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それが何なのか…男の頭は即座には理解できなかった。


黒い影は男の顔に鋭い爪をたて、落ちてきた速度そのままに頬を容赦なく引っ掻く。


その直後に訪れる激痛。


「うあぁ!」


大声をあげる訳にもいかない男は、小さく呻きながらその黒い影の正体を見た。


黒い毛並み、金色の瞳の猫。


まるで王であるかのような威厳を放ったその姿は一瞬、見惚れてしまう程に美しい。


(関心してる場合じゃない!)


理由は分からないが、男は黒猫に襲われたのだ。


(縄張りにでも侵入したのか?)


ふーっと毛を逆立てている黒猫に気圧されながら、男は来た道に戻るべく背中を向けた。


(確か一本前の道を左に曲がれば駅に行ける筈)


再び走り出そうとした男の足元をぬるりと何かが動いた。


(えっ!?)


思わず不自然な体制で止まってしまった男は、そのままバランスを崩して倒れこんだ。


にゃー


のんびりと欠伸をしそうな鳴き声をあげながら、黒ぶちの猫が顔を洗っている。


どうやら男が転んだ原因を作ったのはこの猫のようだ。

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