第27話 報告
「ふぇ……」
目覚めるとそこには見覚えのない天井があった。自然と右手で支えて体を起こす。痛みはない。動きも大丈夫。流石は神職しか使えない再生魔法。その効果は抜群だ。昨日帰って早速教会に行ったからな。
そのあとに領主の所に行ったらとても驚かれた。それはそうだろう。自分は帰って来るはずではなかったんだろうからな。その小さな目を見開いてそれはもう驚嘆してた。そして事情を聞いて青ざめてたね。
まさか騎士がほぼ壊滅するとは思ってなかったんだろう。誰の思惑かは冒険者ギルドのマスターが色々と話を聞くとか言ってた。ギルドは自主性が高いから領主も無視できないみたい。
それにギルドは領にも利益をもたらしてて、それぞれ支え合って上手くいってる。だからギルドは領主にもそれなりに強く出れる。
「起きたかルドラ。どうだ右手の調子は?」
「おう、問題ないかな」
そう言って自分はドラゴが入れてくれた紅茶を飲む。こいつがさつそうに見えて意外とこういうの出来るんだよね。まあ自分も出来るんだけど、やっぱり出がいいドラゴの方がうまい。
こういう事でも勝てないというね……まあそれはいい。
「うん、相変わらずうまいな」
「昨日、良い奴を領主からもらったからな」
もらったというかなんというかだった気がするが……いや、おかげで朝一で美味しい紅茶が飲めたんだし良いか。
「さて領主は何か吐いたかな?」
「どうだろうな。あの領主もそこまで詳しいわけではなさそうだしな。そっちよりも騎士団の方が脈あるかもな。向こうは王都直轄の部隊なわけだしな」
「確かにな……」
実は事情を聴いてるのは領主だけではない。この街に駐屯してる騎士の団長さんにも事情を聴いてる。あの森に騎士を派遣させてたのは実質的には騎士団の団長の筈だしな。領主は協力はしてても主犯とは言えない。
「飯食ってギルドに顔だそう。メルルも待ってるだろうしな」
「そうだな」
そう言って自分たちは着替えて下に降りていく。それなりの宿屋なだけあって朝も賑わってる。その一角で縮こまってるメルルを見つけた。大勢の中は苦手だからな……一人で待つのはメルルにはなかなかきつそうだ。
もう一人女の子がいればメルルも寂しくなくていいんだろうけど、そうやすやすと旅の仲間なんて見つかるわけもない。しかもこんな最弱勇者について来ようなんてそんな奴はそうそういない。
まあとりあえず今は一人いるんだけどね−−候補が。でもそいつはこれからどうするかはわからない。自分たちが強制なんてできないしね。
「よっメルル」
「おはよう……」
それだけのメルル。でもいつもこんな感じだ。なのでさっさと注文する。そしてささやかな朝食を無言でとってギルドへと行った。
「お待ちしておりました皆さん」
ギルドに入ると職員の女性に早速呼ばれた。そしてギルド長の部屋へと通された。老齢の貫禄あるその人は余計なことは言わずに本題に入る。
「説論からいうと、どちらも勇者を亡き者にするという目的以外は知らないようだ。この赤い石……これは王都の本部から送られてきたようだが、詳細はわからないとのことだ」
「そうですか」
ギルドマスターのその人は、机の上に赤い石を袋ごと置いてる。それは明らかに自分たちが集めたのよりも多い。だから聞いてみた。
「これは?」
「騎士から提供してもらった。何かわからないというのでな。こちらでも調べようと思ってな」
流石に機密そうなこれを騎士が快くくれるとは思えない。何かやらしいことでもして騎士から提供させたんじゃないだろうか?
「まあ、あいつらもやりすぎたとは思ってるということだよ。騎士とは本来誇り高いからな」
その言葉に自分たちは頷いた。騎士はこの国を守る最後の砦。だからこそ誇り高くあるべき存在。その騎士が魔物を凶暴化させてたなんて酷く不名誉なことだ。だから騎士の団長もそこらへんは反省したのかもしれない。
「誇りか……勇者を殺すことがか?」
ドラゴがそう問いかける。だけど、それにもギルドマスターは声色一つ変えずにいうよ。
「新たな勇者の出現……それがこの世の為、それは騎士団も領主も疑ってはないようだ」
だからこそ、乗ってきた……ということだろう。知ってたさ。自分が誰からも望まれてない勇者だってこと。だから目の前のこの人にも聞いてみたいと思った。
「あなたもそうですか? 勇者は代替わりした方がいいと思いますか?」
「……そうだな。正直、今回のことがあるまではそう思ってた。勇者は唯一魔王を倒せる存在だからな。弱い勇者なんて求められてない。勇者が弱いと世界が終わる」
つまりはそういうこと……そう思って自分は視線を下にした。けどギルドマスターはさらに続ける。
「だがな、歴代の勇者が魔王を倒せなかったのもまた事実だ。どんな勇者なら……いやどんな奴なら世界を救えるのか……それは誰にもわからない。そしてギルドの奴に聞いたお前の事。
今では案外悪くないんじゃないかと思ってる」
それはなかなかに嬉しくて、またまた鼻がツーンとしてくる。自分は少しは認められたのだろうか? そうだと嬉しい。暖かな日差しが心までも染みる……そんな気がした。
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