮家の娘だから。
もしも私が……
お父様の子供でなかったら……、大樹さんの態度は変わるのかな。
公営住宅に私が住んでいたら、大樹さんはきっと見向きもしなかっただろう。
◇
夕方、蘭子姉さんと木村さんのお見舞いをし、自宅に戻りドレスに着替える。木村さんの元気な顔を見て、不安が少し解消された。
木村さんが刺されたと聞いた時、ガクガクと体は震え涙が溢れ不安で夜も眠れなかった。
鏡に映る私、いつもは使用しない赤いルージュに、赤いマニキュア。ビューティーマリー化粧品の新色だ。
ーー『木村さん、私には似合わないですよね』
『いや、変じゃないよ。赤も華やかで向日葵さんにとても似合ってる』
木村さんはそう言ってくれたけど、本当にそう思っているのかな。
高校生の私がプロの手により変身を遂げる。童話の中の見窄らしいシンデレラが、魔法により美しいお姫様に変身するように、鏡の中の私はまるで別人だ。
「向日葵お嬢様、お仕度が整いました」
「……ありがとうございました。私にはこの口紅少し派手ではありませんか?」
「派手だなんて。とてもお美しいですよ。香水もビューティーマリー化粧品の商品にされますか?」
「……いえ、お父様から頂いた香水にします」
私はドレッサーから香水を取り出し、首筋と手首に吹きつけた。
甘く優しい香りが……
私を包み込む。
この香水をつけると、気持ちが和らぐ。
私の精神安定剤。
淡いピンクのドレスに身を包んだ私。
胸元には宝石が輝く。
ーー『向日葵さん、石南花様と正式にお付き合いするの?それで本当に幸せになれるの?』
私の幸せ……?
私は……私は……
ーー鏡に映るあなたは……
誰……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます