――――――――――


【急募】

 住み込み家政婦(家政夫)。


 家賃一万。(光熱費込み、食事付き)

 給料、待遇は相談に応ず。


 性別・年齢不問。


 パートタイム可。

 一日数時間、当屋敷にて労働可能であり、早起き、料理、家事が得意な方に限る。


 ―――――――――――


「家賃一万!?光熱費込み食事付き!?」


 家政婦(家政夫)として、一日数時間働くだけ?給料、待遇、相談に応ずってことは、数時間働くだけで、給料も貰えるんだよな。しかも、性別不問ってことは、男でもいいってことだよな。


 まさに俺が求めていた理想的な副業。

 しかもこんな豪邸に住めるなんて。


 これは俺へのクリスマスプレゼントか?

 俺の目の前に、救世主が現れた!


 俺、早起き得意だし、料理も家事も得意だし。一日数時間でいいなら、会社に出勤する前と、会社から帰宅した後、家政夫として働けばいい。


 俺に迷いはなかった。

 これを逃すと、俺はサラ金かヤミ金に借金しない限り、生活が成り立たないからだ。


 だが、こんな豪邸に暮らすセレブな人間が、こんな俺を雇ってくれるだろうか。しかも、俺は男だ。きっと門前払いだな。


 それでも俺は、その豪邸のインターホンを鳴らさずにはいられなかった。それほど経済状況は緊迫していたからだ。


 数回チャイムを鳴らすと、インターホン越しに年配の女性の声がした。


『はい、どちら様ですか?』


「あの、フェンスの貼り紙を見たのですが、まだ住み込み募集してますか?」


『住み込み?あーハイハイ。募集してますよ。面接ですか?開門しますので、どうぞお入り下さい』


 大きな門がスーッと自動で開いた。目の前に広がる、絵画のような美しい庭園。まるでお伽の国だ。


 俺にはそれが現実のものとは思えず、まるで夢の世界に迷い込んだ小人のようだった。


 正門から数十メートル先に建物があり、近付くと洋風の白い両開きの玄関ドアが見えた。玄関に辿り着くまで、公園の散歩道を歩いているようだった。勿論、敷地内には車道も整備されている。敷地内のガレージにはリムジンやベンツが数台並んでいる。


 ドアの両サイドには赤い薔薇のステンドグラス。豪華で煌びやか、何もかも現実とかけ離れている。


 ただミスマッチなのは、玄関前で俺を出迎えた白いエプロンをつけた小柄なお婆さんだった。白髪を頭のてっぺんでお団子みたいに束ね、丸い眼鏡をかけている。


 この屋敷に相応しい美人で若いメイドを連想していた俺は、お婆さんの出現に拍子抜けする。


 もしかして、この屋敷のお局的家政婦なのかな。年配者ではあるが、どことなく気品を感じなくもない。


 だが、そのイメージはお婆さんの気さくな一言で脆くも崩れた。


「こんにちは。あら、殿方なのね」


木村太陽きむらたいようと申します。宜しくお願いします」


 お婆さんは俺をマジマジと見つめ、目尻に優しいしわを刻みニッコリ微笑んだ。


「このお屋敷には、殿方の方がいいかもしれないわね。女性だとすぐに、泣いたり逃げ出したりするから」


「泣いたり?逃げ出したり?」


 この屋敷には猛犬でも飼っているのか?

 それとも温厚そうに見えるお婆さんが、実は仕事に厳しく猛犬並みに凶暴で口煩いとか?


「あらやだ。気にしないでね。私は柿麿菊かきまろきくです。この家を取り仕切っているの。けれど、もう歳だから、一人では色々大変なのよ。さぁ、家にお入り下さいな」


 俺は菊さんに連れられ、屋敷の中に足を踏み入れる。


 目の前に広がるピカピカの床は全て大理石。天井まで広がる吹き抜けは、高窓から太陽の光が差し込み、ゴージャスなシャンデリアがぶら下がっている。


 映画や童話のお城を連想させる広い玄関フロアは、ダンスパーティーが開催できるくらいのスペースがある。


 もはや俺のアパートの一室なんて、ここの住人には犬小屋か鳥籠でしかない。





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