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 その日から、屋敷には警備員を数名配備した。警備員は敷地内にある宿舎に住み込み、常駐することになった。


 強盗事件が未解決の間は、警察も屋敷周辺を巡回してくれることとなった。


 新年早々、強盗事件が発生し警察官や鑑識班が屋敷を訪れ、私達は落ち着かない一日を過ごす。


 明日は石南花家の親族と桜乃宮家の親族が集うホームパーティー。


 強盗事件のこともあり、気分はそれどころではなかったけれど、すでに招待状を発送しパーティーの準備も整えていたため、予定通り開催することにした。


 向日葵の将来を決める大切なパーティーだ。


「向日葵、明日だからね。桜乃宮家の令嬢として、お客様に粗相のないように」


「……はい」


 向日葵はいつものように俯いたまま、消え入りそうな声で返事をした。殻に閉じ籠もる性格の向日葵も、良縁に恵まれれば明るくなれるかも知れない。


 私はそう信じて疑わなかった。


 ◇


 一月二日、桜乃宮家の親族と石南花様とその親族が屋敷を訪れた。招待客は全員正装をしている。


 私達もフォーマルドレスを着用し、玄関フロアでお客様をお迎えした。警備員は再雇用したが、メイドも執事も当屋敷にはいないため、直々に出迎えるしかなかった。


「新年おめでとうございます。遠方よりありがとうございます」


「新年おめでとうございます。蘭子さん本日はお招きありがとうございます。向日葵さん、本日はおめでとうございます」


 本日の招待客には、向日葵と石南花大樹さんの縁談を事前に知らせてある。


「……新年おめでとうございます」


 ドレスを着用し、ヘアメイクさんに髪のセットとメイクを施してもらった向日葵は、制服姿の地味な印象とは異なり、見違えるほど華やかでとても美しい。


 桜色に染まる頬は、春の香りに誘われほんのりと色付いた桜の蕾のようだ。


 大広間では、早めに到着した桜乃宮家の親族が、にこやかに新年の挨拶を交わしている。


 三十分後、石南花様とその親族が続々と屋敷を訪れた。私達は玄関フロアでお客様をお迎えする。


「新年おめでとうございます。本日はお招きありがとうございます。蘭子さん、向日葵さんは……?」


 ご両親と共にいらした大樹さんは、直ぐさま向日葵の姿を探す。


「石南花様、新年おめでとうございます。本日はようこそいらっしゃいました。大樹さん、向日葵ならここにいますよ」


 私はクスリと笑みを浮かべる。見違えるほど美しい向日葵に、大樹さんは一瞬目を見開き優しい笑みを浮かべた。


「向日葵さん、新年おめでとうございます。少女の頃の面影しかなく、あまりにも美しくなられたので気がつきませんでした」


 大樹さんの正直な感想に、向日葵はすでに困り顔だ。目線を下げたまま、緊張した様子で挨拶を交わす。


「……大樹さん、お久しぶりです」


 向日葵の挨拶を受け、大樹さんは優しく微笑む。その視線は、愛しい人を見つめる眼差し。


「桜乃宮の親族も、大広間にて石南花様を心よりお待ちしております。石南花様、大広間にご案内致します」


 大樹さんのご両親や親族を大広間に案内する。大樹さんは向日葵をエスコートし、向日葵もそれに応じた。


 この日は、一流ホテルからシェフやウェイターも手配している。大広間に設置された雛壇は、有名なフラワーコーディネーターにより花で溢れ、まるで披露宴会場のように華やかで美しい。


 親交のある両家は笑顔で新年の挨拶を交わし着席する。二人の結婚前提とする交際を祝しシャンパンで乾杯し、和やかな雰囲気で料理を楽しむ。


 私は、この日ばかりは祝杯以外のお酒は口にしないと決めていた。


 大切な日に泥酔し理性を失うわけにはいかない。


 桜乃宮財閥創業家として、石南花財閥との繋がりを持つことは、桜乃宮財閥の更なる繁栄とその地位を不動のものとし、日本経済を揺るがすほどの巨大な企業グループとなることは間違いない。


 向日葵はその頂点に立つべき後継者なのだから。

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