太陽side
17
翌日、俺は朝食の準備にキッチンに向かう。
ていうか、珈琲とフルーツでいいのなら、自分で作れよな。
ブツブツ文句を言いながら、大理石の廊下を歩く。
玄関フロアでは、昨日同様、向日葵がモップで床掃除をしていた。
「向日葵さん、おはようございます。どうして毎朝掃除してるの?俺、昨日の夜、廊下の掃除したよ。それに今夜も帰宅したら、また床掃除するから、向日葵さんがしなくていいんだよ」
「……いいの。これは私の仕事だから。私の仕事を奪わないで下さい」
向日葵は小さな声で、そう呟いた。
床掃除が『私の仕事』だなんて。童話のシンデレラみたいに、二人の姉に虐められてるのかな?
蘭子と百合子なら、それも十分あり得る。
童話のストーリーが脳裏に浮かび、シンデレラに登場する意地悪な姉と、蘭子と百合子のツンとした生意気な顔が重なる。
「床掃除が仕事?お嬢様に仕事なんて必要ないでしょう?」
「……私は……お嬢様ではありません。この家の居候です……」
「居候?ご冗談を。蘭子さんや百合子さんと比べたら、向日葵さんが一番お嬢様らしいですよ。謙虚でそれでいて奥ゆかしい」
俺は向日葵の持っていたモップに手をかける。
一瞬、向日葵の細い指先と俺の指が触れた。
「……ゃっ」
向日葵は小さな悲鳴をあげ仔猫みたいに飛び跳ね、少し怯えた眼差しで俺を見上げ頬も耳たぶも赤く染めた。
指先が触れただけで、街角の郵便ポストよりも赤くなる向日葵。
なんて、ウブなんだ。
向日葵の過剰反応に俺は驚き、奪い取ったモップを返却する。
「ごめん、わざと触れたわけじゃないから。これ、返すよ。でももう掃除はしないで。俺が菊さんに叱られるから」
「……で、でも」
「いーから、いーから。掃除は俺に任せて、こう見えても意外と几帳面なんだよ。向日葵さんは好きなことに時間を費やせばいいから。
今から朝食の準備をするんだ。向日葵さんのためにフルーツジュースを作るからさ。今日は何がいい。苺かな林檎かな?それともオレンジ?」
「な……なんでもいいです」
向日葵は頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になっている。
極度の恥ずかしがりや、赤面症なのかな?
それとも、俺を異性として意識しているから?
まじで?
……まさかな?
『三人の誰かを落とすなら、向日葵が一番簡単だな』
脳内の悪魔が囁く。
男と付き合ったこともないような、無垢な女子高生。指先が触れただけで、こんなに赤くなるんだ。俺が告白したら、向日葵はどうなるんだろう。
もし、向日葵が俺の告白を受け入れたら……。
『そしたら俺は……億万長者だ』
バカバカしい、俺は未成年者を
朝っぱらから、俺は歪んだ夢を見る。
この豪邸が、俺の強欲を奮い立たせ平常心を狂わせる。
大体、向日葵は俺のタイプじゃない。
未成年者を相手にするほど、俺は女に不自由してねぇよ。
「向日葵さん、今日はグレープフルーツにしようか?」
「……は……はい。お願いします」
「じゃあ、後でダイニングルームに来てね」
俺は小さな子供を愛おしむように、向日葵の頭を右手でガシガシと撫でた。
向日葵は瞬時に固まり目を見開く。
「ゃああーー…」
蛸が海底から一気に浮上するみたいに、向日葵は小さな悲鳴を上げ一目散に二階に駆け上がった。膝下のスカートが蛸の脚のように翻る。
あんなに俊敏に走れるんだ。
ていうか、ちょっと可愛い。
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