25
「……ったく、芝居するならもっと上手くしろよ」
「あら、みんな疑ってないわ。私は勤務態度も真面目だし、清純派で通しているもの。こうでもしないと、太陽と二人きりになれないし。最近太陽冷たいんだから」
みんなが店に入ったのを見届け、麻里は足早に路地を曲がり俺の腕に手を回した。
「ばか、よせよ。誰かに見られたらどーすんだよ」
「誰も見てないよ。もし、見られても平気だし」
俺達は交際しているわけじゃない。
麻里は恋人じゃないし、社内で噂になるのは不本意だ。
頭ではそう思っているのに、アルコールに侵された俺の体は、麻里の甘い誘惑には勝てずマンションに向かった。寒風にさらされ、歩いているうちに酔いも徐々に冷めていく。
麻里のマンションは勤務先から歩いて二十分の場所にある五階建ての小さなマンション。
部屋は1DK。室内は綺麗に整頓され、クリスマスはもう終わったのに小さなクリスマスツリーがいまだに窓際に飾られていた。
ドアを開け部屋に入るなり、麻里は俺に抱きついた。職場での可愛いイメージとは一変し、俺の前では妖艶な小悪魔になる。
激しいキスをしながら舌を絡ませ、俺の背広を脱がす。
麻里のキスで火がついた俺は、麻里のコートを脱がせワンピースのファスナーに手をかける。
「一緒にシャワー浴びよう」
「……うん」
二人の上着やワンピースは狭い廊下に散らばり、縺れあったまま浴室に入った。シャワーの元栓を捻り、抱き合ったままシャワーを浴びる。
「……ぁ」
生まれたままの姿で、獣のように互いの欲を貪る。
「太陽……ここで……」
シャワーのお湯に打たれながら、麻里は俺の耳を甘噛みし甘い吐息を漏らす。
俺達は本能のままに体を動かす。
俺と麻里はセフレ。
それなのに、今夜の俺達はどうかしている。
久しぶりに麻里を抱いたからではない。
麻里がいつもの麻里ではないと、感じたからだ。
麻里は何かから逃れるために、俺の体を求めている。
君島の熱い視線が……
麻里をこんなにも乱れさせているのか……。
◇
情事のあと、俺はベッドの上で煙草を取り出す。麻里は俺の胸にもたれ掛かり煙草をねだった。煙草を吸う女は嫌いだが、一本の煙草を交互に吸う。
「ねぇ、太陽……」
「なに?」
口を尖らせ煙草の煙を吐き出し、麻里は俺に問い掛けた。
「君島さんに上手く断る方法ないかな。同じ会社で気まずい思いしたくないの。君島さん真面目だし、真面目な人ほど思い詰めたら怖いっていうでしょう。ストーカーになられても困るし」
「君島?あいつならストーカーにならないよ。麻里の幸せを想って潔く諦めるんじゃない?」
「そうかな。君島さんに、太陽と交際してるって言っていい?」
「交際?それは困る。俺達、そんな関係じゃねぇだろ」
「……わかっているよ。私と太陽はセフレだってこと。初めは私もそうだった……。ねぇ今でも私のことをセフレだと思ってる?」
麻里が俺を見上げた。
情事のあとの潤んだ瞳。
その瞳の中に俺が映っている。
冷たい目をした俺が……。
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