03-9

 プライベートでは、コーイチからオフ会に参加しないかという誘いを受けた。インターネットで出会った人たちによる直接の顔合わせ、それがオフ会。少し、るみなと結婚をしようとしている男がどんな人間か見てみたかったのもある。だが、一人では不安だったので、裕哉に相談した。

 そうしたら、嘉寿の持つ不安は杞憂だと言わんばかりにあっさり承諾してくれた。

 企画自体はだいぶ前からあったのらしいが、参加者不足だったらしく、美作市近郊の人たちに声をかけていたのだそうだ。

 次の休みの日が集まる日という電撃ぶりだった。人数は、嘉寿と裕哉を入れての男五人。いかにもファッションがオタクですというのが三人と、嘉寿と裕哉だ。裕哉は鉄板のオタクだが、こういうところでオタクらしさを発揮しない。今時の若者だ。それにしても五人では、人が欲しくなるというものだ。

 空は憎らしいほどの晴天。気温も高く、長袖の上着が少しうざったいくらいだ。でも、行き先はカラオケ。まあ、カラオケはたいていの人が行っても良いと思える娯楽施設だ。

 自己紹介をした。そのとき、みなに驚かれた。Kazuというニックネームだからだ。るみな好きはあえて避ける名前だ。だが、それが興味を引いたらしく、多くの質問を受け、交流のきっかけとなった。

 ここでは、嘉寿は自分をさらけ出しても問題ないと判断。それなりに相手にあわせて話題の浅さ深さを調節した。それなりにみな、るみなが好きなので、深い話ができて嘉寿はある程度満足だった。

 嘉寿はコーイチを見ていて、思ったことは大人だなということだった。別に挙動とか、言動が特にというわけではない。るみなへの愛の注ぎ方が、金のかかる注ぎ方なのだ。外見は少し太めで、顔もどちらかといえば女性には不人気な方だと思う。でも、愛嬌のある笑顔だし、邪気が感じられないとも思った。

 るみな色にデコレーションされたPDS。外見もそうだが、トップ絵や入っている動画もそうだった。それらを見せてもらった。他にも、デジタルフォトフレームや、リンゴ屋の携帯音楽プレーヤーだったりするのだ。

 それを見て、るみなを家に置いておこうという発想の嘉寿は、なるほどと思った。そう言う方法もあるということだ。とにかく秘密に秘密にと、動いている嘉寿にはない考え方だった。

 帰り際、地下鉄や電車の乗り場の違いから、駅で解散した。嘉寿と、裕哉とコーイチが地下鉄組で、同じ方面に向かって歩き出した。

「いやー、今日は急遽の参加ありがとうございました」

 コーイチが話しかけてきた。

「それにしても、Kazuさんも、ゆんゆんさんもイケメンでかなり焦りましたよ」

 そういって人なつっこい笑顔を見せた。

「そうなんです。俺ら、これで何人も女泣かしてるんですよ」

 裕哉が冗談をいう。もちろん、二次元にはまることで三次元の女たちが泣くという意味だ。

「ははは、うらやましいですよ」

 本当、イヤミや影がない人だと思った。

「kazuさんはどうでした?」

「コーイチさんの、外出グッズが興味深かったです」

 もちろん笑顔で話している。楽しいからだ。だけど、コーイチのように影のない笑い顔はできていない気がした。なんというか、貼り付けたような笑顔のような気がして、顔の皮を引っぺがして付け替えたい衝動に駆られた。

「これで、結婚したらいろいろ控除が受けられるらしいんで、思い切ってそろえてみました」

「控除?」

「ええ、扶養者控除みたいなのがあるんですよ」

「へえ~」

 興味深い話だ。ぜひにも話を聞きたい。そう思ったが、コーイチが腕時計を見て、「すいません、私あっちのホームなんです。急ぎの用がありまして、これで失礼しますね」と、いって見た目の丸っこさとは違うイメージの足早さで去っていった。

「まあ、いいか」

 今度、ファインディアでメッセージでも送ろう。

「今日はサンキュウ」

 嘉寿は、裕哉に礼をいった。

「ええって、これくらい。これで、おまえは即売会を断れなくなったわけやからな」

 にっこりと、極上の笑みで笑いやがった。

 夜。部屋で、るみなに囲まれ、るみなのことを考えた。今日は、他人のるみなに触れた。不思議といやな感じはしない。むしろ、興味がないというべきか。なんか冷めていることに気付く。

 確かに、るみななのだろうが、そこに嘉寿という関わりがなければ価値を見いだせなかった。つまりは、嫉妬すると思っていたが、あんまりしない。そして、るみなは、外から来るものでは無く、嘉寿を通した内側から来なくてはいけないこともわかった。

 るみなは、るみななのだが、嘉寿の嫁のるみなは、嘉寿がいなければ存在しないのだ。これで、たぶん同人誌の即売会に行っても大丈夫だろう。そう感じた。

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