第12話 旅は道連れフォレストライン
「へー、ここは夢の世界で、ショーンもここに異世界転生してきたんだ。しかも水瀬の兄貴だったんだな。アイツに兄貴がいたなんて知らなかったぜ!」
「あー、うん、一応僕の本当の名前は水瀬ショウって言うんだ。改めてよろしくね。一条君」
「おう! 俺のことはカイトって呼んで良いぜ! ショーンの本当の名前は水瀬ショウね! でも、面白いからショーンって呼んで良いか?」
「う、うん、もう別に良いよ……」
「よっしゃ! よろしくな、ショーンの兄貴!」
二人が改めて自己紹介をした所で、敵が居ないか周囲を確認しつつ森の中を突き進んでいく。ここはミナセ王国と魔王城の間に位置する始まりの森と言われている場所であった。
彼等は腐葉土と枯れ枝を踏みしめながら、木々の間から見える魔王城へと近づいていく。
ふと、ショーンは言葉を漏らす。
「それにしても、馬車ぐらい用意してくれても良かったと思うんだけどな……森は足場が悪くて馬車は無理って……」
「良いじゃん良いじゃん! 凄い旅してる感があってさ! すぐ終わっちゃったら面白くないだろ?」
「面白いかどうかじゃなくて、早くエリちゃんを助けないといけない訳だからさ。相当ゴネたのに出してくれないなんておかしいよ……仮にも自国の王女様がさらわれたんだよ」
ショーンの言葉に、カイトはやれやれと首を振る。
「ショーンの兄貴は真面目過ぎて面白くないな~、それじゃ冒険がすぐに終わっちまうだろ?」
「だから、面白いとかの話じゃないんだってば! 遊びでやってるんじゃないんだ!」
「水瀬なら大丈夫だって! アイツ、ケンカなら誰にも負けねぇからさ! 俺もギリギリの差でボコボコにされるぜ!」
中学生のショーンが勝てないのだから、小学生で同学年のカイトがエリに力で勝てる訳がない。しかし、現実世界で無類の強さを振るうエリなのだが、どういう訳か夢の中では力を発揮しない。
いつも守られる側で、ショーンやウサテレそれとモエカなどに守られていた。
何か意味があるのだろうかと考えてしまう。
心配しつつも、この気持ちをカイトにぶつけるのはお門違いだと思い自粛する。
気持ちを切り替え、違う話題をカイトへ振ることにした。
「……そう言えばカイト君。エリちゃんと同じ学年なんだっけ?」
「おう! 同じクラスだぜ!」
「そっか、尚更都合が良いや。よく遊んだりするの?」
「いいや、遊んだりしねぇよ。アイツ、俺のこと嫌いみたいで凄い避けられてるんだ! 昔はよく話したんだけどな」
「え!?」
カイトとエリの関係性を知りたかったショーンだが、あまり聞きたくない内容が返ってきてしまった。
「その……ごめんよカイト君。うちのエリちゃんが……」
「謝んなくて良いよ! 別に俺は、アイツのこと嫌いだとか思ってねぇしな!」
「じゃあ好きなの?」
「す、すす、好きじゃねぇし!? ふざけんな! 誰があんな奴のことなんか・……」
耳まで顔を赤くしてゴモゴモと言葉を濁すカイト。その反応を見て何となく彼等の関係性は見えてきた。少なくともカイトはエリと関わりのある人物であり、この夢の世界に呼ばれて来たのである。
ドリーム・コネクターズのデーブが言っていた、このエリの見る夢の世界に……
「そうだショーンの兄貴! この夢が覚めたら、水瀬に早く学校に来るように言ってくれよ!」
「え? 学校?」
「ああ! アイツ新学期になっても学校に来ないんだよ。風邪とか引いたことないし、先生も誤魔化して本当のこと答えてくれないんだ」
「ちょっと待ってくれ!」
歩みを止め、ショーンはカイトへと向き直る。
「今、君はなんて言った? 新学期って言わなかったかい?」
「え? ああ、そうだけど?」
目が覚めそうな程、強烈な衝撃と不安がショーンに押し寄せてくる。
「夏休みが終わったの? 小学生ってそんなに夏休みが終わるのって早いの?」
「は? だって今1月だぜ! 夏休みどころか冬休みが終わっただろ?」
「え!? い、1月!?」
