01-1

 高校三年の春。高三春と言えばなにを思い浮かべるだろう。新しい出会い、新しい恋、新しい仲間、進級、進学、花見など様々あるだろう。

 真に重要なのは高三という学年。高三になるとなにがあるか。

 十八歳。

 そう、十八歳の誕生日が巡ってくる、通常は。

 なにができる歳と聞かれれば多くの人が、十八禁の解禁だとか、車の運転とかを上げるだろう。

 今までは、周りに隠れながらやってきたエロビ、エロDVDの鑑賞も堂々とできる。もう兄貴や先輩から会員証を借りて借りに行かなくとも良い。変装して少しでも大人っぽく見えるように違う意味で背伸びする必要も、おっさん顔のやつが毎回借りる係に指名されなくて済む。

 代わりに、その不思議な昂揚感を失うことになるがそれはまた別の話だ。

 なんと素晴らしいことか!

 だが、日本には十八歳で解禁される重要なことがまだある。厳密には男子だけの話である。

 それは。

 結婚! だ。

 日本男児たるもの、齢十八にして親の片方が認めれば、想い人と婚姻関係が結べるようになる。

 数年前、日本は驚くべき法律案を提出し、それを可決させた。

 それは、二次元との結婚を認めるという常識を逸した法律であった。

 少子化、晩婚化が進み社会問題と化しているときに、事もあろうことに二次元との婚姻を認めてしまう。

 通称にじこんの成立だ。

 オタク市場が急速に拡大し、一時期の倍にまで膨れあがり、隠れオタ、ライトオタと呼ばれる人々を加えると、日本の産業の根幹を支えており無視できない勢力と化している。

 そんな勢いのある集団から国会に二次元との婚姻を認める法律を作って欲しいという嘆願署名が集まった。当時、与党としてはもうぎりぎり崖っぷち、わらでも糸でも縋りたい状況の中、オタクよりをアピールしてきた首相はそれを法案化。そして、それぞれの独自の調査の結果無視できない集団ということが判明し、与党維持の新たな根としての期待を受け法律は可決された。

 全国のいわゆるオタクといわれた人たちの半分は狂喜乱舞し、残り半分は絶望した。人生の一大イベントである結婚を二次元としようなんていう人間がいることにおののいたし、そしてそれを喜んでいる人間たちを見たからである。

 ちなみに、その与党はその法案の支持者のほとんどが国会運営に興味を持たない人の集まりだったことから当てが外れて、野党へと転がり落ちたがそれはまた別のお話。

 キス、ペッティング、エッチ? そんなものとは無縁の二次元。基本見てるだけの一方通行の世界。

 今は、二.五次元というものも存在する。一つはメイド喫茶のメイドさんやコスプレイヤーたち。もう一つは、二次元の中に自分たちの画像を取り込むという方式。だけどやっぱり、キャラクターたちは答えてくれはしない。

 いついかなるときも同じ笑顔を向けてくれる彼女たちに男たちは希望を見いだす。

 そして、男たちは今日もそんな世界の中に身を投じるのである。

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