第28話 悪くない

 「さて、行くか」


 ギルドから出て、自分たちは出発する。王都から出る時にはなかった見送りが今回はある。


「期待してるぞ! 魔王なんて打っ飛ばせ!!」

「はは、頑張ります」


 デンドさんのその言葉に笑いながらそう返した。期待……いい言葉だ。シンさん達にも別れを言って街の外に。もっとゆっくりして疲れを取りたいところでもあったけど、そんなにのんびりもやってられない。

 魔王の侵攻は勢いを増してるからな。自分の双肩に乗るものはとても重い。まあ今までは誰も期待なんてしてなかったけど……けど、認めてくれる人がいる。それだけて少しは世界もついでに救ってやろうと思える。


「新しい剣も貰ったし、傷も完治してる。通行証もあるし、問題ないな」

「確かに食料とか水もたんまり領主から頂戴したけど……お前、本気か?」


 ドラゴの奴が何やら不満げに言ってくる。一体何が本気なのか言えよ。それじゃあわからないだろう。


「だからあのゴブリンだよ。お前本気で……連れてく気か?」

「まずいかな?」


 もう何回も話したし今さらだけどな。けどドラゴは最後の確認という感じなんだろう。なんとか心変わりしないか期待してると見える。そんなわけないのに。一応聞いてあげよう。そっちの言い分を。


「まずいだろ。もしも魔物を連れてるのがバレたらそれだけで面倒だしな」

「その時は最悪、勇者ってことをバラせば捕まりはしないだろう。この通行証はそれなりだし、信じてもらえるかも」


 勇者の剣があればそれが身分証になるのにケチな王様がくれなかったからな。悔やまれる。どうせ勇者にしか使えないんだし渡してくれればいいのに。あの剣だってあのまま刺さっててもつまらないだろうしね。

 勇者の剣は王城の地下の所にまさに引き抜いた者が勇者だ! なんて体で刺さってた。けど見ただけで触らせてももらえなかったんだよね。何か聞こえた気がしたんだけど……それ以上はわからなかった。

 その時には自分には剣も魔法も才能ないとわかってたからな。多分もう勇者として期待されてなかったんだろう。


「それでも−−メルルもなんか言えよ。何にも言わなかったら、どんどん都合悪くなるんだぞ? お前はいいのか? 魔物と一緒でも?」


 ドラゴの奴はいっさい言葉を放ってなかったメルルに振る。その瞬間ビクッと肩を跳ね上げるメルル。何やら昨日からずっとデカイ本読んでる。流石に食事中とかは読んでなかったけど、昨日からずっと肌身離さず持ってる。

 報酬としてもらった本なんだけど……自分には何が書いてあるのかまるでわからない。それを嬉々として読めるメルルはやっぱりすごい。それだけその本にかいてある事に惹かれるってことなんだろう。

 そっとしといてやれよなドラゴ。それにメルルには一応の許可は取ったんだ。本読んでる時に「いいよな?」と聞いたら頷いてた。


「いやそれ、絶対こいつ聞いてなかっただろ。今の表情みろ。なにそれ? って顔してるぞ」


 確かにメガネの奥の瞳が見開いてるけど、やっぱりダメかな? 


「知らない……けど、ルドラのしたいようにすればいい」

「よし、流石メルルわかってる」

「お前な……」


 ドラゴが何か言おうとした時には既にメルルは本へと視線を落としてた。こいついつでもどこでも本読めるんだよね。歩いてても見ずに障害物とか避ける。一体どういう仕掛けなのか……でもこれで二対一だ。数の優位をとった。


「ドラゴ、お前の心配はよくわかる。けどさ、面白いと思わないか? あのゴブリンしゃべれるし、案外賢いと思うんだ。それに悪くないと思う」


 真面目なトーンで自分はドラゴを見つめる。実際、ドラゴは正しいよ。魔物と旅するなんて厄介事が増えるだけ。けど、勇者が厄介事を避けてちゃいけない気がする。それに……そう、悪くないんだ。

 自分は……やっぱり魔王だけしか倒せないと思うから。だからこそ……悪くない。


「はあ〜わかったよ。そういう顔するとお前は折れないからな」

「よし、じゃあさっさと迎えに行こう!」


 そう言って自分達はサングリアを後にした。天気は快晴なり。新たな仲間を迎えるには最高の日だ。

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