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「浩介どうしたんだよ。何か話でもあるのか?俺、午前中忙しいんだ。手短に頼むよ」


 浩介は俺の腕を掴み、事務所内の掃除をしている麻里に視線を向けた。


「太陽、見たか?麻里ちゃんの指輪」


「ああ。婚約指輪だろう」


「君島のヤツ、羽振りがよすぎねぇか?怪しくね?」


「怪しい?どういう事だよ?夜間のバイトで稼いだ金で買ったんじゃねーの?」


「そのバイトだが気になることがあってな。お前さ、桜乃宮財閥の豪邸に居候してんだってな。新年早々、お屋敷に強盗が入ったんだろ」


「どうして知ってんだよ?」


「ニュースで騒いでいたし新聞に載ってたからな。新聞記事に住み込み家政夫木村太陽さんの活躍により、桜乃宮財閥令嬢の怪我は軽症ですんだと、掲載されてたからさ」


「まじで?誰がそんなこと新聞記者に話したんだよ」


 強盗事件がニュースで流れたことは知っていたが、まさか俺の名前が記事に掲載されていたとは知らなかった。


「君島のヤツ、ブランドの高級腕時計してやんの」


「ブランド?アイツが?」


「麻里ちゃんのダイヤの指輪といい、ブランドの腕時計といい、桜乃宮財閥で盗まれた品と同じじゃね?」


 まさか……


 君島が強盗犯!?


「大体、君島が麻里ちゃんと付き合うなんて、不釣り合いなんだよ。俺はお前と麻里ちゃんが付き合ってると思ったから、諦めたのに」


「諦めた?浩介……まさかお前も麻里ちゃんを?」


「俺は麻里ちゃんが入社した時から、ずっと好きだったんだ。君島なんかに渡さねぇ。ていうか……アイツが強盗犯に間違いねぇよ。俺、警察に通報したんだ」


「通報?お前……証拠もないのにどうして」


「ダイヤの指輪にブランドの腕時計、それだけ物的証拠があれば十分だろ。俺達の給料で買える代物じゃねぇ。強盗犯は君島だ」


 浩介は俺を見て、ニヤリと口角を引き上げた。


 ーー始業開始から三十分が経過、新年のご挨拶を兼ねて外回りに行こうと席を立った時、駐車場に二台のパトカーが停車し、事務所に三名の警察官が訪ねて来た。


 浩介から話を聞いていた俺は、警察官が来た理由がすぐにわかった。


君島都士夜きみじまとしやさんはいますか?」


「工場で作業していますが」


 君島が働いている工場に、警察官は踏み込む。社長も麻里も状況が把握出来ず、オロオロと狼狽えている。


 警察官の後を追うように、俺達は事務所を飛び出す。警察官の姿に工場内はざわつき、入口付近で作業していた浩介が、警察官に問われ君島を指差す。


 警察官は威圧的な態度で、君島に歩み寄る。

 君島は緊迫した雰囲気に動揺している。


「君島さんですね。一月一日深夜未明に都内で起きた強盗事件についてお聞きしたいことがあります。任意同行していただけますね」


「強盗事件!?一日は……事務員の可愛さんのマンションにいました」


 警察官は君島の腕に光る腕時計に視線を落とす。


「その腕時計はブランド品ですよね。可愛さんにダイヤの指輪をプレゼントされたとか。盗品の疑いがあります。可愛さんも署まで同行していただけますか」


 警察官は君島の腕を掴み、麻里も事情聴取に応じるように命じた。


「俺は何もやってません。可愛さんは関係ない!放せ!放せー!」


 あの大人しい君島が側にあった印刷物を投げつけ、警察官に抵抗し暴れている。


 三人がかりで取り押さえられた君島は、まるで犯罪者のように両脇を警察官に固められ、パトカーに乗せられた。麻里は顔面蒼白でガタガタと震えている。


「可愛さんも署までお願いします。君島から受け取った宝石類が盗品でないか調べさせて下さい」


 麻里は左手の薬指につけていたダイヤの指輪を、咄嗟に右手で隠した。


「十二月三十一日、君島さんは私のマンションに泊まりました。深夜……携帯に電話があり外出しましたが、一月一日の朝にはちゃんとベッドで寝ていました。君島さんが……強盗事件の犯人だなんて嘘です」


「深夜に外出?何時に帰宅されたか覚えていますか?詳しいことも含め、聞かせて下さい」


「……はい」


 麻里は震える指先でダイヤの指輪を外し警察官に渡した。周辺を囲む好奇な視線に曝され、二台目のパトカーに乗せられた。


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