向日葵side

35

 石南花大樹さんと二年ぶりに再会した。

 大樹さんは二年前にお目にかかった時よりも大人びていた。


 凛とした立ち姿は、もう石南花財閥の後継者としての自信すら感じる。


 知的で爽やかな好青年。私よりも六歳年上。私はまだ高校生。大樹さんの目に私はどう映っているのだろう。


 大樹さんは結婚前提の交際相手に、蘭子姉さんや百合子姉さんを選ばなかった。二人は私よりも美しく、大樹さんの結婚相手には相応しいのに。


 どうして……私なの?


 蘭子姉さんと百合子姉さんは、大樹さんのご両親を大広間にご案内する。高身長の大樹さんは、少し背を屈め小声で私に話し掛けた。


「向日葵さん、結婚前提のお付き合いのお話ですが、承諾して下さりありがとうございます」


「……あのぅ。私……まだ高校生です。どうしてお姉様じゃなくて私なのですか?」


 不思議に思っていたことを、思わず口にした。


「このご縁談は、僕の気持を後押しして下さった向日葵さんのお父様と、僕の両親が決めたこと。僕達の結婚は向日葵さんが大学を卒業するまで待ちます。石南花財閥と桜乃宮財閥がひとつになれば、日本一のグループ企業となることでしょう」


 大樹さんは力強い口調で未来を語り、優しい眼差しで私を見つめた。


 これがお父様のご意思であるならぱ……。

 私はお父様のご恩に報いなければならない。


「将来私達が結婚し、石南花財閥と桜乃宮財閥が合併すれば、日本一の財閥になるのですか?」


「はい、ひとつのグループ企業となれば、日本最大のグループとなることは確かです」


「大樹さんは私が桜乃宮財閥創業家の娘だから、私と交際を……?」


「はい。向日葵さんは、桜乃宮家の直系だと伺っています」


 私が……

 三姉妹の中で、お父様の実子だから……。


 ただ……

 それだけの理由……。


「向日葵さんには、結婚までの数年間に学業とともに石南花家のしきたりを学んでいただきます」


「石南花家のしきたり……」


「はい、向日葵さんが僕の妻となられた時に、戸惑いや不安を感じないように、事前に石南花家の様々なしきたりを覚えていただくつもりです。

 語学、マナー、茶道、華道、社交ダンス等は桜乃宮家でも習われているでしょうが、石南花家でも一通り学んで頂きます。大学卒業までには十分時間もあるので、焦らなくても大丈夫ですよ。不安なら僕もご一緒しますから」


 大樹さんのお話を聞き、気持ちが沈む。

 大樹さんが求めているのは私ではない。桜乃宮財閥だ。


 私のことが好きだから、私を選んでくれたのではなく、私がお父様の実子だから……。


「向日葵さん、僕の両親と親族を改めてご紹介します。さあ、一緒に参りましょう」


 私は大樹さんと一緒に大広間に入る。まるで挙式を終えた新郎新婦のように、個々のテーブルを回り親族にご挨拶をする。


 この交際を心から喜べない私は、親族から祝福され笑みを浮かべる大樹さんとは異なり、表情は強張り笑顔を作ることも出来なかった。


 華やかなホームパーティー。

 雛壇に座る大樹さんとお飾りの私。

 二つの財閥が互いの財力を競う、煌びやかな世界。


 眩い光の中で、周囲の人々が輝く宝石に見え、自分だけが川原に転がる石ころに思え、この場に相応しくない異質な存在であると感じ、強い孤独に苛まれていた。






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