「大丈夫かよショーンの兄貴?」
「カイト君……今って8月じゃないのかい?」
「はぁ!? 何言ってんだよ、ちげぇし! 今は1月だよ! 水瀬は去年の夏休みが終わってから来てないんだって! もしかしてギャグで言ってるのか? ショーンの兄貴」
噛み合わなくなっていく。
ショーンとカイトの間で認識に、約半年近くの時差が生じていた。
ショーンの思考がグルグルと周り硬直している中、アハハとカイトが笑い飛ばす。
「まあ、良いじゃん! どうせこれも夢みたいだしさ! 気にしないようにしようぜ!」
「いやいや……だから、そういう訳には……」
少年二人が再び議論を起こそうとしていた。その時だった……
「ゴブゴブ! コブコブ、コブコブ!」
「や、止めなさい! 貴方達離しなさい!」
ゴブゴブという鳴き声と、助けを呼ぶ声が茂みの奥から聞こえてくる。
「ショーンの兄貴! 今助けを呼ぶ声が!」
「う、うん、聞こえた! でも何か聞き覚えがある声だったような・……」
「これ、間違いなくイベントクエストだぜ! 早く助けに行こうぜ!」
早くエリを助けに行きたショーンであるが、悲鳴を無視して先に進む訳にもいかず、声のする方へと向かう事になった。
♠
茂みを掻き分けて行くと突然、少年二人の横をオレンジ色で棒状の何かが飛んでいった。
「うお!? な、何かニンジンみたいなのが飛んでいったぞ!」
「ニンジン……まさか!」
急いでニンジンが飛んできた方向へ走ると、その事の起きた現場を目撃する。
「貴方達、いい加減にして! ウサテレはどう見たって食べられなでしょ! ちょっとブラウン! ブラウンはまだなの!? え、まだトイレに籠もってるの!?」
「ゴブゴブコブコブコブ、コブ!」
そこには、ファンタジー世界に登場する緑色の肌をした妖魔ゴブリンの姿があった。
「スゲェ!? ショーンの兄貴! ゴブリンだぜ、ゴブリン! 本物だ!」
「シッ! カイト君、静かに……」
ゆっくりと近づいていく。
するとゴブリンは5匹ぐらいで焚き火を取り囲み、何かを焼いているように見える。
更に近づくと、焚き火の上には枝にツタで括り付けられた哀れなウサテレが居たのだ。
「うう……これじゃあ、あの子達に会う前にウサテレが壊されてしまうわ……」
悲痛な表情と声を上げるウサテレに映し出されるユリエが見えた。
今にでも助けたい気持ちに駆られるショーンだが、ひとまず冷静になって辺りを確認し状況を確認する。
ゴブリンは全部で5体。
その他に隠れていないか辺りを見渡すが、特に気配を感じなかった。確認を終えた後、ショーンは息を吐く。
「辺りに敵は潜んでないみたいだ。ここは奇襲を……」
「兄貴! ここは任せろ!!」
おもむろにカイトは大声を上げ、草むらから体を晒し出す。
それにゴブリンも当然の事ながら気づき、彼に視線が注目する。
「カ、カイト君!? いったい何を!?」
「良いから見てな! 俺の新しい必殺技を!」
カイトが手を掲げ太股に書かれた[閃光]が輝く。青い天が一瞬の瞬き、一本の光の柱が地面へと向かっていく。
「くらえ! セイクリット・ハンマアアアアアア!」
「ああ! ちょっと待っ……」
彼が技名らしいものを唱えると、ゴブリンに向けて天から光の柱が突き立てられる。
「「ゴブー!!」」
強力なエネルギーの衝撃にゴブリン達は四方に吹っ飛ばせられていった。
「よっしゃー! 俺つえええええええええええ! 見たかよショーンの兄貴! 一撃で倒したぜ! ……あれ? 兄貴?」
カイトは横に居たはずのショーンへ向くがそこにはいなかった。
「カイト君……ここだ!」
光の柱の爆心地より更に奥、草むらの陰が体を出した。
ついでに木で括り付けられていたウサテレも担いでいる。
「貴方は……水瀬君? やはり貴方もここに居たのね!」
「ええ、ユリエさん。間に合って良かったです」
ショーンの右手に浮かび上がる[剣心]の文字は消えていく。
♠♠
「うおおおおおお! サンライト・レーザー!!」
