太陽side
58
百合子が俺の腕からすり抜けた。
その時、いい知れぬ寂しさを感じた。
俺……
何やってんだか……。
使用人のくせに、百合子とキスをするなんて……。
百合子の指先は、今日は淡いピンク色。
俺はいつの間にか『鈴蘭』という女を、無意識の内に捜していたに過ぎない。
一夜限りの女の存在が、俺の中で次第に大きくなっていく。
鈴蘭に恋をしたわけではない。
鈴蘭の正体を、暴いてどうなる。
相手は財閥令嬢、このまま知らぬ存ぜぬと他人の振りをするのが賢明だろう。
だが、俺に抱かれながらも、どこか愁いに満ちた表情だった鈴蘭。
暗闇で見た……あの眼差しが……
三姉妹の、誰かだとしたら……。
あの夜の記憶を手繰り寄せ、鈴蘭の幻影を追う。鈴蘭はロングヘアーで酒も煙草も嗜み、年齢は成人しているように思えた。
だけど、華奢な体つきは……向日葵の体型にも似ているような気もする。
触れた唇の感触は……
蘭子なのか百合子なのか、判断出来ない。
鈴蘭が一体誰なのか……。
その正体をハッキリさせないと心の中は霧が立ちこめたように白くかすみ、道に迷った幼子のように、右往左往し前に進むことが出来ない……。
俺としたことが、一夜の相手である鈴蘭の正体をハッキリさせたからといって、未来がどうなるわけでもないのに……。
だが、三人の誰かが身分を隠し鈴蘭と名乗り、一夜のアバンチュールを楽しんでいるのなら、あんな遊びはもう止めさせないと。
知らない男と体を重ねても、心に負った傷や寂しさは埋まりはしない。
寧ろ、愛のないセックスはさらに心を傷付けるだけだ。
一夜の相手がたちの悪い男なら、犯罪に巻き込まれてしまう危険性もある。
男と女では、やはりリスクが大きい。
ーーなんて……
一夜の恋を散々してきた俺が、何言ってんだか。
俺は一夜の恋もセフレも今まで肯定してきた。愛のないセックスを存分に楽しんできたのに、今さら全否定するなんて。
俺も……どうかしてるな。
だけど……麻里とのことで、俺の身勝手な価値観が人を傷付け、人生をも狂わせるということにやっと気付いた。
あの三人の誰かが俺と同じような価値観なら、傷付く前に気づいて欲しい。
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