にじこん

終夜 大翔

プレミス

 かち、かち。

 時間は深夜零時直前。

 かち、かち。

 パソコンに向かう少年が無言でマウスをクリックする。

 深夜のせいもあり、その音だけが無機質に響く。

 パソコンが本来発するはずの音たちはみな、彼のしているヘッドホンから発せられている。

 そして、時計を見て静かに頷く。

「よし」

 緊張を隠せないようだ。浅いため息を吐く。

 そのときを待てないように、そわそわする。意味もなく体を伸ばしたり、膝の屈伸運動をしたり。

 ベッドに横たわり、あるアニメの設定資料集を広げるがどことなく落ち着かない。というか、逆さまに持っていることにも気付いていない。

 とにかく落ち着きが見られない。

 もう一度、パソコンの置かれた机に向かう。

 緊張で震えているのか、机の上で組まれた指が小刻みに揺れている。

「あと、一分」

 あと一分で少年は十八歳になる。

 こちこち。

 こちこち。

 秒針は、無情に刻を進め、少年を一人の大人として認めるべく動いていた。

 少年は、十八歳になることでいろんなことができるようになる。

 同時にいろんな責任も負うことになるのだが、若い彼にはそんなことは関係ない。目に入らない。

 思い起こされるのは、なぜ自分はそのときに十八歳じゃなかったのかということ。

 今その怨嗟は想いとなり、現実が許すこととなる。

 あと十秒。

 あと五秒。

 三、二、一。

 こちん。

 時計があっさりと十二時の刻を刻んだ。

「よっっしゃぁぁ!」

 少年は、力強くガッツポーズをすると、パソコン画面に向き直り薄い一枚の紙を突きつけて高らかに申し込んだ。

「オレと結婚してください!」

 かちりとマウスをクリックする。

 すると、相手の少女は笑顔で答える。

「ああ。もちろんだ」

 そして、すぐさまテレビに向き直りコントローラーを手にする。

「ホントにホント? オレと結婚してもいいの?」

 かちりとボタンを押す。

「私も、うれしい」

 少女は、少し照れたようにもじもじしながらそう答えた。

「オ、オレも嬉しいよ!」

 少女は満面の笑顔のまま、それ以上はなにも言わなかった。

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