RPG世界編
夢パート
第11話 雄々しく輝くキングキャッスル
ラッパが鳴り響き、ショウの鼓膜へと突き刺さる。
「うわわッ!?」
ショウが勢い良くベッドあら起き上がると、またしてもそこは見知らぬ世界であった。
大理石で出来た白く綺麗な壁、焦げ茶色の木材に金色の縁が付いたお洒落な家具の数々、赤く高級そうな絨毯が引かれた部屋の窓からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
すぐさまショウは自分の右手を見てみると、例の如く黒い包帯が巻かれていた。
「まさか……これもまた夢?」
ショウは、またしても自分が夢を見ていると自覚したのだ。
すると彼のいる部屋のドアから、慌ただしい足を音がドンドン近づいてくる。
「王子! いつまで寝ているのですか! 早く起きて下さい!」
「え……」
いきなり扉が開かれ、テレビやアニメで見たフリフリフリルで短いスカートの半袖メイド服を着た母親が出てきた。
「えええええええええええええ!? か、かか、か、母さん!? 何でそんな格好をしているの!? 夢の中でもそれはさすがに恥ずかしいから止めてよ!」
「母さん? 何を寝ぼけているのですか王子! 私はメイド長です! ささ、早く支度をなさって下さい!」
母がそう言うとショウを無理矢理クローゼットの前にあった鏡の前に立たせ、まるで台風のような動きで彼の身なりを整えていく。
鏡の前のショウの寝癖はあっと言う間に無くなっていきドンドン服を着させられ、あっと言う間にトランプのキングに印刷されているような中世ヨーロッパ貴族の服装とマントを身に纏っていた。
「……なにこれ」
現代のファッションとは程遠く、コスプレにも近い衣装を着た自分自身を見たショウは絶句するほか無かった。
「ささ、早く参りましょうか王子」
「え!? ど、何処に!?」
「お姫様……いえ、王女様でした。王女様がお待ちです。さあ行きましょうか!」
「えー!? ちょ、ちょっと!?」
強引に母親そっくりのメイド長に手を引かれて行くショウであった。
♠
どうやらここは大きな城の中であったらしい。城の窓からは大きな城下町も見えた。中世ヨーロッパ風服装の人達や建物が立ち並び、まるで昔やったことのあるゲームの世界に入り込んだみたいだった。
天井が高く、壁には光り輝く宝石の装飾が施された玉座の間に通される。無数に設置されたステンドグラスから七色のこぼれ日差し込み、ショウはマントを揺らしながらその光景をキョロキョロと見回していた。
「「おはようございます! 王子様!」」
玉座へ続くレッドカーペットの横にズラっと並んだ執事やメイド達が、一斉にお辞儀をする。
「お、おはようございます……」
ショウもとりあえず挨拶を仕返した。
すると玉座から聞き慣れた声が響き渡る。
「ようやく起きてきましたのね、お兄……お兄様」
玉座には水色のドレスを身に纏った小柄の少女が座っており、扇子で顔を隠してはいるものの見覚えのありすぎる黒髪のロングツインテールで誰なのかすぐに分かった。
「……エリちゃん? 何やってるの?」
「私はエリじゃない! エリザベーヌ!」
「え?」
エリは持っていた扇子を畳む。すると、いつもの夢通り黒い包帯で目隠しをした顔を見せてくれた。
彼女は頬を膨らませ、どうやら怒っている様である。
「エリちゃん、そんな所に座っていったい何をやってるの? 今度はちゃんと設定がある夢なんだけど……何か中世ヨーロッパ風の夢なんだね」
「だからエリじゃない!! 私は王女エリザベーヌ・ミナセ・ベアトリーチェ! このミナセ王国の女王エリザベーヌなの! 空気読んでお兄……じゃなくてお兄様!」
「……う、うん、分かったよ」
「それじゃあ、お兄様の名前はこれからショーン王子ね」
「なにそれ!? イヤだよ! 恥ずかしいよ!」
「あと、このミナセ王国って所は犯罪の起きない平和な国だから。みんな超幸せに生きてるんだよ! 全部私のおかげって設定だからね! それとお母さんはメイド長って設定なのと、お父さんは大臣ね」
ドンドン訳が分からなくなっていく設定に、頭を抱えるショウ改めショーン。そんな彼の思考が、徐々に混沌としていく最中であった。突然辺りが暗くなり、ステンドグラスからは差し込んでいたこぼれ日が消えていった。
「な、なんだ? 急に辺りが暗くなったぞ!」
「お兄様! いったいどうしてしまったの!」
なんだなんだとメイドや執事達も慌てふためき、ショーンやエリザベーヌも只ならぬ気配に緊張が走る。
