洗礼

 どうやらドラゴの奴が上手くやってくれたようだ。自分たちは教会内部へと招かれた。ブリンやうさオーク、それにスライムは流石に警戒されてるけど、うまくやってくれたようだ。

 

「よ、ようこそ神の庇護下の元へ。この中は皆が平等に庇護を受けられる場所です。どうかご安心を」


 シスターさんが震えながらそういってくれる。かなり無理してますねこれ。でもドラゴ曰く、この人のおかげでみんな納得してくれたようなので感謝だ。流石神に仕えてるだけありますね。神に仕えてるからこそ、魔物とかを絶対に受け入れられないって人たちもいるんだけどな。けどこの人はそこまでではないよう。

 

「ありがとうございます。こんな自分たちをうけいれてくれて」

「いえ……そうでもしないとこちらにも被害が……」


 ん? なんかとてもひきつった顔でそういうシスター。自分はドラゴの方を向く。うまく説得したとかいってたが、それ本当か? 一体どういう説得をしたのやら。まあだけど、穏便に……なんてのは無理だったのかもしれない。ドラゴを責める事は出来ないな。僕たちは挨拶して奥に行こうとした。けどそれは止められたよ。

 

「あの……失礼ですが、そちらの方々を他の方々の前に出すのは……余計な混乱を招きますので」

「……それもそうですね」


 確かに皆さん納得してないのにブリンたちの姿を晒すといらぬ混乱が生まれる可能性ある。

 

「部屋は既にいっぱいですが……使ってない倉庫があります。そこでよろしけば、そこで……いかかでしょうか?」


 びくびくとしながらもシスターはそういってくれる。こっちに拒否権なんてないよ。別に怖がらせる気ないし、確かにそっちの方がいいと思う。なので自分たちはその倉庫に案内してもらった。埃っぽい部屋だけど、贅沢はいってられない。とりあえず茣蓙を引いてそこにブリンを寝かせた。うさオークも隣に置いとく。

 

「あの洗礼は受けれますか?」

「魔法使いの方ですか? 私でよければ」

「お願いします」


 教会の洗礼を受けれれば、魔導士はその魔力を回復できる。だからメルルはそれを願ったんだろう。理屈はよくわかってないが、神の御加護だって言われてる。本当は色々と聞きたいことがいっぱいだが、まずはブリンとかうさオークとか回復させたいしな。そっちを優先するべきだろう。あとは瘴気を取り除く聖水も必要だ。

 

「聖水はありますか?」

「はい、ここは地下水と直結してますので、井戸からくみ上げて、毎朝祈りを捧げて作ってますので。なのでこの教会はまだ無事なのです」

「なるほど、それはすごいですね」


 聖水を自給自足できる教会なんてそうそうないと思う。普通は、少しずつ貯めていくものだ。だって普段の水は生活水とか料理とか、色々と必要になる。それの残りで聖水を作るってのが普通だからだ。けどここは違うようだ。地下水が丁度真下を通ってるから井戸で幾らでも地下水を汲み上げられる。そしてそれを聖水に変えることで、普通では考えられない聖水の貯蔵が可能となってると。

 

「今、お持ちしますね」


 そう言ってシスターは倉庫を後にする。とりあえず一息つくことはできた。次はこの先を考えなくちゃいけない。けどそれもシスターに話を聞かないと始まらない。こうなった原因はなんなのか? 原因まではわからなくても、きっかけとか変化とか……そういうヒントが必要だ。どれだけやれるかなんてわからない。でも自分は勇者だ。

 やれることはできる限り……やりたい。自分は扉に手を掛ける。

 

「少し中の様子見てくるよ」

「気が滅入るだけだと……思う……けど」


 メルルの奴がやな事いう。そうかもしれない。だってずっとここにいて、外はあんなで……みんなが陽気に暮らしてるわけないんだ。けどそれでも見ておかなきゃだろう。勇者として。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る