第29話 ガベラガベラ

 街から出て早速街道から逸れる。向かうは昨日の森の辺り。入ることはないけどそこからり「おーい」と呼びかけるとガサゴソと草木が揺れて一体のゴブリンが現れる。


「ぼんどうにいいのが?」

「そっちこそ、心は決まったか?」


 ゴブリンの質問に、質問で返す。だってこっちはもう決心できてる。二人も説得したしな。だからこっちが答える必要はないかなと……そういう態度を示したつもりだ。


「ぼれは……」


 そう呟いてゴブリンは森の方へ顔を向けた。やっぱり寂しいのだろうか? ずっとここで育ってきたわけだろうしな……でもこいつはもうここの仲間の元へは戻れなかった。ただのゴブリンではなくなってしまったからだ。

 人もそうだけど……違うやつってのはつまみだされる。いられない空気を作られる。それを気にしない程のバカなら楽なんだろうけど、こいつは妙に賢くなってしまったからか、それを無視できないようだ。

 そしてその変化は、他のゴブリンには異彩に映る。誰も近づこうとはしなかった。その光景は結構いたたまれなかった。 もうここに居場所はないと、こいつならわかってる。だから、誘ったんだ。


【一緒に来ないか?】


 背中を見せてるゴブリンは心なしか寂しそう。いや、心なしではないだろう。寂しいんだ。もしかしたら時間をかければ分かって貰えるかもしれない。その可能性だってなくはない。

 だって時たま聞くだろ? 全く違う種類の生物が違う種の子供育てるとかさ。そういうこともなくはない。それに一応ゴブリン同士ならその可能性だって少しは高いのかも……どのみち選ぶのはこいつだ。


「どうする? 僕たちと来るってことは魔王に戦いを挑むことになるけどな」

「おばえ……ゆうじゃだっだな」

「ああ、僕は勇者だ。だから魔物のお前には辛いこといっぱいあるかもしれない」


 そもそも勇者は魔物から世界を救う存在だからな。そんな勇者に組するとなれば、魔物社会からは裏切り者扱いだろう。まあ魔物社会があるかは知らないけど……でも魔王とかの階級があるのならなくはなさそう。

 そんなことを考えてるとゴブリンの奴が「ガベラガベラ」と笑った。いやなんだよその笑い声。ゴブリンってそういう風に笑うんだな。


「決めだ。いっじょにイグ」

「そっか。やっぱやめたとかなしだぞ。魔王のとこに行くまで絶対に帰さないぞ」


 変な脅しを入れる自分は何を言ってるのだろうとちょっと思うけど、最終確認みたいなものだ。けど振り返ったゴブリンを見てそんな必要はなかったと思った。だって吹っ切れたみたいな顔してたから……ゴブリンのくせに。


「ぼんだいない! でぼおではゴブリンだ。いつおばえだちにぎばを向けるがじらないぞ」

「そうなったら、何か理由があったんだと反省するよ」

「……おばえは、ぼんどうにおがしな奴だ」


 そう言って再びゴブリンは「ガベラガベラ」と笑った。やっばりその笑い声はおかしくて、自分たちも笑ってしまう。晴天の青空の下、魔物と人の笑い声が響いてた。

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