廃品処分工場見学

三河豊田

廃品処分工場見学

 我々の社会的意義についてご説明します。

 あなたもご存じのように、当社では廃品処分の業務を行っています。ええそうです。社会的に要らないとされた、人間を処分しているのです。

 おや、どうしたのですか? 不快そうな顔をされて。ああ、そうですね。社会的に不要とされたモノを人間と呼ぶべきではありませんでしたね。配慮に欠けていました。申しわけございません。

 こほん。

 あなたもご存じのこととは存じますが、今一度、人間が社会的に不要となるプロセスをご説明させていただきます。まぁ、これも見学プログラムに入っていることなので、話半分に聞いていただければ。

 そもそも。社会的に不要、とはどう定義できるのでしょうか。これには長い長い議論は必要ありません。つまるところ、どれだけ経済的利益を社会に与えなかったか、損失を与えたか、と換言できます。

 ほんの十数年前まではいたんですよね。会社に通勤しているだけで何の利益も生み出さない人間が。そのくせ給料はいっぱしに人並みにもらうし、少なければ文句を言う。そういった人間は周りを見ていないんですよ。周りの人間が、月に三百時間働くのをしり目に、そういった人間は二百時間も働かない。周りの人間が、わき目も降らずに仕事以外していないというのに、そういった人間は、「きょうは天気がいいですね」「きのう、これこれのテレビを見ましたか?」「あの映画、面白いですね」なんて同僚に話しかけたりするんです。まあ、話かけるだけましなのかもしれませんね。そういった人間は、仕事人間に周りを囲まれ、話し相手も話すこともなくなると、うつ病になって自殺していたらしいです。三百時間も仕事をせずに、それでも仕事に囲まれて、精神が病んでいたそうな。

 余談ですが、この廃品処分という仕事が始まる前は、自殺する人間が年に三万人ほどいたそうです。今ではこの数字は半分以上も大きく減っています。要は、昔は廃品処分なんていう仕事がなく、つまり、社会的に不要として人権をはく奪される人間がいなかったから、自殺者が多かったのでしょう。仕事はつらいのに働かなくていけない。そんな事実を受け入れなかった人間が、次々と死んでいったのです。本来人権がいらない、社会不要者も、この自殺者の数にカウントされていたんですね、この三万という数字には。

 話を戻しましょう。

 我々の仕事は、こういった社会不要者を処分することです。心配はいりません。耳障りな悲鳴も何も、聞こえてこないでしょう? 社会不要者はここに連れてこられ、全員が毒薬を注射され、処分されます。その後にでる生体廃棄物は、粉砕機で細かく細かくされ、燃やされ、出てきた灰を圧縮し石化させてから、地中深くに埋めます。

 この仕事の法的根拠は、ダーウィンの進化論に依拠しています。曰く、環境不適格者は進化の過程で淘汰される、というものです。しかし我々の社会は、社会不要者を淘汰せずにここまで来てしまいました。その結果、社会不要者を維持するコストを無視できなくなりました。だから、この淘汰という概念を、人工的に実現したものが、この廃品処分という仕事なのです。よく混同されるのですが、優生学とは違います。優生学は、優れた人種を残すのに対し、我々は劣った社会不要者を排除するのです。

 廃品処分は、とても素晴らしく、貴い仕事です。なぜならば、潜在的に社会に損失を与える社会不要者を削減しているからです。これにより、社会不要者を維持するコストが削減され、また社会不要者が生み出す損失もなくすことができます。また、残った人間――昔はよく「真人間まにんげん」などと呼ばれていましたが、今ではただ人間と呼ばれています――が、社会的な利益を生み出しやすくもなっています。社会不要者がなくなった分、彼らは四百時間も五百時間も働けるようになったのですから。

 これもそれも、我々の廃品処分という仕事があってこそのなのです。

 それなのに最近では、この素晴らしく貴い仕事を、機械に任せようという意見があります。社会不要者に毒を盛るぐらい、機械にもできる、と。それに我々が、たったの三百時間しか働いていないから、というのです。

 どうでしょうか。確かに、たったの三百時間しか働いていないかもしれません。けれども、この仕事は、真に意義深い仕事なのです。間違って人権を与えられてしまった社会不要者は処分されるべきです。そして、社会不要者を処分して、社会を健全に守っているのは我々です。我々は社会に必要な真人間なのです。

 我々の社会的意義について、ご理解いただけたでしょうか?

 それはよかったです。

 これで見学プログラムは以上です。

 本日見学に来られた、あなたが真人間として社会に貢献できることを、心よりお祈り申し上げます。

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