第40話 攻め時
逃げてくオーク。ブリンは無理にそれを追おうとはしない。けどその後方からは逃げるオークに向かって投げつけられる石や枝。虎の威を借る狐の如し……ゴブリン達は煩いぐらいに騒いでる。それだけ嬉しいんだろう。序列的にゴブリンはオークの圧倒的に下に位置してるんだろう。魔物たちこそまさに弱肉強食の世界。弱い奴等に権利なんかなく、今まではオークに従うしか無かったんだと思われる。
それなのに自分達と同じゴブリンであるブリンがそのオーク共を退けた。それはもう言い表せない感嘆とした気持ちなんだろう。奥から再び年老いたゴブリンが出てきて、何か草を渡した。それをブリンが口にすると幾分か傷が治ったように見受けれる。薬草だったみたいだ。けどそこまで質はよくなさそう。まあそもそもそのままだったしな。
人ならそこは回復液として抽出するんだけどね。そもそも草を直接食うなんて人にはハードル高い。
「メルル、ブリンに回復魔法出来ないか?」
「あそこまで……注目されてると無理」
「アイツに詠唱する振りさせれば行けないか?」
ドラゴのそんな提案にメルルはブリンに向かって念話を飛ばしてる。そして自然に頷いたブリンは目を閉じて詠唱するフリを初めた。そしてそれに合わせてメルルが魔法をドラゴに掛ける。それを見て更にゴブリン達が驚く。魔法が使えるゴブリンも居るけど、前でも戦えて魔法も使えるって奴はそうは居ないだろうからね。まあそんな奴、人にもそう居ないけど……だからブリンはさらなる羨望の眼差しを集める事になった。
まさにゴブリンたちにとっては信じられないほどの天才に見えてるんだろうな。勇者なのにあんな目で見られたこと無いよ自分。
とりあえず一回集落の中央にもどったゴブリンの皆さんは何やら話し合いを始めてた。相も変わらず理解は出来ないが、なんとなく雰囲気で伝わる。どうやらここでゴブリン達はオークに反旗を翻す気のようだ。武器を持ってそれを高らかに掲げてる奴等がガヴガヴ言ってる。けどそれに不安を感じてる一派も居るようだけど……でも既に賽は投げられたからな。
だってもうオークを追い返してしまってる。あのオークはきっと他のオークへと報告してさらなる数を率いて戻ってくるだろう。ここのゴブリン達を殺しに……だからもう猶予も選択肢もない。ゴブリン達も結局それをわかってるから最終的にオークたちへとカチコミに行くことにしたようだ。急いで逃げるって手もあったと思うが、ブリンがいるから気が強くなってるんだろう。
大急ぎで武器をかき集めたゴブリン達はいきり立って集落を出発する。もうすぐ、この森でオークとゴブリンの抗争が始まる。
(あれ? 自分達目的見失ってないか?)
そう思うが、この流れはもうどうしようもない。ブリンもそうだろうし……なるようになれとやけになるしかない。森の空気の変化を察してか、鳥たちがバタバタと飛び去って行ってる。
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