10
「あいつ逃げるみたいよ」
ルーナとメルが追いかけようと後ろ脚に力を込めた。
「大丈夫だよ、ゆっくり行こう」
そう言って、タマはひょいっと塀の上に登った。
「なんでそんなに余裕なのよ」
「ん?だって、あいつが逃す筈ないからね」
信頼しきった表情で言うタマの顔をルーナとメルは怪訝に、ノワールとチャッピーはのんびりと、モッチーはうんうんと頷きながら男の後ろを追いかけた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
ひったくりをした時とは違う、表情で男は道を走っていた。
最早、小遣い稼ぎどころではない。
原因は分からないが男は間違いなく、猫に狙われている。
「なんなんだよ!この町は!」
普段は地元でひったくりをしていたが、隣町が祭りであることを派遣先で聞いた男はたまには場所を変えようと軽い気持ちでこの町にきた。
それが今や、猫から逃げる為に必死になっている。
「くそ!今度見かけたら蹴り倒してやる」
にゃー
「幻聴まで聞こえてきやがった」
にゃー
にゃー
「にゃー」
ばりっ
黒猫につけられた爪痕に重ねるように白いモップのような猫の爪が容赦なく男の頬を裂く。
「にゃー」
トラ柄の猫が白猫の後ろから被さるように男の反対側の頬を引っ掻いた。
一体、どこから降ってきたのだろうか。
塀がないこの周辺にあるのは屋根ばかりだ。
「ま、まさか。こいつら屋根から狙ってきたのか」
だとしたら猫とはいえども運動神経がいいというものではない。
「うわあぁぁぁぁ!」
逃げられない、逃げられない、逃げられない。
暗闇に光る瞳に、可愛らしい鳴き声に音のない歩き方に…。
男は頭を抱えてその場に蹲った。
「俺が悪かった。なんでお前等が攻撃してくるのか分かんないけど許してくれ」
どんっと背中に重みが走った。
男を踏み台に猫達がぞくぞくと着地していく。
その衝撃に耐え、治まった頃に顔を上げると複数の猫が瞳を光らせて男を見つめている。
優雅に尻尾を振り、勝ち誇った表情で。
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