『フアッハッハッハッハ!!』
突然、またしても聞き覚えのある高笑いが城内に木霊する。
「その声は!? まさか南方ダイチ!」
生きていたのかとショーンは体を強ばらせ、黒い包帯の巻かれた右手に力を込める。
『ソウ! 俺ノ名ハ南方……イヤ異世界カラ降臨シタ闇ノ魔王”サウス・グラウンド”ダ! フアッハッハッハッハ!!』
「そ、そこは律儀に世界観を遵守して名乗るんだね……」
『俺モ本当ハコンナダサイ名前名乗リタクナイケド、何故カ言ワサレルダヨ……ヨウヤク見ツケタゾ! 王女エリザベーヌ!』
すると玉座の間の天井に黒い雲が立ち込め、雲の中心点からボトリと黒い不定形の存在が産み落とされる。不定形の物体は徐々に形を形成していき雄々しい角を生やし、漆黒の衣装と大きなマントを身に纏った大男が広間の中心に現れたのである。
その大男の周辺に黒い雲のような物を漂わせ、表情は見えづらいもののニィッと白い歯を覗かせた。
「南方!! よくもまた僕達の前に現れたな! モエカさんの仇!」
ショーンの右手の包帯が光り出し[剣心]という漢字が浮かび上がる。途端に彼の手元から白い剣を閃かす。
瞬く間に間合いを詰め寄り、大男となった南方改め魔王サウスの胴体に一閃を浴びせた。
しかし――
『利カナイナ~』
ショーンの浴びせたはずの剣は空を切る。間合いを見誤った訳ではない。あろう事かニンマリと笑う魔王サウスの体をすり抜けたのだ
「そ、そんな!?」
『クフフ、物理攻撃ハ当タラナイノサ!』
カラぶったショーンは体制を整えようとするが、それよりも早く魔王サウスは体重を乗せた重い蹴りを彼の腹に叩き込む。
「うっ!?」
凄まじい力でショーンは吹き飛ばされ、大理石の壁へとぶつかった。
「お兄様!?」
エリザベーヌが声を上げ、ショーンが駆け寄ろうとする。だが同時に魔王サウスは残像を残しながら彼女の前に立ちはだかり、彼女の体を掴み上げる。
『ツイニ捕マエタゾ、世界よ! コレデコノ世界ハ俺ノ物ダ! 俺ノ新シイ人生ガ始マルンダ!』
「イヤ! 止めて! 離してよ!」
そのやり取りを壁に叩きつけられ地面にひれ伏したショーンは、奥歯を噛みしめながらゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫ですか王子!?」
何人かのメイドや執事がショーンに駆け寄り彼をいたわる。
ショーンはようやく立ち上がるが魔王サウスとの距離が離れ過ぎており、いくら早く間合いを詰められたとしてもエリザベーヌを救出することは非常に難しいことを悟る。
『ソレジャア儀式ノ準備ダ! エリザベーヌハ頂イテイクゾ!』
「助けて、お兄様!」
「エリちゃん!!」
ショーンが手を伸ばし叫んだ時だった。
「うわああああああああああああああああああああああ!?」
突然、誰かが落ちてくるような叫び声が玉座の間に響き渡った。
♠♠
またしても玉座の間の中心から光の円形と何処かの言語が描かれた魔方陣が突如形成される。その魔方陣の中心点から今度は光の柱が形成され、何かが上から落ちてくる。
ドスンと落ちたそれはどうやら少年らしく、頭を抱えながらゆっくり立ち上がった。
「痛ててて……何なんだよ急に、いったいどうなってるんだ?」
少年の風貌は赤茶色のローブを纏い、茶色がかった短い髪がボサボサに乱れている。強い意志の籠もるパッチリとした瞳を見開く。
「うおー!? す、すげー!? 俺、立ち上がってる!? 何か足に黒い包帯が巻かれてるし!?」
少年が自分の足を見て驚いていた。彼の言葉を聞き足を見てみると。両足共にショーンやモエカと同じく黒い包帯が巻かれていた。
「うおー!? 何だよここ!? 暗いけど城の中か!? あれ? まさかこれって……」
キョロキョロと辺りを窺う少年はやがて――
「俺、異世界転生したんだ!? 夢にまで見た剣と魔法の世界にこれたんだ! イヤッホー! ステータスオープンとかどうやるんだ? やべー! ワクワクしてきたぞ!!」
『「「……」」』
皆が見守る中、少年は跳びはね踊り狂う。
『……何ダ、今度来タノモタダノクソガキカ』
「カイトくん!」
エリザベーヌは自然と名前を口にするとカイトと言われた少年は気づき、彼女へと体を向ける。
「あれ!? 水瀬じゃん! お前も居たのかよ! てか何でお姫様みたいな格好して、黒い包帯を目に巻いてんだよ?」
「違う! 水瀬なんて呼ばないで! 私は王女エリザベーヌ・ミナセ・ベアトリーチェ! このミナセ王国の女王よ!」
「ブハハハ! エリザベーヌってお前、何お姫様ごっこしてんだよ!
「……カイトくん、後で殺す」
カイトとエリザベーヌのやり取りはとても慣れ親しんだ間柄に思える。
ショーンは、カイトに対して声をかけた。
「君! そこは危ないから早く離れるんだ!」
「はぁ? 危ない?」
間抜けな表情を浮かべてショーンを向くカイト。だが、その隙を狙ったかのように魔王サウスは右手を掲げた。
『ナンダカヨク分ランガ、オ前ハ不穏分子ダ! シネェエエ!』
サウスが右手を振り下ろすと、黒いエネルギー物質が三日月状に形成され放出される。それはカイトへと直進していった。
「カイトくん!」
「危ない!」
「う、うわあああああああああああああ!?」
三者共に大声を上げる。
そして、黒い三日月はカイトに衝突し爆発を引き起こした。
『フアッハッハッハ! 呆気ナカッタナクソガキヨ! フアッハッハッハッハッハッハ……ハアァ!?』
魔王サウスは高笑いを止める。
カイトから立ち込めていた爆煙が晴れていく。すると、そこには黄色くも薄い光の幕が彼を覆っていた。
「……あ、あれ? 痛くない。俺、生きてるぞ? な、何だこの光の壁は!?」
「あれは!?」
彼は自分の体を守るように構えていたが、あの煙の中を無傷で立っていたようであった。ショーンは、彼の両足に巻かれた黒い包帯……主に太股の部分に文字が浮かび出た文字へ見逃さなかった。
「あれは……
彼の太股は[閃光]と書かれていた。
ショーンは、またしても自分と同じ能力を持った人間が現れたことに驚きを隠せなかった。
『ッチ!! コイツモマタ厄介ソウナ能力ヲ使ウノカ!』
「カイトくん!」
「水瀬! 今助けるぞ!」
エリザベーヌのかけ声にカイトは反応する。
カイトは自分でも驚きながらも右手で拳を作り、その場で正拳突きを繰り出すように構えて見せる。
「何だかよく分からねぇけど、この力の使い方……何となく分かってきたぜ!」
彼が構えると同時に、太股に書かれた[閃光]という文字から手の平サイズの球体が八つ飛び出し、彼の周りに浮かび上がる。どれもが濃縮されたエネルギーのように光り輝いていた。
『ヤバイ気ガスル……』
危険を感じた魔王サウスは、エリザベーヌと共に黒い霧に包まれ初めその場から離脱しようと試みる。
「逃がすかああああああ!」
カイトの周りに浮かんでいた球体は突然形状を変え、それぞれが大きな槍のような形に変わる。
彼は叫び声と共に拳を前に突き出すと、浮いていた光の槍達は一斉に魔王サウスへと飛び込んでいく。
『ギャアアアアアアアアア!!』
光の槍はショーンの剣でも着ることの出来なかった魔王の体に突き刺さり、断末魔を上げながら玉座の間に立ち込めていた黒い霧を掻き消していった。
「やったか!?」
誰しも思うショーンの言葉が響き、辺りはシーンと静まる。
霧が晴れると、そこには魔王サウスとエリザベーヌの姿は何処にも無かった。そして、玉座の間に声が響き渡る。
「クソ! いなくなったぞ! どこだデカ物! どこだ水瀬!」
『今日ハコノクライデ勘弁シテオイテヤロウ! ダガ、王女エリザベーヌハモラッテ行クゾ! フハハハハハハ!』
「そ、そんな!? 南方! エリちゃんを返せ!」
『フハハハハハハ! 返シテホシケレバ魔王城マデ来イ! シカシ、コノ世界ニハ我ガ魔王群ノモンスター達ガ居ル! ソレラヲ乗リ越エ、我ガ輩ノ元マデ来レルカナ? フハハハハハハ!』
律儀にいろいろ教えてくれた魔王サウス。彼の気配は徐々に消えていった。
♠♠♠
「世界が闇に包まれる時、異世界より大地を照らす光の勇者現る……と、古文書に記載がありますね……」
貴族風の身なりをした父がいつの間にやら現れており、この世界の歴史が記されているという古文書を王宮で働く者達の前で読み上げていた。
エリザベーヌが言っていた通り、彼は大臣という立場の人間らしい。
そして答えは出たとばかりに、高らかと声を上げる。
「つまり! この少年!
