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灰色猫二匹は男を嘲笑うかのように、捕えようとする男の前へ後ろへ入れ替わるように移動していく。


ぐるぐるぐる…猫が一匹だったのか二匹だったのか、目眩が男の頭の動きを鈍らしていく。


それでも懸命に捕まえようと無茶苦茶に手を振り回し、灰色猫の尻尾を掴みかけたその時、サバ柄と三毛猫の二匹が容赦なく男の脛に齧りついた。


「いたああぁぁぁ!」


容赦なく食い込む猫の牙。


食い千切られるような感覚に陥りながら、男は二匹を振りほどいた。


くるくると空中で回りながら音もなく着地する二匹。


「な、なんなんだよ」


猫が攻撃してくる意味が理解できず、最早、恐怖しかない男の顔は少し青ざめていた。


間違いなく自分は狙われている。


確たる証拠はないが、確信はある。


男は手にしていた鞄を猫目掛けて放り投げると、逃げることを選択した。


もうすぐ電車も着てしまう。


明日も朝から派遣先で仕事なのだ。


その思いから猫のいない方向へ走り出す。


その姿は情けなくそして小さく見えた。

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