「「グオオオオオオオン!?」」
カイトから放たれた無数の閃光は、魔物達を一掃していく。
ゴブリン達をド派手な技で倒して以降、周辺の魔物達が集まってくるようになったのだ。
「砕け散れ! シャイニング・ブレード!!」
「「ウヒョオオオオオオ!?」」
しかしながら、戦っているのはカイト一人である。
共に旅路を進めていたショーンと彼の肩に乗ったウサテレは、カイトの二歩後ろを淡々と歩き進んでいた。
「これで終わりだ! ライトニング・ブラスター!!」
「「ブボボオオオオオオ!?」」
最初は皆で力を合わせて戦っていたのだが、徐々に作業は単調化されていった。結果として遠距離で、かつ広範囲攻撃と威力も中々出せるカイトの力で効率良く倒せることに皆気づいたのだ。
「彼の名前、一条カイト君って言ったかしら?」
「はい」
「凄く強くて助かってるのだけど……私達は本当に戦わなく良いのかしら?」
「えーっと……」
ユリエの質問に、ショーンは困ってしまう。思わず話題の中心であるカイトを見てみるが……
「うおおおおお! 超面白れえええええ! 俺つえええええええええええ!」
爆音と共に、彼のテンションは鰻登りであった。
「たぶん大丈夫だと思います。あんまり離れないように、危なくなったら助けて上げれば良いかと……」
「そ、そうね。目を離さないようにしておきましょうか……そうだ水瀬君! 君に報告があるの!」
何かを思い出したようにユリエは、ショーンに話題を出す。
「この前の恐竜世界の時、一緒に戦った清白モエカさんなのだけど……」
「……え!? モエカさん!?」
モエカの話題を振られるのは当然の流れであったが、いろいろ思考が停止していたショーンにとって彼女の名前は非常に衝撃的だった。彼の驚く様子に、ユリエは笑みを浮かべて頷く。
「ええ、それでその彼女なんだけど無事であることを確認したわ」
それなら、ショーンも知っていた。夢から覚めた直後に彼女と出会っている。ショーンにとってこれは知っている情報である。
だが、ユリエがさらに続けた会話の中に彼は違和感があった。
「清白モエカさん、命に別状はなかったわ。元々退院直後だったから腕に包帯は巻いていたけどね。君と同じく夢に関してのことを覚えている反応を見せたわ、もちろん君のこともね」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「え? どうしたの水瀬君?」
「今、モエカさんが夢の事も……僕のことも覚えているって言ったんですよね?」
「え、ええ、そうよ……まだ日本に居るエージェントがなんとか接触出来てからの情報で、暫定的な物らしいけど……」
ショーンの違和感が大きくなっていく。それと同時に足場がふらつくような不安感がゆっくり押し寄せてくる。その様子を感じ取ったユリエは、恐る恐る彼に尋ねる。
「どうしたの水瀬君?」
「……ユリエさん。聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「な、何かしら? 急に改まって」
「今日は何月の何日か教えてもらえませんか?」
「え? 今日の日付を?」
「はい、お願いします」
唐突な質問にユリエは一瞬戸惑ってしまうが考える素振りを見せ、そして慎重に答えてくれる。
「……今日は1月23日よ」
「……」
「水瀬君、どうして日付なんて聞きたいの?」
「・・・・・・いえ、何か夏休みボケしているみたいで」
「夏休みボケ?」
「な、何でもありません」
ショーンは思わず首を横に振ってしまった。それに対して、ユリエは食いついてくる。
「水瀬君、あなた何か今隠してない?」
「か、隠してませんよ」
「いいえ、何で日付のこと聞いたの? 詳しく教えてほしいの」
「別に深い意味は……」
「水瀬エリちゃんに関わることだとしたら? それでも教えてくれない?」