大臣の言葉に玉座に集まった城の者達は、一気に歓声を上げた。
「俺の名前は、一条カイト! 日本から来た小三の元サッカー部だ! 異世界転生したばっかりだけど、水瀬……確かエリザベーヌだったっけ? とにかく俺の同級生がさらわれちまったんだ! 仕方ねえから、俺の光の力を操るチート魔法で魔王をぶったおしに行ってくるよ! みんなよろしくな!」
「なんと異世界の勇者よ!? 危険をかえりみず王女の命を救って抱けると申しているのですか!?」
「当たり前だろ! アイツとは親友なんだからな!」
歓声に臆しないカイト。その年齢にそぐわぬ威風堂々たる振る舞いに、さらに大きな歓声が沸き上がる。
その様子を間近で見たショーンだが、彼はあまりの展開の早さと危機感の無さに目が点になっていた。
ノリノリの城内にノリノリの大臣は、笑顔のまま近くの兵士に声をかける。
「それではさっそく、旅の準備を致しましょうか。お前達、勇者様が一人で旅に出られるように準備を!」
「「ハッ!」」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? 一人って、カイト君一人で魔王城に行くの!?」
聞き流せない発言に、ようやくショーンが言葉を挟む。それに対して大臣は、キョトンとした表情を見せる。
「はい、そうですが何か?」
「何かじゃないよ! だって彼はまだ小学三年生、つまりエリちゃんと同じ9歳なんだよ!」
「はい、存じ上げておりますが?」
「存じ上げてないよ! 危ないでしょ! 子供一人で、あの南方……相手は話によると犯罪者なんだよ! そんな奴の所に一人でなんて……」
「おい! ショーンとか言ったな! そこのお前!」
今度はショーンと大臣の間に、カイトが割り込んでくる。
カイトはショーンをキッと睨みつけ、高らかと言ってのける。
「俺は子供じゃねぇ!!」
「子供だよ!!」
そろそろショーンの頭が痛くなってきた所で、大臣が笑いつつ説明をする。
「ショーン王子、その思いやりの気持ちは非常に素晴らしいと思います。ただ、少々心配が過ぎるのではないでしょうか?」
「……と、言うと?」
すると大臣は一つ頷き、自信満々に答えてくる。
「カイト様は異世界から来た存在、そしてこの世界には存在し得ない光を操る魔法を持っているのです」
「……うん」
「つまりチート! この世界において最強の力! 負ける要素は皆無と言うことです!」
そこまで聞いたショーンは、深い溜め息を漏らす。
「もう分かったよ……僕も彼に着いていく」
城の従者達はざわめくが、気にせず話を続ける。
「僕もエリちゃんのことが心配で居ても立ってもいられないんだ。カイト君一人に行かせる訳にもいかなしね。女王不在の国を誰が納めるのですかとか言わないでくれよ?」
「なんて素晴らしい! 自ら死地へ赴くなんてさすがショーン様でございます! それでは二人旅の準備を致しますね!」
「そこは、少しぐらい止める姿勢を見せても良いんじゃない!? え? 大丈夫? この国は本当に王族不在のままで良いの? それに二人旅って……お着きの兵士とか付けないの?」
「はい、たぶん何とかなりますからご安心を! いざと言う時は、私めが昇任し、王としてこの国を統治致しますから! アッハッハッハッハ!」
ショーンはどうせ夢だからと思い、考えることを止めた。
「アンタの名前、ショーンって言うんだっけか? 俺の名前は一条カイト! これからよろしくな!」
「あ、う、うん……ショーンじゃないんだけど、よろしくね」
とりあえず、カイトと自己紹介を交わす。
話が無理矢理まとまった所でショーンは気合いを入れ直し、表情を変える。
「……よし! いろいろ納得はいかないけど、とにかくエリちゃんさえ救えればいいや! それじゃあ、大臣! 長旅になりそうだし移動用の馬車を用意してくれないか?」
「いえ、魔王城はこの国の城門から歩いて一時間もしない所にありますので、必要ではないかと」
「は!? 一時間!?」
目玉が飛び出しそうなショーンを尻目に、大臣は窓の外を指さす。
指し示した先には黒く、目で見えるほど禍々しいオーラを放った大きな城が、森を挟みデカデカと鎮座していた。
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