01-8
家に帰った嘉寿は珍しく、家事をせず、裕哉が押しつけてきたゲームを起動した。
いつも教室の隅でオタクどもがやっているゲームに違いない。キャラを作ってみる。女キャラを作ってみた。だが、どうしてもるみなに似ない。
女キャラは諦めて、と男キャラを作って、自分とは似てもにつかないおっさんキャラを作った。そして、右も左もわからない状態でゲームが指示する通りに進めていった。
最初は、何の気なしにやってた。ちょっとやれば飽きるだろうと思っていた。だけど、単純にゲームも嫌いではない嘉寿は、おもしろいと思った。
夕食までそれをやり、夕食後はいつもと同じ。テレビを見て、ニュースを見ていた。
いつもと違うのは、母親の何気ない一言。オタク特集を見てたときだった。
「いやね、オタクって」
是とも否とも言えず、適当に「そうだね」としか言えなかった。
姉がそういう道に踏み込んでいるのを知ってか知らずかはわかならないが、あまり気持ち良いものでは無いのだけは容易に汲み取れた。
嘉寿は、かなりの親不孝なのかもしれない。だけど、好きになってしまったものは仕方ない。だから、せめてばれないようにするのが孝行のような気がするのだ。
十一時には二階へと上がる。
若干の後ろめたさがあったが、嫁との交流は忘れなかった。昨日読みかけていた読み直しの続きを読んだ。もちろん、るみなパジャマを着て。部屋で抱き枕を隣に侍らせて、ベッドにごろりと転がって。
そして、気がつくと、布団の上で眠っていたらしく、部屋の電気は点けっぱなしの状態で目が覚めた。時計を確認すると二時前だ。ちょっとうつらうつらした程度だ。
そして、また尿意。今度は、厳重に気をつけて服を着替えてトイレへと向かう。部屋の鍵だって忘れない。完璧だ。
たいていの世の中の作りとして、こう完璧なときはなにも起こらない。昨日のように油断しているときに降りかかるものである。だから、人はそれらを理不尽と名付け呼ぶようになったのだ。
部屋に帰って、寝直すかと思ったが、目が冴えてしまった。どうするか、考えた。勉強という手もあったがとりあえず、撃墜して、小説の続きを読もうかと思った。でも、ゲームも気になる。小説は暗記に近い状態で脳に記録されているし。
葛藤の末、ちょっとゲームをしてから寝ることにした。しかも、選んだのは狩りゲームではなく『神姿るみなの諸行無常』だ。これもやり飽きている感があるが、それでも、お気に入りのシーンを拾っていけば幸福感には浸れる。
しかも、ボイスつきだ。このゲームのために、コンポを新調し、録音できる環境を作り、また外に音が漏れないように中級者向けのヘッドフォンも購入していた。中級者向けといっても、二万前後するものだ。
嘉寿は、一年、二年の長期休みはほとんどをバイトに当てていた。出てくるグッズに合わせていたらいくら金があっても足りないからだ。でも、適度に友達にも顔を見せつつも、裏では汗水垂らしていたのだ。
バイト先では、その懸命な姿から苦学生と思われて、同情を買ったこともあった。本当のことをいうわけにもいかないので、将来のために貯金をしているといった。あながち、嘘ではない。
るみなとの幸福なときを送るために、必要な労力の投資なのだ。働いた身銭だからこそ価値が上がるとも言える。
あのオタクども、いや裕哉はどうなのだろう? 欲しいグッズのために汗水流すようには見えない。でも、どこからかゲットしてきてるはずだ。よく金が続くものだ。
裕哉の家は、嘉寿の家から見ればずっと裕福だ。きっと、お小遣いの額からしても違うのだろう。そうならば、自分の手にしたものこそ価値があると思った。
嫁に尽くすのは当たり前。収入を渡すのも当然。だから、自分のやり方は正しいし、間違ってなどいない。人からもらった金で嫁に尽くすのは違う。そういう意味でも裕哉とは相容れないのだろう。
でも、彼らは心の底から自分の好きなキャラを愛することを楽しんでいる。オープンに。オタクというレッテルを張られるかわりに。いささか、気が多いのは難点だが。
正直に思考してみる。確かに遺憾ながら、どうしようもなく、理屈ではないなにかによって、心苦しくも、なにかの間違いかも知れないが、うらやましい。と思っている自分が遺憾ながら、どうしようもなく、理屈ではないなにかによって、心苦しくも、なにかの間違いかも知れないが、いる。それは、遺憾ながら以下略は、確かだ。
嘉寿は、二次元と結婚するということがどういうことか、分かっているつもりだった。対外的にみて、まともじゃないのもなんとなく疑っている。
それらを含めて鑑みてもオタクという連中にカテゴライズされるのは嫌だ。だけど、るみなと結婚したい。ならばやっぱり、ばれてはいけないのだ。
ぼーっと考えながら、ゲームをしていたせいでお気に入りのシーンは吹っ飛んでいた。
「いけね。嫁の言葉を上の空は、やっちゃいかんよな。はあ、でも、眠くなってきたから寝るか。おやすみ、るみな」
そういって、ゲームの電源を落とし、布団の中に戻った。
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