エリを引き合いに出してくるユリエ。それに対してショーンは軽く奥歯を噛む。あまり信用ならない相手に対して話したくない思いと、妹の何かに関わっている可能性を引き合いに出され、彼の中に葛藤が生まれる。悩んだ後にショーンは話すことにした。
「僕は、今8月だと思っています」
「……え?」
「でも、さっきカイト君に話を聞いた時、彼はエリちゃんと同じ学校に通ってる同級生なのですが、すでに1月の冬休みが終わっていて、エリちゃんが学校に半年来ていないと言っていました」
「それって……」
「つまり、僕と貴方達の認識に半年程の時差があるんです。もちろん理由なんて分かりません」
あえて、モエカのことは伏せて話した。
ユリエは笑うことはもちろんせず黙って話を聞き続け、そして頷く。
「そう……分かったわ。ありがとう」
と、簡単な返事をするだけだった。
「それで、今の話はエリちゃんと何か関係ありましたか?」
「……まだ、何とも言えないわ。でも、君の話は貴重なものだと私は思ってる」
小さくショーンは溜め息を吐く。期待はしていなかったが、有力な情報とは遠いものであったからだ。
追求した所でユリエは情報を言ってはくれなさそうなので、別の質問を投げかけることにする。
「それじゃあまた質問です」
「何かしら?」
「貴方達は、夢の研究をしている機関だってことはこの前聞きました。そして、今はエリちゃんの夢の中を捜索しているそうですね」
「その通りよ」
「それでは根本的なことなのですが、何故エリちゃんの夢を覗いているのですか? 他の人達ではなく僕の妹で、ごく普通の一般人であるエリちゃんを?」
ショーンの問いかけに、またしてもユリエは考え込む素振りを見せる。
「……難しいわ。何て答えたらいいのかしら?」
「包み隠さず話せば良いんじゃないですか?」
「それが出来れば簡単ね。だけどそれがダメなのよ」
「何でですか?」
「それは前にも言ったけど、このウサテレ聞いた音声と見た夢の映像は常時記録されているの。だから、下手に情報を漏洩する訳にはいかないのよ。だから抽象的になってしまうのだけれど、それでも良い?」
良いか悪いか聞かれれば、それは悪いと答える。しかし、ちゃんとは答えてくれないにせよ重要な情報源であるのは確かだった。ユリエは、優しくゆっくりと話していく。
「彼女は今、特殊な病気にかかっているの」
「特殊な病気?」
「ええ、それで私達はその原因を調べる為にと、今後の科学の発展の為、被験者として水瀬エリちゃんが見ている夢を調べることになったのよ」
「ちょっと待って下さい! それって本当に病気なんですか!? エリちゃんそんな風には見えませんよ?」
ユリエは目を背けるが、やがて一瞬だけショーンを見つめ視線を下へ向けた。
「……そうなのかもしれないわね」
「え?」
「病気であることは確かなのだけれど、心の病気って所だと思う」
「心の病気……ですか」
「ええ、たぶんね。憶測の域は越えないのだけれども」
凄く曖昧な発言が多かったが、彼女が答えられるのはここまでのようだ。
「それじゃあ後もう一つ質問を……」
「まだあるの?」
遠慮なくショーンは頷く。
「大丈夫です。これで最後にします。貴方達の言っていた単語の意味を教えて下さい」
「単語?」
「ええ……ファーストとかセカンドとか言ってましたよね?」
そう聞かれたユリエは、また渋い表情を見せる。やがて考えがまとまったのか口を動かしたその時だった。
「そいつは俺様から答えてやるぜ! ジャップボーイ!」
「きゃ!?」
小さな悲鳴と共にユリエを押しのけ、見覚えのありすぎる黒縁メガネにボサボサ頭、ハムのような巨体が姿を現した。
「デーブさん!?」
「今お前、俺のことデブって言ったな!? ああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ウサテレの画面内しばらく嵐のように映像が乱れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます