祈り

「や……やめてくれ! こ、殺さないで……」


 武器を持ってた時は自信満々だったのに……いざこうやって逆に武器を突き立てられる側になると、こうなる。だがそれも仕方ないだろう。この人たちは多分騎士や、傭兵じゃない。ただのこの街の住民だろう。動きをみればそれがすぐにわかる。訓練を受けた様子は見て取れない。まあだからこそ、こんな簡単に上手を取ることができたわけだが……

 

「別に殺しはしませんよ。ただ落ち着いてほしいだけです」

「ならまずは武器を下ろしたらどうなんだ?」

「それはこちらも要求したいんですけど?」


 こっちだけ武器を下ろしたら、また襲われるかもしれないじゃん。向こうの奴らはまだ目が血走ってるもん。

 

「こっちが武器を下ろしたら、皆殺しにする気だぞ! この化け物!!」

「化け物……」


 それは初めて言われた。どうやら、反撃したことで完全に敵と思われてるらしい。仕方なかったんだけどな。だってこうしないと、膠着状態にもできなかった。いくら実力差があるといってもこんな狭いなか、囲まれて襲われたら、いつまでも気概を加えないなんてやってられるか。そんな事してたら、流石にやられる。だからこれは仕方なかった。

 

(こうなったらいっそ、奴ら全員の武器を叩き落すか?)


 それが早いような気がしてきた。多分皆、武器を持ってるから強気になれてるんだろう。それならば、その心の拠り所をなくしてしまえば話しを聞いてくれる。最悪、脅して命令を聞かせることもできる。

 

(うん、それが手っ取り早いな)


 少しばかりケガさせてもここは教会……それにメルルもいる。どうにでもなるさ。俺は前の男たちをキッと強く見る。その視線にたじろぐ男たち。

 

「殺しはしませんよ。ただ、無力化させてもらう!」


 俺はそういって動き出す。けどその時声が響いた。

 

「や、やめてください!」


 それは最初に聞いた声。奥に引っ込んでたシスターだ。

 

「シスターあぶねえぞ。あいつは俺たちを襲おうとしやがった!」


 おいおいだよ。ねつ造すんな。最初に襲われたのはこっちだよ。俺を凶悪犯みたいに言うなよ。けどシスターはしっかりと俺を見つめてくる。その眼には怯えとか疲れとかが色々と見えるが、見極めようとしてるのはわかる。

 

「貴方は……外の者達とは違うのですか?」

「奴らと同じに見えるのか? 俺はまだ生きてるだろ?」

「それではあの魔物は?」

「それも言ったはずだ。あれは仲間だ。一緒に旅してる」

「魔物……と?」


 確かに珍しいかもしれないな。けどいない訳でもない。ゴブリンはいないかもしれないけどな。知性がある魔物は使い魔にするのは難しいと聞くしな。

 

「いろいろとあったんだ。大丈夫、あいつは人に危害を加えたりしない」

「そんなの信じられるか! 魔物は敵だ!! 騙されちゃいけねえぞシスター!」

「そうだ! 奴を中へ入れるときっと暴れだすぞ!」


 シスターは周りの声を聞きつつもこちらへの視線は外さない。

 

「この方は……正気のように思えます」

「「「シスター!」」」

「武器を下ろしてください。もしかしたら、彼らは神がお導きになった私たちの救世主かもしれません」


 救世主……か。確かに勇者ならいるけどな。あんまり頼りにならない勇者がさ。でもこれで……なんとか受け入れてはもらえそうだ。祈るポーズをしてる彼女を見て、男たちはその武器の構えを解いていく。流石に手放す……ってことはしない。けど、十分だろう。

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